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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 十章 月の従士

 刻命城、大広間。
 城内で一番大きなその部屋で契約者と戦っているのは壮年の男性。
 歳を経てもなおたくましい顔つきには皺や傷跡が深く刻まれている。それはきっと、数多の戦いを潜り抜けてきたもののみが勝ち得た証だ。
 彼は指と指の隙間に幾枚ものカードを挟み、トリッキーな戦法で相手を翻弄する。
 そして今、そんな月の従士と戦っているのは上杉 菊(うえすぎ・きく)だ。鬼払いの弓を引き絞り、機晶爆弾を括り付けた矢を放った。

「爆弾を取り付け威力を増しましたか。しかし、その程度当たらなければ意味はない」

 月の従士は矢が近づくより先に、ヴァルキリーの種族特有のスキル。バーストダッシュを発動。
 あまり体勢を崩さないようぎりぎりまで引き付け、紙一重で回避しようと試みる。

「あなたが避けることなど想定のうちです」

 菊は矢が月の従士に肉迫したのを確認するとサイコキネシスを行使。機晶爆弾を遠隔操作して起爆させた。
 破壊工作により拡大した爆発が月の従士を襲う。無残にも彼はその業火に呑まれた、が。
 しかし、菊はそのあまりにもあっけなさすぎるその結果を信じなかった。殺気看破で気配を探り、濃厚な殺意を漂わす場所に目を向ける。

「迫真の演技でしたのに」
「……コンジュラーは掴みどころのないクラス。人の目を誤魔化すことなど、実践的錯覚で可能でしょう?」
「ごもっとも。よく気がつきましたね」

 月の従士は不敵な笑みを浮かべて、両手の複数のカードを菊に投擲。
 殺気看破で攻撃を読んでいた菊は最小の動きで、飛燕の速度で迫るそれを回避した。
 
「さて、何枚まで耐え切ることが出来るでしょうか?」

 月の従士は非物質化していたカードを次々と指の間で物質化。
 大量に湧き上がるカ−ドを、休む暇も与えず菊に向けて投げつけた。

「この数は避けきれませんね。ならば、焼き尽くすまで」

 菊は自分の前の空間に炎の聖霊を召喚。
 人型の業火に直撃する大量のカードは焼き尽くされ、消し炭となって空中に散布。
 しかし、月の従士は行動予測で菊の行動を先読みしていた。

「そうすることなど、予測済みです」

 月の従士はバーストダッシュを連続で発動し、素早く菊の背後に周る。
 彼は一枚のカードを持ち大きく振りかぶった。刃の如き鋭さを持ったその凶器が風を切り、菊に襲いかかる。

「菊、避けなさいっ!」

 アルマ・アレフ(あるま・あれふ)の叫びと同時に菊が前方へ跳躍。
 月の従士の斬撃は躱され、その隙にアルマは両手に持つデヴァステイターとサブジェゲイターの引き金を思い切り引いた。
 彼が回避することが出来ないよう、発射された数多の銃弾はその周囲を面制圧。
 しかし、月の従士は鉄のフラワシを前方に召喚。歴戦の兵士に似た屈強な守護霊が弾丸を全て弾く。

「これも持っていきなっ!」

 続けざまに、アルマは黒の魔法陣を描いた。
 魔力を込められて発動したのはその身を蝕む妄執。月の従士は迫り来る魔法をマインドシールドで防御。
 アルマは次にもう一度、魔銃と魔道銃を構える。
 その隣に駆け寄ったシャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)も二丁のカメハメハのハンドキャノンの狙いを彼に定めた。

「弾幕、支援するぜッ!」
「ありがとう。とにかく連射よ連射! 下手な鉄砲数撃ちゃ当たるってね!!」

 二人は同時に引き金を絞る。四つの銃口から発射された銃弾は、月の従士に飛来。
 無数の銃弾は彼に飛来するが、鉄のフラワシの影に隠れているせいで、掠りすらしなかった。

「残念ですが、鉄のフラワシがある限り物理的な攻撃は通じませんよ」
「――それはどうかな?」
「――それはどうなんだろうかねぇ?」

 二人の弾幕は足止め。本当の目的は如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)八神 誠一(やがみ・せいいち)を接近させること。
 佑也は月の従士の右側から、誠一は月の従士の左側から。挟み撃ちの形で月の従士の逃げ場をなくす。
 鉄のフラワシは継続して発射される弾幕を防御するために前方にいる。前、右、左。
 後ろ以外の逃げ場をなくした彼が、今さら後方に逃げたところで、それは肉迫する二人とも予防策を張っていることだろう。
 絶体絶命。そんな言葉が相応しいこの状況で月の従士は、不敵に笑った。

「……なるほど、なるほど。見事な作戦ですね」

 月の従士の静かな呟きと共に佑也は霽月を奔らせ、誠一は散華を打ち下ろす。
 二つの名刀は彼を切り裂かんと、身体に接触した――が。

「「!?」」

 二つの刃が真っ二つに切り裂くと同時に、目の前の月の従士は消え去った。
 空を斬った感触に二人は錯覚か、と判断。ならば彼はどこに、と辺りを見回す。

「ならば貴方達を好敵手と認めて、禁じ手でお応えしよう」

 月の従士は二人から十メートルほどの距離を取り、奇妙な構えをしていた。
 無数のカードを指と指の間に挟み、両手を目一杯伸ばして、身体を伏せている。
 それはまるで、大鷲が両翼を広げたような構えだ。

「さあ、ご覧あれ。月の従士の真髄を――」

 彼は足元に魔法的な力場を作成。強く蹴りだし、驚異的な加速。
 あっという間に二人との間合いを詰め、すぐさま両手を交錯。爪に似た攻撃が二人を襲う。

「エンド・ゲーム」