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遅咲き桜と花祭り~in2022~

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遅咲き桜と花祭り~in2022~

リアクション

 一通り食べ歩き回った剛太郎望美は、望美の方から腕を組んで、ステージのある広場の方へと歩いていた。
 ステージでは花のように着飾った少女たちが舞い踊っているところだ。
「可愛らしいであります」
「そうね。……それにしても、この広場、少し暑いわ」
 ぽつりと呟いて望美が胸元を少し開ければ、開いた服の隙間から彼女の豊かな胸の膨らみが見える。
 不意にそれを目にしてしまった剛太郎は、ステージへと視線を戻し――実際、視線はその先の宙へと向いていたのだけれど――、体つきも大人になり色気も増した従妹の姿に、お互いそれなりに成長したな……としみじみ思いを馳せるのであった。



「空京で花祭りがあるんだって、徹一緒に行こう」
「ほう、風雅なものですね。いいでしょう、ちょうど暇ですし行ってみましょう」
 華月 魅夜(かづき・みや)の誘いに、水無月 徹(みなづき・とおる)が乗る。
「おや、珍しく一発承諾じゃないか。熱でもあるんじゃない?」
 そんな心配をする魅夜に、徹は軽く首を振った。
「こちらの桜はどのようなものなのでしょうか」
「へー、桜ね。やっぱり故郷が懐かしい?」
「そうですね……」
 そんなやり取りをしてから数時間――。
 花祭りの会場に、2人の姿があった。
「ふむ、美しいものですね。故郷の桜とは違いますが、こちらはこちらで風情がある。遅咲きの桜というのもおつなものですね。他の様々な花々もまた美しい」
「うんうん、綺麗だよね。きてよかったでしょ? 地球の桜も興味があるけど、今のあたしはこの花々で十二分に満足だよ」
 そう話しながら通りを歩く魅夜はふと辺りを見回していた視線を一箇所に留めた。
「おや、魅夜、どうしたんですか? 知人でもいましたか?」
 徹は不思議そうに彼女へと問い掛ける。
「うん? あれは雅羅さんじゃない?」
 告げて魅夜が指差したのは、広場の方へと向かう雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)だった。
「雅羅さんじゃないですか。あの人も来てたんですね」
「声をかけよう、一緒に花見も悪くないでしょ」
 魅夜が指差した先、雅羅の姿を確認した徹に、そう提案をする。
「いや…待ってください。嫌な予感がします。あの人は筋金入りの災難体質ですからね。何があるかも分かりません」
「あー、確かにあの人も大概騒動に巻き込まれる人だから……」
 眉をひそめた徹に、魅夜が納得して頷く。
「何かあったときの為に後を追いましょう」
「そうだね。心配だし後を追おう。何事もなければ普通に声をかければいいんだし」
 頷き合い、2人は雅羅の後を追い始めた。

 広場へと辿り着いた雅羅は何をするでもなく、花見客の様子やステージを見て回っていた。
「桜、綺麗ね……」
 人混みにでもあてられたか、ぼぅっとする頭を気のせいに思いながら、雅羅は桜を見上げてぼやく。
「おう、姉ちゃんも一緒にどうだ!?」
「一緒にって、何を……?」
 声を掛けてきた花見客に誘われるままに、どんちゃん騒ぎの中へと連れられていく。
 皆は既に酔っ払っているのか、すっかり出来上がっていて、飲めや歌えの大騒ぎだ。中には、暑さからか上着を脱ぎ出す者も居る。
「ッ!?」
 思わず視線を逸らしながらも、雅羅は誘われるままに注がれたジュースを飲み、つまみなどの屋台の食べ物を食べ始めた。
 そうしているうちに益々頭がぼぅっとしてきて、暑さを覚えて上着を脱ぐ。
「いいぞ、姉ちゃん! もっと脱げー!」
 何処からともなくそんな野次が飛ばされ、理性的に考えることを忘れた頭は、そのままシャツのボタンを2つ、3つ開いて胸元を曝け出し、更に下衣にも手を掛けようとしていた。
「おい……何してるんだ、雅羅」
「え……?」
 ふいに、彼女の後ろから現れ、下衣に掛けた彼女の手を取ったのは四谷 大助(しや・だいすけ)だ。
 無意識のうちに精神を集中させた彼は、皆のようにあてられたような様子はない。
「兄ちゃん、何、割り込んでんだ!」
 歴戦の戦士すら畏怖するような闘気を見せ、大助は野次を飛ばしてきた周りの客たちを怯ませた。
 改めてみれば欲情しかねないセクシーな雅羅の姿に、変なところで純情な大助は、興奮を覚えるより、彼女が周りの男たちの見世物になることを嫌い、怒りを覚える。
「……さっさと行くぞ。ここに居ると気分が悪くなる」
「あ、でも……食べ物とかの、お金……」
 平素であれば取り繕って話す口調も余裕がないのか、きつめの言葉で告げながら雅羅を立ち上がらせる大助に、彼女はおかしなところで律儀に支払いをしようとする。
「いいから来い。とにかく此処から離れるぞ」
 大助は、雅羅の手を強引に取ると、彼女に己の学ランを羽織らせて、その場から連れ出した。
 遠目に雅羅の様子を確認していた徹たちは、声を掛ける前に、大助が来たことにより一先ず胸を撫で下ろす。

 広場から離れ、人が賑わう通りを足早に抜けた2人は、静かな木陰まで来ていた。
「ご、ゴメン雅羅! 無理やり連れ出しちゃって……手、痛かったかな?」
 歩いているうちに怒りが治まった大助は、雅羅の手をぱっと離して、いつもの口調で問い掛けた。
「ううん、大丈夫よ」
 雅羅もあてられたような、頭にもやがかかったような状態から抜けたのか、首を横に振る。
「それなら良かった。……っと」
 微笑んだのも束の間、己の学ランの下、胸元を開けたままの姿が目に映り、大助は視線を大きく逸らした。
「え? ……、きゃあっ!」
 一瞬、何のことか分からない様子の雅羅もふと視線を落として、己のその姿に、身体を反転させ、慌ててボタンを留め直した。
 それから、学ランを脱いで簡単に畳むと大助へと差し出す。
「その、ありがとう。助かったわ」
「……どう、いたしまして」
 雅羅から声を掛けられ、逸らしていた視線を戻した大助は学ランを受け取りながら、応える。
 けれども、それ以降、2人に言葉が続かず、暫しの沈黙が訪れた。
「……広場は近付きたくないけど、何処か他でも見て回る?」
 視線を逸らし、少しばかり頬を朱に染めたまま、雅羅が訊ねる。
「雅羅がいいなら、喜んでエスコートさせてもらうよ」
 大助は笑んで、そう応えるのであった。



「興味深いのじゃ!」
 暑さから脱いでしまうほどの熱を誘発する謎の存在に、医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)は笑んだ。
 症状が起こっているのは広場付近の者たちで、思い当たるとすれば、周りに咲く桜の花粉か。
 幾つかの、吸い込んだのであろう者たちの様子を見ていると、益々興味が湧いてきた。
「この巨大扇風機で被害を増大……ゲフンゲフン。花粉を広場以外にも運んでやろうと思うのじゃ」
 強烈な風を送ることのできるそれを用意した房内は、早速スイッチを入れる。
「……これで、少しは主様の心も晴れるといいんじゃがの」
 そんな建前を呟きつつ、他の場所からも興味深い症状が見れればと、房内は笑んだ。



「まずは僕から。この香水をレティに、そしてこのネックレスはユウキに」
 それぞれが作成を終え、花見客で賑わう広場へとやって来たリアトリスはそう告げて、それぞれに作った香水とネックレスを渡した。
「ありがとうございますぅ。良い香りですねぇ」
 早速受け取った香水の蓋を開けたレティシアがふわりと漂ったその香りに嬉しそうに微笑んだ。
「パパありがとう、パパだぁ〜いすき♪」
 笑顔で礼を言いながら、ユウキはリアトリスへと抱きついて顔を摺り寄せる。
「ボクからはこの花冠だよ」
 ネックレスを首に掛けたユウキは、お返しにと花冠を差し出した。
 彼が乗せやすいよう屈んでくれた2人の頭に、ユウキはそれぞれ花冠を乗せる。
「ありがとうユウキ♪」
 花冠を乗せられたリアトリスは、ユウキの額に口付ける。
「あちきからは、ブローチをプレゼントですぅ」
 レティシアが差し出したのは、大小2つのブローチだ。
「ママもありがとう。だぁ〜いすき♪」
 ブローチを受け取って、ユウキはレティシアへも抱きついた。
 プレゼントのし合いが終われば、一家は花見を始める。
 リアトリスは超有名銘柄の日本酒を用意していて、花だけでなくそれをも楽しんだ。
「ユウキ〜、レティ〜」
 酔っ払ったリアトリスがユウキをレティシアごと抱きしめる。
 2人の間で、ユウキはレティシアに抱きついた。
「ふふ、子どもが2人なようなもんですねぇ」
 抱きついてきたリアトリスとユウキに、微笑みかけながらレティシアは2人を抱きしめ返した。
 リアトリスのつけているイランイランの香水の香りがふわりと皆を包み込む。
 その香りに、ユウキはもっととねだるように、超感覚で発現しているリアトリスの白くて大きな犬耳と、長い尻尾に触れた。
 それらに触れられると弱いリアトリスの犬耳がすっかり垂れ下がって、甘えるようにユウキやレティシアへと触れたり、抱きついたり、頭を撫でたりとスキンシップを繰り返した。