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少女に勇気と走る夢を……

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少女に勇気と走る夢を……

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 解除薬が散布される少し前、

「止まれ、俺が相手だ、来い」
 恭也達や朝斗達に会った後、廉は分身を見つけて呼び止めた。
 
「お前に俺が倒せると思っているのか」
 廉の分身は立ち止まり、振り返った。

「あぁ、来い」
 ゆっくりと構え、挑発的な笑みで分身を迎える。

「面白い」
 なかなかの強者と見た分身は廉の誘いに乗った。
 しばらくの沈黙。互いに相手の出方を見極めている。
 先に動いたのは、分身。
 『抜刀術』で妖刀紅桜・魁を瞬時に抜き、そのまま斬りかかって来る。それを軽やかに避け、流動的に分身の腕を掴み、相手の勢いを利用してひっくり返した。

「……くっ」
 唇から血を流してはいるが、目は楽しそうに笑っている。

「さすが、私の分身だな」
 まだ意識がある様子に感心する廉。
 戦闘はこれからだった。
 妖刀紅桜・魁で襲い来る分身を体術で軽やかに相手をする。息が上がっている分身と違って相手の力を利用して戦う廉の蹴り技の切れは落ちていない。むしろ鋭くなっている。

「戦っている間に私の分身を何とかしますかな」
 公台は気付かれないように動き出した。

「何とかしなければ!!」
 後ろで戦う廉を見守っていた公台の分身は、何とか援護をしようと『火術』を使おうとするが、突然自身の身体が凍り付き始めた。『エンデュア』を持っているためか効果はそれほど見られないが、戦闘に加わるのを止める事には成功した。
 
「陳宮!!」
 廉の分身は、公台の分身に異常事態が起きた事を知り、思わず自分の戦いから注意を逸らしてしまった。戦闘狂でも大切にしている者が危機だと知ると顔色は変わる。連れ回す間もやたらと公台の分身を気にかけていたが、密かにそういう部分が強化されていたのかもしれない。

「これで終わりだ」
 『疾風突き』で急所を狙い強力な一撃を与え、長い追いかけっこに終止符を打った。

「な!!」
 気絶する廉の分身を前に公台の分身は言葉を失った。

 勝負が決した時、空から解除薬の雨が降り出した。

『雨が降って来ましたよ』
 ネヴィメールは楽しそうに降って来た雨を見て、口を開けて解除薬を食べていた。薬自体は無害なので心配は無い。

「……き、消える」
 公台の分身は消えていく廉の分身を悲しそうに眺めていたかと思うと自身も静かに消えていった。

「分身が消えていきますな」
「……これでようやく終わったようだ」
 分身が消えるのを眺める公台に廉は軽く息を吐いて答えた。

「何だ、この雨は」
 空を見上げるハデス。作戦を終了させてしまう恐怖の雨が降っていた。
「き、消える……」
 細かな粒子となり足元から消えていくキス魔ハデス。

「……今回の作戦はここまでだ。撤退だ!!」
 これまでと悟ったハデスは戦闘員達を引き連れ、撤退を始めた。

「待ちなさい、兄さん!!」
 ハデスの後を慌てて咲耶が追いかけた。

「ははは、やっと終わったかぁ」
 恭也は疲れたように地面に座り込み、解除薬が降る空を見上げた。

 解除薬の雨が降り出し、朝斗に安らぎが戻って来たが、まだまだ賑やかな人達もいた。
「あぁ、あさにゃん。死なないでぇぇぇ」
 消えていくあさにゃんに涙と鼻水を流して悲しむルシェン。
「分身ですから死にませんよ」
 真面目なつっこみを入れるアイビス。
「儚い感じも素敵です!」
 デジカメで写真を撮る佐那。
「……はぁ」
 疲れたように朝斗はため息をついていた。

「……解除薬、これでこの騒ぎも終わりだネ」
 ディンスは降り注ぐ解除薬を眺め、消えていく分身に安心していた。

「優斗お兄ちゃんの分身が消えるよ」
 ミアが言った。
「これが解除薬なんですね」
 優斗は降り注ぐ雨を眺めていた。
「これで安心ですね」
「人騒がせだったな」
 テレサも灯姫も一安心しながら消える優斗の分身を見送った。

「分身、消えましたわ」
「ふぅ」
 消えていくミルディアの分身を見送る真奈とほっと息を吐くミルディア。

「ようやく終わりね」
 イリスは地面にめり込んだまま消える自分の分身を見送った。
「……わがままがまた一人に戻った」
 ぽつりとクラウンはつぶやいた。

「これで私の名誉も守れたって事かしら」
「……」
 ゆかりは忌々しそうに分身を見送り、マリエッタはキスの事を思い出し、沈黙していた。

「あれ、消えていますよ」
「みたいです。お別れです」
 レイナの分身がゆっくりと消えていった。
「あー、お嬢様」
 自分の手から分身の手の感触が消えていく事に悲しくなるリリ。
 結局、レイナの悪戯はリリの判別止まりだった。

「それじゃね、リス」
「元気で、リア」
 リアトリスは手を振って消えていく分身を見送った。

「あちきの分身も消えていくよ」
「今頃、私の分身も……」
 レティシアは気絶したまま消える分身を見送り、ミスティは消えているだろう分身の事を考えていた。 

「……終わりですか」
 朱鷺は、静かに消えていく自分の分身を見守っていた。

「師匠、雨だ。これは解除薬かもしれない」
 和深は降り注ぐ解除薬の雨に安心した。
「そのようだ。和深よ」
 セドナは消えていく和深の分身を見送った後、和深に声をかける。
「師匠、帰りに甘い物でも食べて帰ろう」
 和深は振り返り、陽気にセドナを誘った。
「……口説いているのか」
 セドナは先ほどの事件から思わず浮かんだ発想で言った。
「……いつも世話になっている礼かな」
 あまり深く考えて言った訳ではないので返答に困りつつも何とか答えた和深。
「間が気になるが、まぁ、よい。付き合ってやる」
 すぐに返答が無かった事は気になりつつも好物の甘い物が食べられるのなら大した事ではない。
 二人は、さっさと甘い物を食べに行った。

「本当に振り回されたな」
 消えていく分身を疲れたように眺める忍。
「お疲れ様、しーちゃん」
 香奈は忍を労った。
 信長の分身は敦盛を舞いながら消えた。
「気を付けるんじゃぞ」
 分身が消えた事に気付いた信長は舞を止め、静かに見送った。

「解除薬、か。結局見つからなかったな」
 必死に捜すも分身は見つからないままとなった唯斗。

 そんな唯斗の元に

「あ、助けてくれた方ですね」
「本当にありがとうございます」
「この後、是非お礼を」
「もう、惚れちゃいました」
「あの、返事をしたくて」

 何人もの女の子がぐるりと唯斗の周りを取り囲んでしまった。

「なっ、ど、どういう」
 あまりの展開に驚く唯斗。
 女の子達は互いに顔を見合わせ、もめ始めた。
 そしてその矛先は、唯斗に向けられた。

「私の事、素敵って言いましたよね」
「いえ、私の笑顔が」
「お礼をさせて貰えますよね」

 憤怒の顔に変わった女の子達に迫られるも逃げ道は全て塞がれてしまっていた。

「何してやがった分身の野郎ーーーーーーーーーーー!!?」

 唯斗の悲痛な叫びがむなしく響いていた。

「解除薬の雨か。解決したんだな」
 早々に撤退した裕樹は、空から降る妙な雨が解除薬であると知ると足を止め、見上げた。
「……成功しろよ、早く走れるようにな」
 そして、美絵華が再び走れるようになる事を願い、歩き始めた。

「……希望がある限り」
 全てが終わった帰り道、エッツェルは今日の事を思い出し、美絵華の願いが叶う事を願った。
 願うエッツェルの身体の浸食は止まらず、身体は崩れていき地面に右腕が落ちてしまう。
「……人の形を保てなくても心は人のまま」
 ゆっくりとつぶやき、おぼつかない足取りで歩いて行った。
 今日の出来事をしっかりと心に刻みながら。

 何とか街も静かになった。様々な被害を置き土産にしながら。
 この騒ぎは学校に知られ、ロズフェル兄弟は厳しい説教を受け、しばらくは大人しくしていたがすぐに悪戯兄弟に戻った。