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波乱万丈勉強会

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◆理科の章「Gのつくアレなんか見てません」

「追試にさえ合格すれば良いだなんてナンセンスです!」
 そんな魂の声を上げたのはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)だ。お手製の台に乗り、演説のようなものをしている。
 クロセル自身はインミンの生徒だが、蒼空学園生の意識を改革せねば! という使命感に燃えていた。
「本当に追試に合格するだけで良いのですか?」
 ディーヴァであるクロセルの声は、不思議と聴衆を集めた。
「試験とは本来、知識が如何に定着しているか量るためのもの。付け焼刃の知識で合格したところで、それが一体何になりましょうか!?
 蒼空学園の成績悪化が問題と嘆いている者も中にはいるでしょう。ならば、こんな一夜漬けみたいな勉強は、本末転倒です」
 中々厳しいことを言っているのに周囲から反対の声はしない。誰もが聞き入っていた。正論であることはもちろん、彼の喋り方が上手かった。聴衆の中には涙ぐんでいるものもいるほどだ。
 そんな反応を見て、クロセルの演説にも力が入る。
「締め切りが近付いてきてから慌てて勉強するようなスタイルを続けていては、社会に出てから苦労しますよ。
 それならばいっその事、留年してやり直せば良いのではありませんか? それが嫌なら、今後は生活スタイルを改める事です!」
 言い切ったクロセルに拍手が送られる。
「うん、俺間違ってたよ。そうだよな。こんなことしてたら、社会に出て行けないよな」
 やたらと感動している男子生徒がいた。実は彼、OBKのメンバーである。クロセルの演説を盛り上げ、騒音で勉強会を妨害しようとしていたのだが、クロセルにひどく感銘を受けたようだ。
 OBK。それはおバカさんの集まり……良い意味でも悪い意味でも純真なものたちが集まっているのである。
「クロセルさん、俺、がんばるよ。かあちゃんのためにも!」
「ん? ええ、がんばってください!」
 握手を求められたクロセルは、よく分からないながらも声援を送った。クロセルに応援してもらったOBKたちは意気揚々と、勉強会へと混じった。……それでいいのかOBK。

 他にも衝撃を受けたものもいた。
「なるほど! ああして群集の心理を掴むことにより世界を征服していく、そういうことか!」
 もうお分かりかもしれないが、勉強会に参加すれば世界征服ができると信じているドクター・ハデス(どくたー・はです)である。何やら燃えている。
「えーっと、この問題が分からないんだけど」
 ランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)が問題集を見せて、そんなやる気満々のハデスに問いかけると、
「その答えは3番だ……なぜそうなるかだと? それは天才科学者の勘だ!」
「勘って……あ、合ってる。お前、すげーな!」
 答えを見て素直に感心するランディ。はっはっは。と高笑いするハデス。お願いだ。誰かツッコミを。ツッコミをしてくれ。
「ククク、科学者としての勘を磨くには、実際に経験するのが一番! さあ、実験だ! 準備を」
「かしこまりました、ご主人様……じゃなくてハデス博士」
 そんな天の叫びは無視され、ハデスに答えるのはパートナーのヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)。ハデスに言われたとおりに準備をしていく姿はテキパキ、とは程遠い。
 たぶん、フラグが立った。


 理科が苦手だと集まったのはランディ・ガネス(らんでぃ・がねす)蜂須賀 イヴェット(はちすか・いう゛ぇっと)及川 翠(おいかわ・みどり)ミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)アリス・ウィリス(ありす・うぃりす)である。
 教えるのはハデス、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)だ。理科と一概に言っても範囲は広いのだが、ハデスは科学、エヴァルトは物理、アルテッツァが生物、と見事に分かれているのは、ありがとうございますとしか言えない。
 一度に教えても混乱するだけだろう。3人は話し合い、物理から始めることにした。ハデスは実験の準備に取り掛かり、アルテッツァは全体の様子を見ながら【OBK】への警戒をパートナーたち、つまり六連 すばる(むづら・すばる)親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)に呼びかけている。
「教えるとはいえ、学年がバラバラだしな。分からないところがあれば聞いてくれ」
 物理担当のエヴァルトはそう言った。
「あなた……エヴァルトだっけ? ちょっといい?」
「どうした?」
 頭を抱えつつテキストを睨んでいたイヴェットが声を発する。語学に関しては自信のある彼女も、理科に関してはあまり得意ではない。せっかくの勉強会。分からないことを聞かなければ損だ。
 そんなイヴェットのテキストを覗き込んだエヴァルトは、ああと頷いた。
「これはテコの応用だな」
「テコってあの?」
 イヴェットが目を丸くする。もちろん彼女もテコの原理については知っているが、それをどう使えばこの問題が解けるのだろう。首をかしげるイヴェット。
「てこ? ってなんだ?」
 よく分からない、と横で首をかしげるランディのために、エヴァルトは黒板を使って基礎から説明していく。
「長い棒と、支点となる岩でもあれば、ラヴェイジャーほどのパワーが無くてもイコンをひっくり返すことができる。喪悲漢や離慰漸屠程度ならもう少し短くても大丈夫だ。
 昔の人は『地球さえ動かしてみせる』とか言ったそうだが、条件さえ揃えば不可能ではない。テコの原理とは、そういうものだ」
「地球も動くのか!」
 黒板の図を見ながら?を頭に浮かべていたランディが、その一言に食いつく。
「そうだな。シーソーを思い浮かべると分かりやすいかもな」
 ただの棒であったものに棒人間のようなものを書き込み、ランディにイメージしやすいようにする。すると理解できたのか。ふさふさの尻尾が大きく横に揺れ動く。
「あ! 分かった。理沙が軽かったのはそ」
「ランディ? 何が言いたいのかなぁ?」
 何かを言いかけたランディに笑顔で声をかけるのは、白波 理沙(しらなみ・りさ)。パートナーの様子を見に差し入れを持ってきたところだ。手にはチーズケーキがある。ランディの目がケーキに向かうが
「変なこと言ってると、あげないわよ」
「っ! ちゃんとやってる。だからケーキ」
「はいはい。後であげるから頑張って」
「おうっ俺がんばる」
 再び勉強し始めたランディの横で理沙がその様子を見守っている。どうやら真面目にやっているらしい、と理沙は満足げに頷いた。
「っと悪い。で、イヴェットの質問だが」
 エヴァルトは問題の解き方を丁寧に説明していく。イヴェットは時折感心したように相槌を打ちながら真剣に聞いた。聞くだけでなくノートにもしっかりと書きとめている。
「そうやって解くんだ……あれ。ということは、もしかしてこの問題も?」
「ああ、今ので解ける」
「ありがとう。やってみるよ」
 問題に取り掛かるイヴェット。ペンが止まらず動いているので、上手くいっているようだ。エヴァルトはその様子を見て一息つく。中々、他人に教えるというのは難しい。
「エヴァルトさん、ちょっといい?」
 次に手を上げたのは及川 翠(おいかわ・みどり)だ。彼女は特に追試があるわけではないが、パートナーのアリス・ウィリス(ありす・うぃりす)の成績が危ない、ということでもう1人のパートナーであるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)と共に参加した。
「どうした?」
「熱? についてがよく分からないの」
「なるほどな。熱の話……あー、そういやハデスが実験道具いろいろ持ってきてたな。ちょっと待っててくれ。借りてくる」
「何か実験するのかな。楽しそうだね。翠ちゃん」
「うん、楽しみ。どんなだと思う?」
「そうねぇ。……。ま、いい機会だし、たくさん学んで帰りましょ」
 楽しみにしている翠とアリスに、ミリアが微笑んで言った。
「あ、これ差し入れなんだけど、どうぞ」
 そんな彼女たちのところに1人の生徒が近づいて、サンドイッチを差し出した。勉強を始めて大分時間が過ぎている。ちょっとお腹が減り始めていた翠は喜んでサンドイッチを受け取り、一口食べた。
「いただきま〜す。あむっ……〜〜〜っ!」
「私もいただ……翠? ちょっとどうし」
「辛いの!」
「翠ちゃん大丈夫? はい、お水」
 突然悶絶し始めた翠にアリスが慌てて水を差し出す。ミリアはまさか、と思ってサンドイッチの中を見た。黄色の何かがたっぷりとかかっている。からしだ。
「差し入れにあんな辛いもの入れるなんて酷いの! そんな酷い人たちは許さないの!」
「ちょっと翠落ち着いて」
「翠ちゃん、私も手伝う。こんなことするなんてひどい」


 時間は少しさかのぼる。
(なるほど。マルトリッツ君は中々教えるのが上手ですね。ボクも負けられません)
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は、関心しながら勉強している生徒たちを見ていた。問われれば優しく丁寧に接し、本人に答えを導かせていく姿はさすが現役の教諭である。
(さてさて。OBKとやらは来ますかね?)
 OBKの噂を耳にしたアルテッツァは【情報攪乱】でOBKを混乱させていた。今頃、誰もいない教室で首をかしげているかもしれない。真面目に参加しようとしている生徒たちには申し訳ないので、【ディテクトエビル】を持つヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)に、無害な生徒をこちらへ誘導するように頼んでいる。
 そんなレクイエムは、偽の教室へ入ってきた1人の生徒に目を留めた。
(……どうやらこの子は違うみたいね)
 静かに近寄って行き、他の生徒にばれないようメモをそっと渡す。その生徒はメモを読んで、レクイエムに一礼した後正しい教室へと向かっていった。
(さて、他にはいなそう。残った子たちには、【サンダーブラスト】で電気椅子ごっこでもしてやろうかしらん? あ、もちろん手加減はするわよ)
 教室から悲鳴が上がった。
(レクイエムがいる教室の方、ということは、どうやらマスターの【情報攪乱】が効いたようですね)
 六連 すばる(むづら・すばる)は、罠を仕掛けていた手を少し止めて順調に行っているらしいと知る。
 ある程度トラップを仕掛け終わった後、すばるは教室に戻りそのことをマスター(アルテッツァ)に小声で報告し、入り口付近で勉強のフリをしている親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)の隣に着席した。夜鷹の勉強を見るフリをしながら警戒を続ける。
 夜鷹は本来ならば他の生徒同様、追試のために勉強をする立場なのだが、今回はOBKを阻止する一員としての参加だ。妨害者を見つけたら電気ビリビリとか火事ボウボウにして良いと言われており、それが楽しみで仕方ない。
「いいですか夜鷹。ここはですね」
 すばるの言葉を右から左へ聞き流しつつ、夜鷹は外へ意識を集中し、【殺気】を感じ取ろうとしていた。すばるはそんな夜鷹に呆れつつ、演技を続けた。
(帰宅しましたら、思いっきり勉強漬けにして差し上げます)
 夜鷹がビクリと肩を震わせたのは、そんなすばるの殺気を感じ取った、わけではなく。
「スバ、わしトイレだぎゃ」
 どうやら【殺気看破】に引っかかるものがいたらしい。あらかじめ決めていた台詞を言った夜鷹に、アルテッツァとすばるは頷いた。
「仕方ありませんね。逃げてはダメですからね」
「分かってるぎゃ」
 外に出た夜鷹は、教室へとやってくるGの(おもちゃの)群れと、後ろを歩いているOBKのメンバーを発見した。よろよろしているのは、おそらくすばるの罠に引っかかったからだろう。眠りかけている。
「オメーら覚悟するんだぎゃ。電気ビリビリ火事ボウボウなんだぎゃ!」
 まあ、問答無用で起こされるわけだが。


(ふむ。この調子なら問題なく勉強会を終われそうですね)
「遺伝は、パターン分けをすると簡単に考えられますよ。
 優性遺伝子をA、劣性遺伝子をaとして、表に書いてみてください」
 授業は物理から生物へと移行し、アルテッツァが教鞭を取っていた。
「きゃー!」
 そんな時に上がった悲鳴。何匹か……何機かのアレが教室へと入ってしまったらしい。
「ムシーーーーーーーーーーっ!」
 叫ぶエヴァルト。実は彼、大の虫嫌いである。
 錯乱して、【歴戦の魔術】を周囲へ放ち始めた。その隣ではカラシ入りのサンドイッチを食べさせられてご立腹の翠たちが【雷術】を使って犯人を見つけ出そうとしており、何か大変なことになっている。
「ん〜? なんかこいつ変だな」
「ちょっちょっとランディ! 何触ってるの」
 一方で、ランディはGの動きが変であることに気づき、近寄ってそれを摘み上げた。理沙は慌てて止めようとするが、近づこうとは決してしない。
「理沙、これおもちゃだ」
「え、おもちゃ? 本物じゃないの?」
「うん。なんかラジコンみたいだぜ」
 ランディの言葉を疑っているわけではないが、それでも気持ち悪いことに変わりはなく。理沙は彼にソレを捨てるよう言った。
「俺はロリコンじゃない!」
 そこで唐突にエヴァルトが叫んだ。……まさかラジコンとロリコンを聞き間違え……いや。そんなまさかあるわけがない。ないさ。無理やりすぎるということもないさ。
「誰も言ってないって。ちょっと落ち着きなよ」
 イヴェットのツッコミは正しいが、錯乱状態の相手には届かない。
 そんな時である。
「かしこまりました、ごしゅじ、ハデス博士。こっちの配線と、こっちの配線を繋げばいいんですね」
 ハデスに命じられて実験の準備をしていたヘスティアは、再度ハデスに声をかけられて後ろを振り向いた。
「え? 絶対、逆に繋ぐな? 了解しまし(かちっ)……あ」

 ボッカーンとギャグ漫画も真っ青になって逃げてしまいそうなコミカル? な音と煙が部屋に充満する。
 もうわけが分からない。
 実験の中心地にいたはずのハデスやヘスティアが無傷で、OBKのメンバーたちが白眼をむいているのは、お約束と言うヤツです。
「うむ。実験に失敗はつき物だ。はっはっは!」
 なぜか威張るハデス。
 しかしながら、実験の失敗効果? でエヴァルトや翠たちが平静を取り戻したのだから、人生。何がどう転ぶか分からないものだ。
「おい、大丈夫か?」
「びっくりしたけど、大丈夫。エヴァルトさんは?」
 基本女性には紳士的なエヴァルト。錯乱状態であろうと、とっさに翠たちをかばっていた。心配そうな翠に返事をしようとしたエヴァルトは、ずさーーーっと座ったまま退き
「俺はっロリコンじゃない!」
 壁に頭をぶつけて気絶した。翠とアリスが心配して駆け寄ろうとしたのをミリアが止める。
「近づかない方が彼のためよ」
 ……ぜひそうしてあげてほしい。
 ひとまず落ち着いた教室に、
「きゃっきゃうふふな展開、もといリア充の誕生を阻止するため、世のため人のためと言いつつほぼ自分のため。怪人モテナイ仮面、ここに参・上!」
 高笑いと共に現れたのは怪人モテナイ仮面に扮した茂手乃 乙女(もてない・おとめ)である。教室の中にあらかじめ侵入していた彼女は、ずっと出るタイミングを窺っていたのである……ロッカーの中で。狭いなぁ寒いなぁと思いつつ。
 そして先ほどのG騒動で悲鳴が聞こえ(黄色い歓声だと思った)、さらには登場シーンに欠かせない煙幕(ハデスの実験で出た煙)を見て、今こそ好機! とロッカーから飛び出たのだ。
 怪人モテナイ仮面に突き刺さるのは、???という目である。

「……あれ? お呼びでない?」

 その後、理科の授業を受ける怪人モテナイ仮面の姿があった。仮面を取ることを本人がかたくなに固辞したためそのままの姿なのだが、中々シュールな光景だ。


「なあ、怪人モテナイ仮面。その仮面はどうやって作ったんだ?」
「あ、ジロジロ見るでない! 仮面が厚紙で作った安物だということがバレるではないか!」
「厚紙なんだね」
「あ」