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リアクション
第八章 魔法少女と悪の科学者 2
「……そういうことだったのね」
不敵な笑みを浮かべてハデスたちの前に立ちふさがったのは、紅の魔法少女に変身した八重であった。
その傍らには、奈津と萌黄の姿もあるが……二人とも、イマイチ話が見えていない様子である。
「八重、そういうこととはどういうことだ?」
同じく事態が飲み込めていないブラック ゴースト(ぶらっく・ごーすと)がそう尋ねると、八重はびしっとアルテミスたちを指さした。
「あの三人の格好を見れば全てわかるでしょう?」
どうやら、八重にとっては全てが明々白々であるようなのだが。
「……わかるか、萌黄?」
「ううん……なっちゃんは?」
「あたしもさっぱりだ……なぁ八重、どういうことなんだ?」
相変わらずきょとん顔の二人と、もし顔があれば同じくきょとん顔をしていたであろう一台とに、八重ははっきりとこう言った。
「パフュームちゃん! シェリエさん! トレーネさん!
あの三人が、ディオニウス三姉妹に変装して悪事を働いていたのよ!!」
『な、なんだってー!?』
八重を除いた一同の声が見事にハモる。
もちろん、奈津や萌黄と、ハデスたちの「なんだってー」に込められた意味は全く違っているのだが。
「あれのどこが変装……というか、セニエさんはアレに騙されてたっていうの!?」
「そうだぜ八重、いくらなんでもそれはこじつけが……」
さすがにこのトンデモ説を否定しようとした奈津たちだったが、話はさらにおかしな方向に転がる。
「フハハハ! よくぞこの完璧な変装を見破った!!」
いや待てどこが完璧な変装だ、というかそもそも自分でいきなり悪事を認めるな、というか。
もはやツッコミどころしかなくて逆にどこからツッコミを入れていいか迷う状況なのだが、なにはともあれこの三人が「偽ディオニウス三姉妹」であることだけははっきりした。
「ということは……信じられないけど、お前たちがこのモンスター騒動の黒幕だったんだな!」
「そんなコスプレで、パフュームさんたちを犯人に仕立て上げるだなんて……許せません」
奈津たちの言葉に、八重が悲しげに言う。
「時には協力したこともあったけれど……悪の科学者と正義の魔法少女。
やはり戦う運命は避けられないようね」
臨戦態勢をとる三人に、今度はハデスが慌てて弁解に入った。
「ちょっと待てどうしてそうなる!
確かにディオニウス三姉妹に変装しているのは事実だが、我らはまだ何の悪事もしていないぞ!?」
いくら悪の秘密結社といえど、やってもいない悪事の濡れ衣まで着せられるのはさすがに嫌であるらしい。
だが、すでに八重の頭の中では一部の隙もない完璧なシナリオが完成してしまっているようだった。
「問答無用! ここであなたたちを成敗して、本物の三姉妹の濡れ衣を晴らしてあげるわ!!」
「だ、だから今回は私たちの方が濡れ衣で……!!」
アルテミスの弱々しい抗議が、もちろん八重に届くはずがない。
「仕方ない、何が何だかわからんが、とりあえずかくなる上は実力行使あるのみだ!!」
結局、あまりにも予想外すぎる状況にヤケになったハデスの号令で、なし崩し的に戦闘が開始され。
いつも通りにヘスティアのミサイルがアルテミスに命中したり。
めんどくさくなったのでとっととサボって逃げようとしたデメテールに奈津のドロップキックが炸裂したり。
八重の必殺のフェニックス・ブレイカーがこれまたアルテミスに命中したり。
そんな感じで、結局いつも通りに悪の秘密結社オリュンポスは撤退を余儀なくされたのであった。
「なぁ師匠、なんかいろんな意味で釈然としないんだけど……」
「そうだな……だが、世の中には考えてもわからないこともある」
……その通りでございます、ミスター・バロン。
本当、どうしてこうなったんだろう……?