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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 1

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 1

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第10章 2時間目・実技タイム

「特に質問がなければ、実技を行ってもらいますぅ〜。祓う際に単独やパートナーとだけで、立ち向かってはいけませんからぁ。こちらで選んで仮のチームを組んでもらいますねぇ。名前を呼ばれた方は、前の方へ出てきてください〜。本や章を扱う方法は、実技中に教えますぅ〜」
「(私を指名するのです!)」
 テスタメントは手招きするような仕草をし、指名しなさいオーラを放つ。
「おう、実技か。そんじゃあ一番手は俺がやってもいいんかな?」
「こちらか指名するのでお待ちください〜」
 席から立ち上がろうとするラルクに言い、早く実技を行いたい生徒が大勢いるため、待機してもらう。
「禁書 『ダンタリオンの書』とグラルダ・アマティー、それとベリート・エロヒム・ザ・テスタメント。教壇の前のテーブルの近くに集ってくれ」
 悪気はないのだろうが、曲者揃いとしか思えない3人をラスコットが呼び集める。
「ふむ…貴様も魔道書か」
「よろしくお願いします!」
「―…すまないね、地球人で」
「共に学ぶ者同士、種族なんて関係なのですよっ」
 攻撃的な性格や言動に不快に思わず、仲良くしようと接する。
 しかし他の者…特に講師陣から、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は問題児と扱われていた。
 去年の秋より、イルミンスールに籍を置き、入学したばかりの頃は未熟ながらも、魔術に対する積極性から頭角を現している。
「前のテーブルを使うから、他の人たちは2列くらい後ろに下がって」
「リオン、後ろに移動しよう」
「荷物の忘れ物はないですね?北都」
 2人も手早く荷物を纏め、後ろの列の席へ移る。
「どうやって使うのか、もっと前の方で見たいよ〜」
 もっと近くでリオンたちの実技を見たい!と言い出し、和輝の袖を引っ張る。
「前列の方は結構人がいるぞ、アニス」
「和輝とスノーが間にいれば大丈夫だもんっ」
「じゃあ…端っこが空いてるから、そこへ行くか?」
「うん!」
「壁側はあまり座っている人がいないわね」
「見づらいからだろ?」
「(まぁ、そういうもんよね…はぁ〜)」
 しっかり見える席に移りたい気もするが、アニスのためにちょっと見えにくい席に座る。
「テスタメントに任せるのです。どんな悪霊や大魔王でも祓って見せるのです。サボり魔であってもですっ」
「複数の人数で対処しなきゃいけないって理解してる?」
「(誰かが突っ走ったりでもしたら、近くにいる者が制御しなければいけないのだろうな。はぁ、仮のチームだからいいが…)」
 いきなり暴走特急になりかねない者に遭遇し、リオンは嘆息する。
「―…テスタメント、落ち着きも大事だと思うが?」
「えぇーそうですか?」
「ふぅ…まぁいい。仮とはいえ、一応…チームを組んだ者なのだからな。あまり騒がないでもらえるか?」
 アニスが見ているため失敗も出来ないため、非社交的なリオンにしては珍しく、他者を嗜める。
 実技を観察する席の方では…。
「他の人とリオンが喋ってるわ…」
「俺たちだけで解決出来るような役割をふられるわけじゃないし、脱・非社交的への一歩だな」
 他者と積極的に話したりしないはずの貴重なリオンの姿を、スノーと和輝が観察している。
「うーん、ちゃんと理解出来てるのかな…」
「~理解~ですか」
「いやぁ、単独やパートナーだけで、解決出来るものじゃないって分かってるのかな、ってね」
「先生はご自分の説明に不備があるとお考えで?」
「ちゃんと説明してはいるはずなんだけど。実戦になったら結局、一緒に行動する人が制御してやるしかないんだよな」
「その点は問題ありません。そのような者がいれば、私が注意します」
 グラルダの砕けた口調には、口の悪さも含まれているため、言われた者が不快に思うかもしれないが、時には彼女のように厳しく接することも必要だろう。
「とりあえず即席の3人チームだけど、大丈夫そう?」
「えぇ。組みやすい相手が、常にその場に揃うとは限りませんから」
「じゃあ変更なしだね。スペルブックの中に、章の力を発動するための言葉が書かれているんだ。開いてみて」
「該当する章に似たような言葉が、目次のようなものなんですね?」
 どのページに記されているか、それを読まないと見つけられないようだ。
「どんな効力があるかっていう説明みたいなものも含まれているからね」
「章の記載が増える度に、説明を含んだ目次的なものも増えるという認識でよろしいですね?」
「そうだね」
「むむ〜…。インデックスがないのかと思いましたが、そういう見方なのですね!」
 こくこくと頷きながら聞き、テスタメントも念のため、章がどこに記されているか確認する。
「記されている文章内容に合わせて詠唱するんだけど。内容から大きくはずれなきゃ、ある程度なんでもいいだよね」
「その辺りは若干アバウトなのだな…」
 扱う者によって言葉も少し異なってよいのか…とリオンが言う。
「あぁそうそう。裁きの章の効果はずっと持続するわけじゃないから、気をつけてね。キミたちには、湯沸かし器に憑いた魔性を祓ってもらうんだけど。理解出来たかな?」
「ご心配なさらずとも。~やれます~」
 口元を無理やり吊り上げたような笑みを向け、魔性の方へ視線を移す。
 鎖に縛られているポットが解放され、ポットの口を牙のように変質させ、彼女のたちに襲い掛かる。
「そこで見てろ、アンタの説明が間違い無くアタシに伝わったという事実を」
 グラルダは大人しい態度から一変させ、裁きの章のページを開く。
「どっちでもいいんだけど哀切の章を持ってる?」
「テスタメントのスペルブックに記載されてますよ!」
「私が弱らせたら、術を使って」
「(うーむ…私は術の効果が切れそうな頃合を見極めないとな…)」
 おそらく再び弱らせ、畳み掛けるのだろうとリオンが心の中で呟く。
「罪無きものに、罪を犯させる心疾しき者よ。そのものを解放することを拒むならば、汝の心身の自由を奪い、汝に裁きを与える!」
 雨雲1つない虚空から赤紫色の雨を降らせ、酸の雨が逃げ惑う魔性を襲う。
 敵が“ギィイイッ!”と悲鳴を上げる。
「痛い?それとも苦しい?防御力を低下さられても、まだ存分に動けるんじゃないの?その程度の演技では、私は惑わされない!(早く詠唱を始めるのよ!)」
 哀切の章の力を使うように、テスタメントに目配せをする。
「人々を惑わす疾しき者。汝の生命は全ての生き物と等しきもの…」
「ココ、キニイッテイル。ジュツ、ツカエナケレバ、スグニヤッツケル!」
 老人のようにしわがれた声音を発し、牙の餌食にしてやろうとテスタメントを狙う。
「僅かな哀れみを抱き、光をもて、汝の罪とがの闇を打ち消し、穢れ無き道へ導きたまえ!」
 光の嵐が器であるポットを包み込み、魔性の本体へ侵食する。
「ググ…ッ」
「まだ動く余力があるというのか」
「私の術の効果が薄れてきたみたね。実技なんだし、アンタも使ってみたら?」
「うむ、そのつもりだ」
 弟子であるアニスが期待に満ちた眼差しで観察しているため、何もしないまま終わらせるわけにもいかない。
「人々に混乱と畏怖を与える者よ。醜悪の源を洗い流し、疾しき者の心身の自由を削ぐ裁きを受けよ!」
「ギギィイ!!?」
 下級の魔性はリオンの術から逃れられず、ポットを凶器化させ、暴れる自由を削がれてしまう。
 すかさずテスタメントは哀切の章の詠唱で、魔を祓う光をポットへ侵入させる。
「ウググ…ッ」
 魔性はものに憑く力を失い、ポットの口から噴き出る。
「これ以上暴れるなら、許さないのですよ!」
「二度と過ちを繰り返さないというのなら…、許してやらなくものない」
「ゥウ、ワカッタ…」
「次はないからね?」
 グラルダは脅しを含めた言葉を放ち、姿を隠している魔性に言い聞かせる。
 彼女の脅しが留めのように効いたのか、魔性は黙り込んでしまった。
「アタシは優秀よ?腰をぬかさない事ね」
 講師の説明を理解し、きちんと協力し合い遂行させたグラルダが、彼の方へ顔を向ける。
「纏め役だったり、指示をもらったりするだろうけど。今後の活躍に期待してるよ」
 口が悪い者も中にはいるだろうと予想し、彼女のような曲者も当然現れるだろうと想定していたため、いつも通りの穏やかな態度で言う。



 スペルブックを閉じたテスタメントは、自分の席の方へ視線を向けると、だらけていたパートナーがマジメに実技を眺めていたようだ。
「いつの間に…っ!?」
 席へ戻るとその様子をノートに書き込み、纏めている。
 リオンはアニスの元へ戻り、疲れた様子で椅子に座った。
「他の者と話したり、行動するのは疲れるな…」
「でもでも、すごかったよ!!ああゆうふうに力を合わせると、魔性を祓えるんだね?」
「そのようだな」
「(特にもめることもなかったみたいだし、よかったわ…)」
 チームを組んだ者に不機嫌な思いをさせるのではと思っていたが、トラブルもなく終わり、スノーはほっと安堵の息をつく
 授業開始前…。
「(まだまだ行ったことのない場所がいっぱいあるネ。夢を叶えるまで、長い道のりカナ?って、弱気になったら負けダヨ!大事なのは、意識を高く持つコト!ここにも目標を書いたんだカラ)」
 ディンス・マーケット(でぃんす・まーけっと)は地図を見ながら歩き、その隅に図式の落書きをしている。

 “
  私の目標→大金持ちになる。
  トゥーラの目標→出来るだけ早く故郷に帰る。
  両方の願いを叶える方法→凄いコトして名をあげる。
  当面の活動指針→有名になるための機会と力を手に入れる・活動範囲を広げる。

「(そう!明日のために、その1〜。エクソシストに新規参入、青田買い!ガンバルヨ〜!)」
 授業中にこっそりと地図を開いていると…。
「真剣に勉学に取り組んでくれて嬉しいです。契約者とはいえ、君はまだ学生なのだから」
「びっくりした。あ、ありがとネ」 
 トゥーラ・イチバ(とぅーら・いちば)の声に驚き、慌てて地図を丸め、カバンの中へ放り込む。
 子供扱いされたことに眉を顰めるものの、差し出されたパラミタンCを素直に受取り、半分だけ飲む。
「攻撃的な授業だから、トゥーラは嫌がるかと思ったんだけどナ」
「僕にできることは全て試さないと…きっと後悔するでしょうから」
「私も…そうかナ」
「切磋琢磨の功を積み、成長してください」
「ちゃんと実技も見てるし、きっと大丈夫だヨ」
「急がなくてもいい、と言えないのが残念でなりませんが―」
「どうして急ぐノ?」
「君の学科成績を考慮すると、ね」
「う。もっと勉強しマス…」
 耳が痛くなるようなセリフを言われ、ハイリヒ・バイベルで顔を隠した。



「実技の中で他のヤツが話していた哀切の章とかってなんだ?」
「ん、スペルブックに記載してないのか?」
 ヴァイスの方へ本を寄せて、ラルクが見せてやる。
「内容から外れたり不相応な言葉じゃ、発揮しないみたいだがな」
「火術なのに雷を落とすみたいな感じのセリフってことか」
「不適切というのは、お前を溶かし殺すというようなことだろう?」
「メシくれっていうのもそれに入るよな、セリカ」
「そこまでいくと、ただのお笑い芸人だな」
「なんにしても、指名されたらパッと思いつかなきゃいけないからな…」
 祓うために相応しい言葉は、どのようなものがよいだろうとラルクが考え込む。
「思いつかなければ、先に実技を見せてくれた者たちと同じ言葉ですな」
 指名する者を探す教師を気にしつつガイが言う。
「ラルク・アントゥルースさんとパートナーの方…。トゥーラ・イチバさん、アリス・セカンドカラーさんと後藤 やまださん、前に出てきて実技を行ってくださぁ〜」
「山田(やまだ)じゃねぇ、サンダーと読めぇぇぇ!」
 くすくすと周囲の笑い声が聞こえ、キレた後藤 山田(ごとう・さんだ)が怒鳴る。
「えぇっと…さんたさん?」
「だから、俺の名はサンダーだといってるだろうがぁぁぁ!」
「あら、サンターさんですか」
「なんか季節外れだよね、サンター…濁点が足りないね。惜しいっ!…ぷぷっ」
 パートナーのために耐えていたが堪えきれなくなり、鳴神 裁(なるかみ・さい)が笑い声を漏らす。
「今笑っただろ!?」
「呼ばれたんだから早くいきなよ。―…サンター…あははっ」
「さっさと行って!後の人に迷惑だよ」
 アリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)が彼女の背をドスドスと押す。
「トゥーラ、いってらっしゃーイ」
「はい、いってきます!」
「苗字と苗字が合わさった名前のやつなんているのか?」
「後藤と山田ってどなたでしょう?」
「分離させるな!サンダーだっ」
「わりぃ、苗字と名前なんだな」
「すいません、気をつけます」
 ラルクとガイも言い間違えてしまい、申し訳なさそうに謝る。
「この中に裁きの章がスペルブックに記されているやついるか?―…結構いるな」
 予め死っておいたほうがいいだろうと、手を挙げる生徒の数を数える。
「哀切の章は、もしかしてラルクしか得ていないんですか?」
「そうみてぇだな…」
「俺らで逃がさないように囲むか?」
「わざとミスしたフリをして追い込むというのも、手段の1つよ。私は術を当てないようにするわ」
「んじゃ、俺は当てるほうだな」
「あっ、僕もそっちに回りますね」
 どちらかが魔性の抵抗力を下げてやればいかと、トゥーラが手を挙げる。
「見ている方々の方へ行かないように、気をつけませんとね」
「渦潮式でいくか?」
「どこへもいけないように囲むんですね」
「身動きが出来なくなったら、俺が哀切の章の術を使うぜ」
「では、それでいきますか」
「皆さん、準備出来ましたねぇ?魔性を放ちますよぉ〜」
「イレモノ!…ククッ、シカエシシテヤルッ」
 小さな檻のようなケースから放たれた悪霊が、教壇の上にある機械仕掛けの小さな飛行機に憑く。
「人形に入っちまったけど、いいのか?」
「えぇ、実技用のものですからぁ〜」
「まぁ、なるべく傷つけないようにするけどな」
「(下級のものかしら?どちらにしても、無駄口を叩かずに遂行したほうがよさそうね)」
 アリスはスペルブックの章の文字に触れ、ガイと術を外してやりながら追い込む。
「オマエラノ、ヨケラレルッ。―…ツカマラナ…イ……ハズッ?!」
 すっかり気分をよくした魔性は追い込まれいくのに気づかず、逃げ場を失った者はくるくると旋回する。
 トゥーラと山田の術の直撃をくらい、飛行不能になり墜落してしまう。
「わりぃな、ちと大人しくしてもらおうか」
 光の嵐が魔性の本体にじわじわとダメージを与える。
「アァアーッ」
「(おっと、器を壊したら失敗ですよね)」
 墜落しそうになる機体をガイが片手で受け止める。
「もう悪さしないよな?イタズラでも許されないことだってあるんだぜ!」
 子供を少しキツク叱りつける様な口調で山田が言う。
「ウゥ、モウ…シナイッ」
 しゅん…と小さな声音で言い、機体から離れて消え去った。