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亡き城主のための叙事詩 後編

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亡き城主のための叙事詩 後編

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 剣戟の果てにレリウスの逵龍丸が魔剣により弾かれ、怯んだ隙に漆黒の魔法陣から放出された陰府の毒杯が彼を直撃。
 おぞましい邪気を浴び、剣戟の最中に切り結ばれた数多の傷から血が勢い良く吹き出る。

「ッ! クソ……」

 レリウスは仕方なくその場からバックステップ。
 退避した先でハイラルが声を荒げながら、白の魔法陣を展開。

「ああ、もうまた無茶しやがって……!」

 魔法陣から生まれた白き光がレリウスの傷を塞ぎ、癒していく。
 もちろん、そんな治癒行動をフローラが待つはずがない。地を蹴り、二人に迫ろうとしたが。
 死角から飛来した矢に妨害され、彼女は立ち止まった。フローラは矢の飛んできた方向に目を向ける。

「随分と可愛らしいお嬢さんだこと。重たいものまで背負っちまって……良いことに使えないんだったら、その魔剣は取り上げちまうよ」

 フローラの視線の先では、家具を盾にした忍冬 湖(すいかずら・うみ)が、片手でボウガンを構えていた。
 湖の言葉にフローラは目を険しくさせ、反論する。

「良いこと? あなたは死者を蘇らせることが悪いことだって言うの……!?」
「そんなことあたしにも分からないけどね……。少なくとも自分の利益の為に他者を陥れる様な真似はやめときな。あたしも、止めに入るだけさ」
「なら、止めてみなさいよ……!!」

 フローラは方向転換して、湖に向けて飛燕の速度で駆けた。
 間合いが詰まる。魔剣が振り上げられる。しかし、湖に向けて振り下ろされた魔剣は土方 歳三(ひじかた・としぞう)の柳葉刀の刀身に受け止められた。

「女相手に戦うのは趣味じゃねーが、遠慮した挙句殺されるなんてのは御免だからな。悪く思うなよ?」
「邪魔を、しないで!」

 フローラは激情の赴くままに魔剣を振り回し、剣術の型を嘲笑うかのような出鱈目な斬撃を繰り出す。
 歳三はスウェーと受太刀を駆使して、辛うじてその攻撃をかわし続ける。そのなかで歳三はフローラの呼吸を読む。
 生前に星の数ほどの戦いを経て得た武人としての経験。人の動きは超えれても、呼吸や生命活動は変えられない。
 フローラがほんの少し息を吸い込む。それは魔剣を引く合図。歳三は一気に軸足を踏み込んだ。
 彼が懐に潜り込むと共に幅が広く湾曲した刃に聖なる力が宿る。光の軌跡が描く剣技はレジェンドストライク。

「そんな、攻撃ぐらい――!」

 フローラは人間離れした動きで、関節と筋肉を無視。
 恐るべき速度で肉迫する刃と自分の身体の間に魔剣を割り込ませる。
 歳三の柳葉刀を受け流して、空いている片方の手で黒の魔法陣を展開。その身を蝕む妄執を発動。彼に恐ろしい幻覚を見せる。

「ッ、これは……!?」

 幻覚に気を取られている間に、フローラは魔剣を振るう。
 好機。つり上がる口元。フローラの笑み。それは勝利を確信したときに生じるもの。

「一人目――ッ!」

 と、とん――と、やけに軽やかな音と共に腕と脇腹に鋭い痛みが走る。
 意識の外。フローラは一瞬、ほんの一瞬だけ、それに気を取られてしまった。
 フローラの腕と脇腹に突き刺さったそれは、二本の矢。それを放ったのは――。

「もう止めろよ、フローラ。見ていて痛ましいぜ」

 沈痛な面持ちのまま、鍵屋 璃音(かぎや・あきと)がセフィロトボウの弦を引き絞る。
 その弦には二本の矢が番えられていた。同時に放つことで、敵に逃げ場を与えない必殺の一撃。サイドワインダー。

「……また、邪魔を……ッ!」

 それは数秒にも満たないほんの少しの間。
 フローラが痛みを感じ、視界の端に映った弓から璃音が横槍を入れたであろうことを推測し、そして――歳三から意識を逸らし、背後に迫る一ノ宮 総司(いちのみや・そうじ)に気がつかなかった。

「女性相手に戦うのは正直気が引けますが、貴女たちを止めるため、お相手願います!」

 気合の籠もった言葉を発しながら、総司は間合いを詰め花散里の花が散っているような儚い刀身に光が宿る。
 光が描く一閃はパートナーの歳三と同じ技、レジェンドストライク。聖なる刃がフローラの背中を切り裂いた。

「……ッ!!」

 声にもならない悲鳴をフローラがあげた。
 しかし総司が急所は外し、フローラが咄嗟に身体を捻ったおかげで、傷はあまり深くない。
 フローラは魔剣を背後の総司に向けて振るう。強烈な一撃を彼に見舞おうとした。が。

「だから、もう止めろって」

 璃音がサイドワインダーを放ち、フローラの行動を阻害する。

「城主のことを広めるなら、もっと違う方法があるだろ。
 効果は高いかもしんないけどさ、攻めるために使うなんて言うなよな。昔話みたいにシャンバラ中に広めりゃいいじゃねぇか」
「うるさい……ッ!」

 フローラが魔剣を構えるが、その鍔に花散里を奔らせ、総司が動きを止めた。

「フローラさん、貴女たちが無くなった当主さんに蘇らせたい気持ち……分からない訳じゃない。
 でもこんなのは死者に対する冒涜だ!それともこれは当主さんが望んだことなんですか? 或いは……この魔剣によって貴女が心を救われたいだけなんですか?」
「うるさいうるさいうるさい……ッ!!」

 フローラは心を閉じて、他の人が発する言葉を受け入れなくなっていた。
 彼女は目一杯の力を込めて魔剣を振るい花散里を弾く。それと共に総司と璃音に向けて二つの漆黒の魔法陣を展開。ほぼ同時に陰府の毒杯を発動。
 おぞましい邪気が二人を責め、強力な斥力で両者を吹き飛ばした。

「……はぁ……はぁ……!」

 荒い呼吸がフローラの口から洩れた。
 そんなフローラに相沢 洋(あいざわ・ひろし)が近づき、言い放った。

「さて、フローラ。教導団が一人、少尉、相沢洋。フローラよ。その魔剣、私に譲ってくれないか?」
「誰にも、この魔剣は渡さない。これは私達の、最後の、希望なんだから……!」
「……やはり無理か。貴様は魔剣に取り込まれているだろうし。ならば、力尽くでいただくまで!」

 洋は黄色の魔法陣を描き、魔力を込めた。サンダーブラストを発動。
 魔法陣から発生した雷がフローラに飛来する。彼女は魔剣で雷撃を受け止めるが、その間に洋は間合いを詰めた。

「まだまだ、この程度ではない!」

 洋はフローラの得意な近接戦闘に自ら持ち込む。
 彼女は近づいてきた洋に、かすかに電撃を帯びた魔剣を横薙ぎしようと構えた、が。

「洋様、支援をまかせて下さい……必殺! サイコキネシス!」

 パートナーの乃木坂 みと(のぎさか・みと)はサイコキネシスを行使。
 みとの念力はフローラに重力攻撃を与え、彼女の動きを鈍らせた。そして魔剣の刃が奔るより早く。

「我が杖は最強の武具なり! アンボーン! テクニック!」

 洋は転経杖を銃剣の要領で持ち、アンボーンテクニックで加速した攻撃をフローラの鳩尾に打ち込んだ。
 呼吸も出来ないような激痛がフローラの全身を駆け巡る。彼女の動きが一瞬止まり、その隙に洋はもう一歩踏み込み。

「まだまだ! 零距離なら!」

 洋はミニガンモードの光条兵器を発現。巨大な質量のそれをフローラの腹部に押し当て、引き金を思い切り引いた。
 途端、数多の弾薬の爆発音と共に百千の銃弾が発射。部屋を覆いつくすほどのマズルフラッシュと多量の薬莢が排出。
 その銃弾全てをその身に受けたフローラは、大量に吐血。
 しかし普通の人間なら跡形すら残らないその攻撃を、フローラは魔法の力を用いてどうにか耐え切った。

「なかなか沈みませんね……」
「いい腕だ。ただのメイドではないか? さすがは魔剣の主というべきか? それとも魔剣に乗っ取られたかな?」

 洋とみとは口から血を垂れ流し、魔剣を杖代わりにして立つフローラを見てそれぞれの感想を洩らした。
 フローラは紅く染まった瞳で二人を睨む。そして口を開き、大気を震わす咆哮をあげた。

「調子に乗るな。人間風情が――ッ!!」

 傷ついた身体に鞭を打ち、鮮血を撒き散らしながら、フローラは駆けた。