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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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【神劇の旋律】ストラトス・チェロを手に入れろ

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第九章 黒幕、動く 2

 とはいえ、全員が全員こんな平和的な戦いを好んでいたわけではない。

「東寄り、来るぞ!」
 後方であちこちから入ってくる情報を総合しながら指示を出すのは、和輝と凶司、そして彼のサポートについているセラフの役目だ。
「敵は移動しながら動物たちを突っ込ませている、か」
「そのようねぇ。ということは、今いるのはこの辺りかしらぁ?」
 セラフが地図の一点を指すと、和輝と凶司が同時に頷いた。
「モンスターを使役している犯人は邸宅の周囲を時計回りに移動中! 余力のあるメンバーは先回りして捕縛に向かってくれ!」

 そうして、一通りの指示を出し終えて。
「……にしても、嫌われたものねぇ」
 セラフが、一つため息をついた。
「すまない。もともと人見知りをする子だし、どうもセラフの雰囲気が嫌いなやつと似ているみたいでな」
 彼女にそう答えながら、和輝は自分の陰に隠れているアニス・パラス(あにす・ぱらす)の頭を撫でた。
「そういえば、トレーネさんも苦手そうにしてましたね……何で僕まで警戒されるのかはわかりませんが」
 凶司のその言葉に、セラフが呆れたように言う。
「凶司ちゃぁん、それは自分の胸に聞いてみたらぁ?」
 憮然とする凶司の心中を代弁するかのように、アニスが式神化していたぬいぐるみが言葉を発した。
「わけがわからないよ」

「っしゃあ、次っ!!」
 ねじれた角に、長い爪と牙。
 人間というより魔族と見まがうような姿の何者かが、向かってくる獣たちを次々と血祭りに上げていた。
 超感覚によって変貌したロアである。
「やるな、ロア! ならばこっちはこうだ!」
 本来のアウレウスの姿に戻ったアウレウスを纏ったグラキエスが、「ブリザード」で一気に多くの獣を凍りつかせる。
「お前こそ!」
 楽しげに笑い合うロアとグラキエスにとっては、この戦いももはやただのスポーツ、もしくは遊びのようなものでしかない。
「グラキエス、競争するのはいいが無理はするなよ」
 自らも両手剣を振るって獣たちを薙ぎ払いつつ、ゴルガイスが心配そうに言う。
「わかっているさ。勝負をしている以上負けたくはないが、まずいと思ったらすぐに退く」
 その言葉に、今度はアウレウスが不安そうな声を出す。
「主……いや、しかし……」
 恐らく、人の姿のままなら頭をかきむしっていたかもしれない。
 グラキエスに無理はしてほしくないが、「勝負」の条件が条件なので、負けてほしくもない。
 そんなアウレウスの葛藤を知ってか知らずか、ロアとグラキエスは楽しそうに次の敵へと向かった。

「さ、かかってきなよ獣共」
 大剣を手に、凶暴な笑みを浮かべて獣の群れの中に飛び込んでいくのは月影 青藍(つきかげ・しょうらん)
 比較的温厚な種族とされる花妖精の中では、彼のように好戦的なものは極めて珍しい。
「どういう訳か、俺、ずっと真っ黒い気持ちが治まらないんだ……」
 だから暴れさせてよ……この怨みを鎮める為にさぁ!!」
 獣たちの爪牙を紙一重でかいくぐりながら、力任せに剣を振るって薙ぎ払う。
 その様子を、玖珂 美鈴(くが・みれい)は後ろから心配そうな様子で見つめていた。
 深手こそないものの、浅い傷がいくつも青藍の腕や脚に刻まれていく。
 その様子に胸が痛むも、彼を止める術は美鈴にはない。
 今の彼女にできることは、少しでもその傷が少なくて済むよう、後方から援護することだけだった。





「そろそろ敵の顔触れが変わってきましたね」
 付近に操れる動物がいなくなってきたのか、ただ単に魔力が尽きかけてきたのか、それともまさか勝利を確信して詰めにでも入ったのか。
 敵の真意は不明ながら、次第に突進してくるだけのモンスターや野生動物は減り、明らかにドルイドの関与を疑わせるような相手が増えつつあった。
「いずれにしても、こちらの戦力を見誤ったようです」
 上空から襲ってきた剛雁をカウンターで叩き落としながら、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が一つ息をついた。
「同感です。そろそろ敵も打ち止めでしょうか」
 普通にそう話しながら、東 朱鷺(あずま・とき)が魔術で迫りくる獣たちをまとめて牽制する。
「そうだといいのですが」
 そんな二人の考えの正しさを証明するかのように、敵の数は明らかに減っていた。