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【●】光降る町で(前編)

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【●】光降る町で(前編)

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【古き伝承 3】






”八つの柱にて記す 太陽に隠れ星の瞬く
 光をも呑む全くの闇より 点と点を繋ぎて
 古に嘆く者 望まざる眠りのもとへ
 失われしが満つるまで
 明かりを灯せ大地が上 星のごとく
 忌むべき槍の届かぬよう 灰色の天蓋 その奥に隠す
 その眠りの終えるまで 天に連なる者に見つからぬよう
 彼の人は大地を鎚打つ者なれば”



「これが、歌の原文か」
 資料を根気よく漁り続け、ようやく見つけたそれに、和輝は息を吐き出した。
 その横で、すっかり疲労困憊のダンドリオンと、丁度訪れた拍子に手伝うことになったエース達が、何杯目かのお茶を飲み下して同じく息をつく。
「確かに、ストーンサークルの碑文とは大分違ってるみたいだが、民謡ともイメージが随分違って聞こえるな」
 他の面々がそう感じていたように、和輝もその歌詞が示すものへの違和感に首を捻った。
「この”彼の人”が女王ではないってことは、間違いなさそうだ」
 長老から話を聞き終えたザカコたちも和輝達と合流して、解読し終わった文献の内容と、長老の話とをつけあわせの真っ最中だ。

 長老の言葉と文献とを、つなぎ合わせるとこうだ。

  かつてこの土地は、相当に荒廃していたのだという。
 何が原因だったのかはわからないが、新しい土地を開墾するため、どれだけ耕しても、肥料をまいても草木は根付かず、天災も相次ぎ、人々も病に苦しめられることが多かったようだ。
 そんなある日、そんな使いようの無い土地を持て余していた持ち主のもとに、一人の術士が訪れた、と記述にはある。その土地の一体何が気になったのか、異様な風体をしたその術士は、その地で独自の術を使って異界へのゲートを開こうとしたらしい。らしい、というのは、その結果の記述がどこにも無かったからだ。
「まあ失敗したんだろうね。成功してたら記録に残って無いはずないし」
 トマスの言葉には皆頷く。
 兎に角、その後、フライシェイドの発生が始まり、空を埋め尽くすほどの大量発生を招いた後、それを賢者が封印し、この町が作られた、という。以前の事件の際にも話題に出ていた、他のデータにある通りの記述があったが、文献を解読した今となっては、それが繕われた側面であるとわかる。
「賢者、ってのはこの術士のことだろうな」
 当然、、フライシェイドの発生は偶発的なものではない筈だ。
  だが不可解なのはそこからだった。封印を守るためという名目でストーンサークルを囲み作られた町は、今までの荒廃が嘘のように豊かになったのである。
「長老が言ってた”祭りの恩恵”ってのは、恐らくこれのことだな」
 町が豊かになった時期が、祭りの始まった時期に重なるのだ。元々の地の荒廃ぶりを知っている土地の主――後の町の創始者にとって、その祭りは慈雨に等しいものだったのは容易に想像できる。そこから先は、子敬が疑ったように、その祭りを途絶えさせないように、女王の封印を利用し、まるで祭りをしなければ封印が解けてしまうかのような印象を植え付け続けていたようだ。
「だから、町の人たちは封印を弱めてしまうことも知らず、天井を塞いでいたんだな」
 おそらく、封印を弱めてしまう側面があることを恐れる者がでないようにするためだろう。当時は識学率も低かったろうから、町の長が「そう」と言えばそう信じたことは想像に難くない。そして、知識がある者は、この祭りが生活に欠かせないものであるということに気付き、やはり止めない為に口裏を合わせるか、見て見ぬふりをしていたようだ。
「そして、女王を討伐させないために、封印も維持する必要があった」
 皮肉にも、封印と言う存在が、祭りの必要性を高め、町の繁栄を担っていたのだ。
「けど、解せないね。だったら最初から、豊穣のための祭りだ、って明かしていればいいのに」
 そうすれば、封印が解かれて町に被害が出るリスクも無かったはずだ。そんなトマスの問いには、ダンタリオンの書が「恐らくその女王とやらも、作られた存在であるからだろう」と答えた。
「どうやって作ったのか、何故あんな生命に設定したかは不明だが、カモフラージュの為に必要だ、と語られたらしい記述が見つかっている」
 不可解なのはもう一つ。
 祭りを作った賢者と協力し合っている誰かがあるのだ。
「文献を見る限り、人物は三人。賢者と、町の創始者、そしてもう一人……けど、最後の一人は正体がはっきりしないな」
 最初は町の創始者かと思っていたが、どうもそうではなく、どちらかと言えば二人よりも立場が上にあるような印象があるのだ。ダンタリオンが推測するには、その”もう一人”が、祭りをするよう指示しているような一文があるのだという。それが本当なら、その誰かは、その祭りを封印に関するものだと見誤らせておきたい理由があったのだろう。
「自分より立場が高いそいつを、町の創始者が邪魔になったから殺した、というのは?」
 権力の独り占めを狙って、そういう行為に及んだ可能性もなくが無い。だが、それには和輝が首を振った。
「無いと思う。約束を果たす、という一文がかなり後にもあるからな。協力関係が切れたと言うのではなさそうだ」
「でも、あるときから忽然と、賢者、いや術者も記録から姿を消している……」
 だが、死んだ、という記述が無いことから、姿をくらませたのか、それとも表舞台から降りたのか、何らかの意図を持って公式の場にでてこなくなったのだろう。ううん、と首を捻った一同は、もう一つの疑問を口にした。
「そもそも、彼らの協力関係とはなんだったんでしょう?」
「この三人が一致する利害……賢者と創始者は、権力とか財力とかだろうけど、問題は最後の一人だよな」
 枯れた土地を豊かにすることに成功し、発展させることで利益を得た町の創始者。そして、封印を行った者として、賢者とあがめられ、権力を手にした術者。では、祭りをでっちあげ、二人に利益を与えたその”誰か”の見返りはなんだったのか。
「地輝星祭……これを行わせることに、何か意味がるんだろうが……」
 女王と言う封印された存在を作ってまで、町を豊かにさせる祭りを”鎮め”のためと偽らせる必要性。
 その不可解さを解くためのピースは、まだ出揃ってはいないようだった。