空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

ローズガーデンでお茶会を

リアクション公開中!

ローズガーデンでお茶会を

リアクション

「よっし、これでもう手加減はいらないな!」
 人質が全員無事に解放されたことを確認して、北斗はぽきぽきと指を鳴らす――まねごとをした。機晶姫なので、関節がはじける「ぽきん」という音はしなかったけれど。
 それから地面を蹴って薔薇へと肉薄する。
 そしてどこに隠し持っていたのか、高周波ブレードを取り出すと、それに炎を纏わせ一気に振るう。
「これでケリを付けてやるぜ!」
 と、張り切る北斗だったが、しかし生木というのは想像以上に燃えない。火が付くにはつくのだが、芯からぼうぼうと燃えることは無い。
 どころか、白い水蒸気を濛々と吐き出しながら、火の粉を纏ったツタは熱さに暴れる。
 ぼう、と周辺の木に引火した。
「バカ、北斗!」
「あ、うわ、まずい……!」
 レオンが叫ぶ。北斗もまた顔を引きつらせた。
「うわああああ庭がああああ!」
 ちょっぴりよそ行きの顔がはがれたパトリックが叫ぶ。
 だがしかし、周囲には手練れの契約者達が揃っている。
「あーあ、折角の庭が台無しになってまう」
 飛び出してきたのは大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)。隣には讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)の姿もある。
「フランツのデートの邪魔になるさかい、さっさと片付けような」
 言いながら、素早く的確に氷術を放ち、消火活動にいそしむ。顕仁も右に同じく、だ。
 むろん、他の面々も黙ってみている訳では無い。氷系の術が使える者は総出で消火に当たる。
 薔薇の動きに気をつけながらの作業にはなるのだが、人質が居ない為こちらは人質に当たることなど気にせず撃ちまくる事が可能。そのおかげというか、副作用というか、薔薇の方もだいぶ凍らされて動きを封じられつつあった。
 と、その時。

 上空を一機の飛空艇が横切った。

「どーいーてー!」
 同時に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)の声が辺りに響く。
 声に釣られて、一同は上を見上げた。
 すると。
 何か――黒い――巨大な何かが――落ちてくる――
 つぶされる、と本能的に判断した契約者達は、咄嗟にその場を離脱する。
 残されたのは凍り付いた薔薇だけ。そこへ――

 どおおお、と重たい音を立てて、何故か巨大ワカサギが降ってきた。

 見事に薔薇はその下敷きとなり、ついに活動を停止した。
 その横に、ルカルカの乗った飛空艇・アルバトロスが降りてくる。続いて操縦していたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も降りてきた。そして、なんと続いて降りてきたのは、シャンバラ国軍の団長である金 鋭峰(じん・るいふぉん)。その姿に、北斗やセレンフィリティら、教導団の人間の背筋が伸びる。
「お邪魔するわね、なんだか取り込んでるみたいだったから、やっつけてみたんだけど――」
 良かったかしら、と言いながら、ルカルカはワカサギの下敷きになっている薔薇にちらりと目を遣った。
「あ、いえ……助かりました。ありがとうございます」
 パトリックが慌てて、よそ行きの顔を作って礼を述べた。
「……この、ワカサギは、どこから?」
「ああ、ポイポイカプセルに入ってたの、たまたま」
 何故カプセルにこんな巨大ワカサギを入れていたのだろう――という疑問がみんなの脳裏によぎったが、其処は突っ込まないことにする。
「パーティー中だったみたいだし、良かったらみんなで食べて?」
「じゃあ……お言葉に甘えて」
 事態がいまいち飲み込めていない様子のパトリックの横で、メイド型機晶姫達がずるずると巨大ワカサギを引きずって行く。厨房には入りそうにないので、庭の隅でバーベキューにでもするほかなさそうだ。
「それから、良かったら我々も少し滞在させてもらえないだろうか」
 ダリルがパトリックにそれとなく問いかけると、屋敷の主は間抜けな顔でああ、と頷いた。
「良いよな、のの」
「……え? あ! ええ! 構わないですのよ!」
 何やらぼんやりダリルに見惚れていたののはハッと我に返ったらしく、少々乱れたよそ行きモードで返事をする。
「邪魔をする」
 鋭峰が軽く会釈すると、パトリックとののの二人は反射的に背筋を正して深々お辞儀を返した。
「た、たいしたお持て成しも出来ませんが、少しでもおくつろぎ頂ければ幸いです」
 パトリックがなんとか呼吸を落ち着けて、団長を屋敷へと案内する。それにのの、それからルカルカとダリルも続いた。
「あの、失礼ながらお客様――金団長とはどのようなご関係で?」
 屋敷へと戻る道中、こそこそと、ののはダリルに接近した。
「上司と部下だが」
 さらり、と答えるダリルに、ののはがっくりと落胆した。
「恋人同士とかじゃないんですね……」
「恋人……?」
「ああ、いえ、すみません、今日は同性同士でおつきあいされているカップルの方をお招きしての、ティーパーティーを開いているものですから」
 深い意味は無いんですよ深い意味は、と取り繕う様に笑って、ののは口をつぐんだ。あまりしゃべるとボロが出る。
「やめてくれ……」
 が、過去にそっち方面、つまりは男同士方面で痛い思い出のあるダリルは、げんなりと肩を竦めて見せた。
「申し訳ございません、不躾でしたわ」
 ちょこん、とお辞儀をして丁寧に謝って、それ以後、ののはぴたりと口を閉ざすことにした。
 教導団生でないののは詳しいことは知らないのだが、しかし「教導団の金団長には恋人らしき人がいるとかいないとか」という噂は聞いたことがあった。もしや彼が、と思ったのだが、どうやら違うようだ。
 そんな話をしている間に、一行はホールへと戻ってきた。
 その後ろから、薔薇討伐に参加して居た他の契約者達も三々五々戻ってきている。

 これで漸く、パーティーを始められそうだ。