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古代の悪遺

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 scene2 Techno Wars 



「まずはロックを解除して、制御システムから故障箇所を特定するべきだ」

 幾つかの打ち合わせの後、そう方針が決まるのと同時。
 まず行動に移ったのは裏椿 理王(うらつばき・りおう)だ。
 クローディスら調査団が、理王達の到着前に作成していた制御室内の見取り図をじっと眺めると、事細かに機材の様子などが記載されたその図の内、幾つかのポイントの上を指でなぞった。
「この配置から考えると、制御装置に繋がる回線は、この辺りだと思うんだが」
 その地点をぐるりと赤く円で囲みながら「システムの系列が一つとは限らないだろ」と独り言にも近い口調で続ける。
「制御装置を介するのが駄目なら、別口から攻めればいい」
「ふむ」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)のパートナーである空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が、そんな理王の後ろからひょい、とその見取り図を覗き込んだ。そのままふむふむ、と位置を確認する様子に、リカインが訝しげに「狐樹廊?」と首を傾げたが、そんなリカインも他所に、印のつけられていた位置へと近づいた。
「時間が惜しいですからね。手っ取り早く行きましょう」
 言うが早いか、その手で壁に触れて集中すると、サイコメトリで情報を読み取っていく。それによって、最も接続の容易そうな回路を選別しようというのだ。
「……ん、ここですね」
 そう狐樹廊の示した場所を、いつの間にか傍に寄ってきていた理王のパートナー桜塚 屍鬼乃(さくらづか・しきの)が、しゃがみ込んで床のパネルをこじ開けにかかった。といっても、無理にこじ開けると何が起こるかわからないので、ピッキングで慎重に内部を露出させていく。
「そこだけじゃ足りない。次、よろしく」
 その間も、狐樹廊は見取り図にマークの付けられた地点を再びサイコメトリを使って位置を特定し、理王がその箇所のパネルをやはりピッキングを使用してこじ開ける。そうやって露出したコードやケーブルを選り分けながら、お目当ての端子を探り当てると、自らのパソコンに繋いだ。
「ビンゴ。この回線からなら、システムに干渉できそうだ」
『こっちもだ。ただ、あくまで出来るのは干渉だけだから、制御装置を動かすことはできないけどな』
 呟く理王に屍鬼乃がカタカタとキーボードを叩き、お互いのパソコン同士での通信で答える。近距離なら言葉でいいじゃないか、というツッコみは、画面を覗き込んでいない人間には不可能だった。
「故障箇所を探ることは出来るか?」
 ダリルの問いに、頷くと同時に、理王は屍鬼乃のバックアップを受けながら今現在アクセスできる全ての情報を吸い上げて解析をかけると、その中から、起動後直ぐに表示されたエラーメッセージを発見した。
「”非登録者の施設侵入を確認”……成る程、直ぐに警報が鳴ったのはこいつの影響だな」
 そうして発見したエラーに、リーン・リリィーシア(りーん・りりぃーしあ)のHCを経由してデータを整理しながら、皆に情報を共有化させる合間で口にする。
「本来は入り口で何らかの認識作業を行ってから施設に入るんだろう」
 だが電源の落とされていた施設の入り口は、侵入者を認識することが出来ず、ツライッツが主電源を入れたことで起動した防衛システムが、施設内に登録の無い”異分子”を侵入者と認識し、警備システムを発動させたようだ。
「軍事施設ならまあ当然だが」
 その点に関しては、皆も特に疑問は無いようだ。
 引き続きデータを吸い上げる理王達の、カタカタとキーボードを叩く音が制御室に響く中、他の面々も、ある者はデータの共有化を計り、ある者は機材を設置するのに勤しんだりと、それぞれの準備に取り掛かる。時間は刻々と過ぎていくのだ。制御室外で戦っている者たちのためにも、一秒とも無駄には出来ない。
 そんな緊迫した空気の中、ややして「これだ」と理王が声を上げた。
「障害を起こしてたのは、発射シークエンス移行の承認を認識する装置だな」
 大型の兵器の殆どは、銃などと違って引き金を引くだけでその殺傷力を破壊する武器とは違い、幾つも手順を必要とするものだ。特にこれほどの規模の兵器であれば、当然必要とされる筈の使用承認手続きを司る装置が障害を起こしていたのである。
「承認者の認証や確認なんかもすっ飛ばして、過去発動されていた発射命令を認識して、承認しちまったようだな」
 他の装置は特に故障した形跡は無く、”だからこそ”警報発令時の通常対応として、制御に対侵入者用のロックをかけたに過ぎない。
「しかし、過去の発動命令が残っていた、というのが解せないわね」
 眉を寄せながらの彩羽の呟きに、皆も一瞬沈黙する。
 だがその理由や原因を確かめるには、流石に歳月が経ちすぎている。

「兎も角、故障箇所は判った。直ぐに修理に取り掛かろう」

 その後も、狐樹廊のサイコメトリを駆使して、ピンポイントで故障箇所を探り出すと、古代の装置に触れた経験のあるアドバンテージを生かし、ダリルが主導を取って修復を始める。隣で、故障箇所周辺の機器部分を調べていた夏侯 淵(かこう・えん)が「ここもやられてるな」と呟いた。通電が悪くなっている部分がいくつかあるようだ。
「任せる」
 ダリルは一言で対応を淵にふったが、当の淵は僅かに「難しいな」と眉を寄せた。修復そのものは問題ないが、そのための細かい部品などが手持ちに無いのだ。
「物理的なものはどうしようもないじゃないか」
 淵が唸る。すると「足りないもの、教えてくれない?」と隣から声をかけられた。振り向くと、カチェア・ニムロッド(かちぇあ・にむろっど)が、自分の小型飛空艇とぽん、と叩いた。
「足りないものは、これから代用しましょう」
「……いいのか?」
 気前の良い言葉に、淵が一瞬躊躇ったように尋ねたが、カチェアは軽く片目を瞑る仕草をして見せると「問題ないわ」と心強く頷いた。
「こっちは後で修理できるもの。ケチくさいこと言ってる場合じゃないでしょう?」
「助かる」
 素直に頷き、分解されていく飛空艇の部品を淵が修理箇所と比べて吟味し、選んだそれをカチェアがはんだ付けセット等を駆使して、部分を修理していく。
 そうやって、急ぎつつも慎重に修理と続けていく中、回路をつなぎなおしたり、通電を確認したりと作業をしていたダリルが、ふと眉を寄せた。
「――……故障しているのは本当にここだけだな。他に影響が出てる様子はなさそうだ」
 本来喜ばしいことであるはずの状況だが、ダリルは何かが腑に落ちないらしく、表情が優れない。
「それがどうかしたの?」
 ルカルカも不審がって尋ねたが、いや、とダリルの声は歯切れが悪い。
「少し、引っかかるだけだ」
 呟くように言ったダリルの言葉に目を細めながら、あえてそれには割り込まず「修復はあとどのくらいかかりそうなの?」と尋ねたのは彩羽だ。
「この具合なら、10……いや、6分で何とかする」
「そう」
 確認し、彩羽は再び手元のティ=フォンに指を滑らせる。
 ダリルたちがハード面での修復を行っている最中、彼女らはハード面での戦いが行われていた。

 リーンがテクノコンピューターを駆使して、理王が解析したデータに基づき、直接制御装置の回線から制御システムへもぐりこむバイパスを作り、そこからシステムへアクセスを開始したところ、そこで妙に分厚い防壁と、いくつものダミーにぶつかったのだ。
「起動は甘いくせに、守りは堅いなんて矛盾した兵器ね」
 流石に兵器だけあって、どの部分にアクセスするにしても、当然のようにセキュリティがかかっているのだ。その上、警戒警報の発令によって、侵入防止のためのロックがかけられいる。何をするにしても、まずは侵入防止のロックを解除して、通常モードへ戻さなければ、制御そのものへのアクセスができない。
「その上で、セキュリティを破らないといけないんだから大仕事よね」
 愚痴るように言ったのは、セレンフィリティだ。言葉には出さないが、傍にいるエースの心境も似たようなものだろう。
 こちらの分担は、彩羽主導で理王がデータを収集、解析し、それを受けるリーンが防壁の対処を、セレンフィリティとエースがシステムの対応を、という配分である。それぞれが端末やパソコンなどと睨めっこしながら、黙々と指を動かしている、という見た目の地味な作業とは裏腹の、壮絶な時間との戦いを繰り広げていた。
「防壁もダミーも、単純だけど量が多すぎね。いちいち各個撃破してたららちがあかない。一気にふるいにかけちゃったほうが良さそう」
 リーンが送られてくるデータに独り言のように言いながら、理王を振り返る。
「ダミーごとこっちに振ってちょうだい。解除プログラムを組んで、まとめて防壁を破るわ」
「負担が大きすぎないか?」
 返される理王の問いに、リーンも頷く。
「ええ、だから引き受けられるのは、ユビキタスを使っても、第一から第四までよ」
「成る程ね」
 その意図を即座に把握して、口を挟んだのは彩羽だ。
「なら以降はこちらで受け持つわ」
「お願いするわ」
 リーンの方も、その彩羽の行動は盛り込んでいたらしく、直ぐに頷き、お互いの間でバイパスを作っていく。
 その会話を耳に挟んで、制御装置にかかりきりの港は別に、ロビーや通路の様子をモニタリングしていたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が「どういうこと?」とその疑問をパートナーへと向けた。どちらかと文系のセレアナには、その会話の内容がいまいちよくわからなかったらしい。
「フィルターをかけるから、残った奴はよろしくね、ってことよ」
 ユビキタスを使って、理王やリーンを通じて送られてくる解析データに対応するためのプログラムを組みながら、セレンフィリティがかなり大雑把にそう要約する。さすがに説明不足かと、隣でキーボードを叩いていたエースが「数は多いけど、本命を惑わすための類似ダミーだから防壁の属性パターンがだいたい同じなんだよ」と苦笑と共に遠慮がちに口を挟んだ。
「パターンが同じってことは、一度解除のプログラムっていうフィルターを作ってしまえば、あとはそこへデータを流すだけで防壁の解除ができるってわけだ」
 勿論、データそのものの容量が大きいため、たとえプログラムを利用しても全ての解析に時間はかかってしまうだろうが、自動化されれば手が空く、というわけだ。
「とはいえ、こっちも間に合うかどうかは正直、五分五分ね」
 プログラムを作成中のセレンフィリティがため息混じりに呟いた。
 ロックを解除次第、新たな制御用プログラムをシステムと整合させて乗っ取ることで、発射命令を取り消そう、というのだ。それに並行して、エースはそのプログラムに警戒警報の解除を組み込んでいく。現在稼動中の守護者たちのこともそうだが、警報が解除されない状態で制御装置を動かし、もし万が一、別の防御システムが発動しては敵わないからだ。
 そのプログラムの作成にもやはり時間はかかる。防壁を破ってからでは間に合わないため、同時に組み始めてはいるものの、入ってくるシステムデータとすりあわせ、適時修正していかなければならないのだ。
「それでも、やらなくてはなりません」
 エースをサポートするエオリアが、硬い声で言ったが、直ぐにその表情をからかうようなものに変えて「それに」と目を細めた。
「あなたがこと女性が関わる場面で、間に合わない、なんて失態をやらかすとも思えませんしね」
 冗談めかしたパートナーに、一瞬目を瞬かせたエースだったが、直ぐに破顔して「そうだな」と呟いてプログラムの構築に意識を集中させる。

「女性の危機を見過ごす訳にはいかないよ」