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忘れられた英雄たち

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 十一章 茜空の鉄槌使 中編


「オートバリア!」

 レナ・ブランド(れな・ぶらんど)が聖なる気を発し、味方全体の魔法に対する抵抗力を向上させる。
 続いて、パートナーのゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が対電フィールドを敷設して雷気に対する耐性を味方全体に付けた。

「行きますよぉー!」

 やけに間延びした声と共に、ナタリーが茜色のハンマーを振りかぶりながら突撃した。
 それをサーバルが迎え撃つ。

「んー、じゃあ派手にやり合おうか」

 サーバルは拳を握り、ナタリーに向けて振りぬく。
 しかし、相手はゾンビ痛覚が鈍くそれしきの攻撃では止まらない。

 ナタリーがハンマーを振り下ろす。
 瞬間、後ろからマクスウェルが手を撃ち軌道を逸らした。
 しかし、風圧でサーバルは吹っ飛ばされる。

「どういう力してんのよー……」

 サーバルの抗議に聞く耳を持たず、ナタリーはサーバルに追撃しようとした。
 けれど、ノートがナタリーに切りかかりそれを止めようとした。

「……予想通りですよぉー」

 ナタリーはハンマーを横に振りぬき、ノートを潰そうとする。
 そのどれもが必殺の一撃。一度喰らえば戦闘不能は確実。むしろ命を奪われかねない。
 しかし、ノートの足は止まらない。ハンマーとノートが接触する刹那。

「お下がりください、お嬢様!」
「キュィッ!?」

 パートナーの風森 望(かぜもり・のぞみ)がノートの首根っこを掴んで後ろへ放り投げた。
 あえなくナタリーのハンマーは空を切る。

「ふぅ、危うく潰される所でした」
「ゲホッゲホッ……潰される前に窒息してしまう所でしたわよっ!」

 ノートの抗議など聞く耳を持たず、望は火術と氷術をハンマーに唱える。
 狙いは急激な温度差により生まれる金属疲労。しかし、どうやら魔法を打ち消す力を持っているのかハンマーには魔法が通じなかった。

「――ならば、本体にぶっ放すだけですわ」

 望は氷術で大きな氷の塊を作り上げ、直接ナタリーに叩き込む。
 まるで岩のような重量を持ったそれはナタリーに突撃し押していく。が。

「……甘いですよぉー、こんなもの」

 ナタリーは爆炎波を放ち、氷術で出来た氷の塊を溶かし、打ち砕いた。
 傷は見当たらなく、効果は薄かったらしい。が、距離を開けることは出来た。

「行きます……!」

 すかさず、和輝が両手の拳銃で射撃を行う。
 放たれた銃弾は、ナタリーの右上腕、左肩、腹部、右脛に着弾したが全て鎧に弾かれた。

 しかし、和輝にとってそれは牽制に過ぎない。
 和輝はナタリーが反り返っている間、強化した足で地を蹴った。

「……!?」

 ナタリーが口元を吊り上げたのを、魔鎧のスノーは見逃さなかった。
 これはおびき寄せる為の罠。歴戦の防御術で気を配っていたスノーはそう判断した。

「和輝、危ないよ!」

 和輝はスノーの言葉で我に返り、頭上を見上げる。
 自分の頭よりはるかに巨大な茜色の鉄槌が自身に向かって振り下ろされていた。

「……っく、分かってる!」

 和輝は此方に向かってくるハンマーをスウェーで避けつつ、柄の部分を蹴りあげた。
 力の衝突、ハンマーの軌道を歪めた。それは曲芸じみた回避行動。
 ハンマーが和輝の隣に振り下ろされた。

「喰らえ……!」

 足を踏ん張り風圧にも耐え、和輝は武術とレガースによる強力なハイキックを繰り出した。
 ナタリーは頭を引くことで紙一重で回避。振り下ろしたところからハンマーで横薙ぎをする。

 しかし、和輝はバックステップで再度距離を取った。

 地上では少し分が悪い。
 そう思ったナタリーは背中から光の翼を生やし空へと飛んだ。

「むー……、仕方ないなぁ。やっぱあたしの真価は空ですねぇー」

 地上とは違い振り回しながらも移動出来る空中戦。
 それは、ハンマーのように隙が出来やすい武器の使い手には適していた。

「さぁ、こっからが本番ですよぉー!」
「……ふむ、では参ろうですじゃ」

 天津 幻舟(あまつ・げんしゅう)は光の翼を展開させて、ナタリーに接近した。
 茜色のハンマーと達人の剣が衝突。お互いに飛翔する勢いを乗せた一撃は、火花を散らした。
 続けて、幻舟が両手で剣を握りスタンクラッシュを放つ。ナタリーはハンマーで受け止めるが、姿勢がよろめいた。

 幻舟が連続してスタンクラッシュを放つ。

 押し込まれ、ナタリーの姿勢が崩れた。
 ここぞとばかりにフリンガーが空飛ぶ箒シュヴァルベでナタリーに接近する。

「サイドワインダー……!」

 セフィロトボウを引き絞り、二本の矢を放つ。
 左右から飛来するそれは逃げ場をなくし、ナタリーに突き刺さる。

 ナタリーの動きが止まった。

 二人で作り上げた隙。幻舟が剣に冷気を纏わせナタリーに切りかかる。
 その名は絶零斬。大剣の大きさを利用したその技はスウェーを見越しての一撃。

 避けようのない一閃がナタリーの右腕を切り裂いた。
 ナタリーの右腕が傷口から凍っていき、固まる。

「あらら、困りましたねぇ……」

 ナタリーは困ったように笑う。
 そして、左腕一本でハンマーを掴み動かなくなった右腕を。

「これで、こうすれば解決ですよぉ」

 ハンマーに炎を纏わせ、自分の右腕に当てた。
 荒々しい治療はナタリーの右腕を焦がすが、同時に氷も溶かした。

 肉が焼ける臭気と異様な光景は、周りの戦士たちに少なからず戦慄を与えた。
 ナタリーは焦げた右腕でハンマーを握りなおし、幻舟との間合いを詰めた。

「さて、続けますよぉー?」

 ナタリーはにこにこと笑いながら、ハンマーを振り回す。
 一撃一撃が絶大な威力を持つそれを、幻舟は剣でどうにか受け流し続けた。