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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ

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【蒼空ジャンボリー】 春のSSシナリオ
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リアクション



6


 椅子に座って、改めてリンスをまじまじと見つめてから。
「これ、どないしたら治るんやろなぁ」
 社はぽそりと疑問を口にした。
 リンスはもとより、先ほど男の子に変えられてしまったノア。それに何より千尋である。
「あのままちーが男だったら俺、どないしたらええんや!」
 顔立ちはそこまで変わっていないから、男の子というより男の娘で、
「……うん?」
 ありかもしれない。
 だってそもそも、千尋であることには変わりないし。
「やー兄みてみてー♪ ちーちゃん、デカいことやったよー♪」
 ホットケーキを前に笑う千尋を見て、結論。
「……うん。弟でも可愛いから、ええな!」
 どっちでも問題はないだろう。
「さすがちーやな。男の子になっても可愛さは衰え知らずや!」
「兄馬鹿」
「リンぷーだって人のこと言えんやろー。クロエちゃん大好きのくせにぃ」
「それ関係なくない?」
 とはいえ、本当にずっと戻らなかったらどうしようか?
 服とか、改めて買いに行くしかないな、と考えながら、「レンさんは何かええ解決方法しらん?」レン・オズワルド(れん・おずわるど)に話を振ってみることにした。
「飽きたら元に戻すんじゃないか? 魔女とはそういう気まぐれな性質だと聞くが」
「気まぐれやさかい、戻すのも忘れられたりして」
「ありうるな」
 レンと社との会話を聞いたリンスが、「ちょっと嫌だな」と困ったような顔で窓の外を眺めた。


 もしもこの場に、メティスがいたら彼女はどんな顔をしただろう?
 想像してみると、中々に面白い。
 真面目な彼女のことだから、きっと女になったリンスのためにあちらこちら走り回り奔走することだろう。
 何か『出来ること』があるのではないか、ではなくて。
 何か『したいこと』をさせてあげられるのではないか、と。
 メティスは、リンスのために何が出来るかを考えるから。
 きっとそうだろう、と結論づいたところで、では自分はどうかとレンは改めてこの場を見渡した。
 社とリンスが他愛のない話をし、千尋とノア、クロエがキッチンではしゃいでいる。どちらのグループにも属さない未来は、あっちへ行ったりこっちへ行ったり、その都度面白そうな方の会話に混ざる。
 誰しも楽しんでいる状況に、水を差すことはないだろう。静かに眺めることにした。
 ――出来ることといえば、そうだな。
 席を立ち、キッチンに向かった。レンがキッチンに入ると、「あ」とノアが短く声を上げた。それから誇らしげに胸を張る。
「レンさん見てください、このビッグなホットケーキを!」
「ああ。でかいな」
「ちーちゃんたち、みんなでデカいことに挑戦したんだー☆」
「その年でこれだけ大きなことをやってのけるとは大したものだ。将来有望だな」
「ほめられたわ!」
 きゃあきゃあとはしゃぐ、実に微笑ましい少女たち――といっても、今はクロエ以外少年なのだが――を横目に、レンはミルクティーを淹れた。マグカップを持ち、キッチンを出る。
 淹れたお茶を置いたのは、椅子に腰掛けるリンスの前。
「ミルクティーはいかがですか? お嬢様」
「……楽しそうだね、オズワルド」
「楽しまなければ損だからな」
 まあ、そうだけど。頷いて、リンスがマグカップに口をつける。
「温かいものを飲むと落ち着くだろう?」
「うん」
「じゃあ、ここいらで俺のパートナーたちを紹介しよう」
「?」
「初顔合わせが二人いる。魔女のリィナ・コールマンと、悪魔のリンダ・リンダ(りんだ・りんだ)だ」
 名前を呼ばれたのに気付き、リィナとリンダがレンを見た。目配せし、二人を呼んだ。
「今更だけどよ。なんだ、このカオスは。笑うしかないって状況じゃねーか」
「笑える立場なら何よりだね」
「話にゃ聞いていたが、お前食えない返答するなぁ」
「それはどうも」
「ってーかよ。とりあえず、男も女もちゃんと服を合わせようぜ。今のお前らは仮装パーティもいいとこだ」
 それまで見に徹していたリンダが言うに、ちぐはぐすぎるとのことで。
「一般のお客さんが来たら何事かって思うだろうよ」
「常識的なんだね」
「いや別に普通だろ。お前らが非常識なんだよ」
「そっか」
「そうだよ。特にお前が一番おかしい」
「常識? 格好?」
「どっちもだな」
 初対面でこのやり取りはどうなのだろう。レンはひそかに苦笑する。険悪さはないし、話も弾んでいるほう、なのだろうか。乱雑な口調と平淡な返しのせいで殺伐として見えるが。
 リンダはそのままリンスと少し会話を交わし、工房を出て行った。街まで行って服を買ってくるらしい。
「夕方には戻るっていうし、別にこのままでもいいんじゃないかな」
 リンダの背姿を目で追いながら、リンスがぼやく。
「着替えてやれよ。その方が、件の魔女が満足するだろうし」
 呟きに対してリィナが言った。どういうこと? とリンスがリィナを見て首を傾げる。
「さっきノアにも言ったがな。男が女に、女が男に……そんな魔法を使っても使い手には何の利点もありゃしないんだ。せいぜい、相手の反応を見るくらいしか楽しむ要素はない」
「それ。大当たり」
「なんだろ? だったら相手を楽しませてさっさと飽きさせた方がいんじゃないか。……ああでも却って『やっぱりこのままがいい』ってなるかもな」
「困るな」
「ま、犬に噛まれたと思って諦めな。魔女ってのは総じて利己的なんだ。自分のやりたいことをやるために人としての生き方を捨てた。そういう奴らばかりなんだよ」
 ふうん、とリンスが相槌を打った。
「コールマンもそうなの」
「私のことは今関係ないだろ。余計なことを考えないで、約束通りになることを祈っておくんだな」
 そのまま、リィナは目を閉じた。興味なさそうに、お茶を飲む。
 会話が止まり、ちらりとリンスの様子を窺うと目が合った。レンは軽く肩をすくめた。
「こんな奴らだ。仲良くしてくれると助かる」
「うん」
 レンは窓の外を見る。このところ日が伸びてきたこともあり、太陽はまだ高いところにある。日暮れまではまだそこそこかかりそうだ。
「……どうする? せっかくだし写真でも撮っておくか?」
 写真、という単語に、社が「お」と声を上げた。会話の輪の中に入ってくる。
「ええやん! リンぷーの性別転換した写真とかレアやでぇ……」
「先ほど、紺侍の奴に連絡を入れておいた。そろそろ来る頃だろう」
 ほら、噂をすればなんとやら。紡界 紺侍(つむがい・こんじ)がのんきな顔で歩いてくるのが窓から見えた。
 呼びに行こうと席を立ったとき、
「オズワルド。日下部。俺、悪乗りはよくないと思うな」
 若干、不機嫌そうなリンスの声が聞こえた。……これは、流した方がいいのだろうか。
 どうする、と社と顔を見合わせて、
「リンぷー、怒らんでや〜!」
「冗談だ、冗談」
 流すことにした。
 リンスは不満そうな顔のまま、紺侍が工房に入ってくるのを見ていた。