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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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●第3章 身体の不調は何の所為?

 花見をしながら読書でも、とレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は花祭りの会場を訪れていた。
 広場からは少し離れているものの、賑わいが聞こえ、桜が多く植えられている場所だ。
「ん……なんだか頭がボーっとしてきましたね……」
 文字を追う目の、瞼が少し重くなるのを感じたレイナは、読みかけの本に栞を挟んで、ぼやく。
「それになんだかとても暑いです……」
 涼しい木陰を選んだはずなのだが、身体が熱を持ったかのように、全身に暑さを感じていた。
 ふと辺りを見回してみると、木々の向こうに見える広場でも上着を脱いではしゃぐ花見客の姿が見える。
「……あぁ……そうですね……暑いなら服を脱いじゃえばいいんですよね……」
 その姿を見て、レイナはリボンタイをゆっくりと外し、更に洋服にも手を掛けた。
「お嬢様ー、お花見しながら読書もいいですがそろそろお弁当でも……」
 そんなレイナの身体の異変を知らず、食べ物を物色して戻ってきたパートナーのリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)は、彼女の姿に一瞬、動きを止めた。
「って、おおおおおお嬢様っ!? なななななな何をなさってるんですか!? こんな公衆の面前でお洋服を脱ぎだすとは!? 私としてはとても眼福でけど……」
 驚き、慌ててレイナの傍へと駆けつけるリリだが、本心もぽろりと漏れる。
「と、とりあえず、そんな羞恥行為お止めください! あ、いえ、お嬢様の肢体は女神すら傅くほどの美しさですのでどこに出しても恥ずかしくないとは思っておりますが、ええ」
 洋服を脱ごうとしているレイナの手を取りながら、またもリリは力強く頷きながら語ってしまった。
「じゃなくて! こんなところで服を脱いだとあらば今後お嬢様が世間からなんと言われるか……第一に後々お嬢様があまりの羞恥の心に泣いてしまう事確実です! あぁ……でも、そんなお嬢様を優しく抱きしめてあやすのもいいですねぇ……むしろあやしたいです」
 そんな風に、己の本心を少しばかり曝け出しながら、リリは洋服を脱ごうとするレイナの手を止め、暑いと告げる彼女の頬や額に冷やして固く絞った手拭を渡すのであった。



 近いうちに恋人とデートしたいな、と空京を訪れていた月音 詩歌(つきね・しいか)は、公園の傍を通りかかった際、チラシを渡され、花祭りが開催されていることを知った。
(こういうことなら勇気を出して恋人を誘えばよかった……)
 後悔しても時間は巻き戻らない。
 折角だから、どんな様子だったか見て回って、土産話と共に来年共に来ることを約束しよう、と足を踏み入れた。
「作成コーナーがあるんだね。ネックレスか花冠を作ってプレゼントしてみようかな」
 チラシの裏の全体図を見ながら、詩歌は作成コーナーへと足を向ける。
 けれども辿り着いたのはそことは反対の出入り口であった。
「ステージもあるんだ。時間があったら見に来てみようかな」
 呟きながら更に歩を進めるも、途中の通路の両サイドで満開の花を咲かせる桜の木に見とれ、足を止めた。
「綺麗……」
 暫しの間、見とれてしまうけれど、はたと気付く。目的は作成コーナーだ。
 再び歩き出し、漸く作成コーナーへと辿り着くことが出来た。
 一例として挙げられていたネックレスや花冠以外も作ることが出来るため、改めて何を作るか迷ってしまう。
 けれども、結局、詩歌はネックレスを作ることに決めた。
「ん……何か、暑い?」
 ネックレスを作りながら、ふと詩歌は身体が異様に熱を持っていることに気付いた。
 思わず、作成する手を止め、脱いでしまおうと服の裾に手を掛ける。
「なっ!? お嬢ちゃん、何やってんの!?」
 作業テーブルの向かい側で同じようにネックレスを作ろうとしていた年配の女性が、彼女の手を止めた。
「え、あ、いえ。どうしたのかな……急に暑くなって、無意識に……」
「風邪とかかい? 辛いなら、入り口付近に休憩室もあったから、行きなよ?」
 心配そうに覗き込んでくるその女性に礼を告げ、早々にネックレスを仕上げた詩歌は、公園を立ち去るのであった。



 寸でのところで事なきを得た者も居れば、そうでない者も居る――。

「……なんで2人して下着姿で抱き合って寝てるんだろ?」
 広場の片隅で、目を覚ました芦原 郁乃(あはら・いくの)はぽつりと呟いた。
 己も下着以外纏っていない状態であるが、目の前の、パートナーの荀 灌(じゅん・かん)も下着以外、一切纏っていない状態であった。
「あれ? あれれ??」
 記憶がハッキリしない中、一生懸命、そうなったワケを思い出そうとする。
 確か今日は2人して部活動に励んで、その後小型飛空艇で学園へと戻ろうとしていたところだった。
 その途中で、公園の上空を通りかかったとき、満開の桜が見えたものだから、立ち寄ったのだ。
 そして、甘い香りに誘われて、広場まで来たことを思い出す。
「そだ、広場でどんちゃん騒ぎしてる人がいて、その人たちに誘われて輪に加わったんだった」
 2人して、楽しく盛り上がっていると、場の空気にあてられたのか、頭がぼーっとしてきたことを思い出す。
 更に「なんだか暑いねぇ」と荀灌と話したことを思い出した。
「だからってみんなの前で脱ぐかぁ……わたし」
 そんな自分に呆れながらも身体を起こすと、目の前のパートナーを見遣る。
 彼女を起こしてあげるか、その前に服を着させるべきか。
 服を着せないまま起こせば、彼女はショックを受けるだろう。
 けれども着せようとしているところで起きてしまえば、傍から見たら脱がしているように見えるかもしれない。
「ん〜悩んでもしょうがない!」
 下着姿のままでも可哀相だが、何より風邪を引かれては尚最悪だ。
 着せてあげてから起こそうと郁乃は、荀灌の服を手に取ると着せやすいよう彼女に馬乗りになるように位置取った。
「んぅ……お姉ちゃん、何してるんですか?」
 そこで、荀灌が身じろぎしたかと思うと、あっという間もなく瞳を開き、目を覚ます。
(まさかと思うけど、脱がそうとしてた?)
「お姉ちゃん?」
 瞳に移る郁乃の姿を不審に思い、彼女はもう一度、訊ねる。
「こ、これはね、えっと天文学的な確率の偶然で……」
 慌てた郁乃がワケの分からないことを口にしようとした。
(やっぱり脱がそうとした?)
 おかしな様子の彼女に、荀灌はそう考え、悲しみが胸をいっぱいにして、瞳を潤ませる。
「盛り上がってるところなんだけどね、妹さんに服着せようとしてたんだよ。あんたら酔っ払ったようになって服脱ぎだすからどうなるかと思ったよ。風邪ひくといけないから早く服着なよ」
 こほん、と咳払いと共に、横から他の花見客が声を掛ける。
「え……」
 その声に、荀灌は声の主と郁乃を交互に見た。郁乃は必死に首を縦に振っている。何より服を着ろとばかりに、手にしていたそれを差し出した。
「あ、きゃあ!」
 差し出されて、己が下着姿であることを改めて認識し、荀灌は恥ずかしさに声を上げ、慌てて郁乃の手から服を取ると、それを羽織った。