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日帰りダンジョンへようこそ! 初級編

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日帰りダンジョンへようこそ! 初級編

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09:とぅびーこんてにゅー?


 


「クリア条件達成、おめでとうゴザイマス」


 アルファーナを攻略した面々が、確保した新人やチェイニと共に、最後の扉を開くと、先に到着していた挑戦者たちとマリーが、拍手と共に、にっこりと微笑んで彼らを迎え入れた。
 その途端、部屋には盛大なファンファーレが鳴り響き、荘厳な音楽が満ちて、急にその場がダンジョンの中ではなく、どこかの宮殿の一室のような雰囲気へ変化した。
 その演出には、達成感に顔を綻ばせる者、気恥ずかしげにする者など反応は様々だったが、そんな彼らに、マリーは皆さん、と口を開いた。
「ここは、本物のダンジョンではありませんし、お宝も用意してありませんし、名誉を得ることもデキマセン。ですが……」
 言いさして、皆の顔をゆっくりと見渡して、マリーは心から嬉しそうに微笑んだ。
「皆さまの思い出となることが出来れば、これ以上のことはゴザイマセン」
 そう言って、ドレスのはしをつまんで、ふわりと物語のお姫様のようにお辞儀をすると、一人一人の手に祝福のキスを贈って回るマリーに、改めて達成感を胸に宿した挑戦者たちは、お互いに顔を見合わせて、笑顔を浮かべたのだった。




 その帰路。
 どうやら部屋に転送装置のようなものが設置されていたらしい。マリーが何かの操作をした一瞬後には、契約者たちそれぞれの足は、遺跡の入り口の前へと着地していた。
「本当に至れり尽くせりなのでありますね」
 感心したように丈二が呟き、位置を確かめるようにくるりと視線を回すと、他の挑戦者たちや探索者たちも、地上へ戻ってきているようだった。どうやらこの転送装置も、マリーのいた場所以外にも設置されているらしい。

 そうやって、思い思いの感慨を胸に宿しながら帰還した契約者たちを迎えたのは、揚げたて、焼きたて、作りたての食材が生む、食欲をそそる匂いたちだ。
「皆、お帰り。食事の準備は出来ているぞ」
 にっこりと笑顔で迎える菜織の隣で、クローディスも準備の終わったテーブルを笑顔で示した。
「動き回って、お腹が減っただろう。存分に食べて飲んでくれ」
 その言葉に、いっせいに皆はテーブルに向ったが、全員一瞬怯むこととなった。
 肉野菜炒めや厚揚げの煮物、魚料理などといった、一見まともそうなものと、トカゲや、魚とは言いがたい形のなんだかわからないような、見た目のグロテスクなものが入り混じっているのだ。
 見た目はどうにも食欲を失わせるが、だがしかし、冒険を終えた彼らの胃袋は、ぐうぐうと食事を求めて訴えている。
「うう……ままよ」
 覚悟を決めて、手を伸ばしたが、見た目は兎も角、食べれないと言うこともない。空腹は最高のスパイスという言葉通り、空腹に染みるそれらを頬張り、それぞれ、誰ともなく持ち出した日本酒やらワインやらも空けながら、大いに食べて飲んで和んだところで、誌穂が口を開いた。
「それで結局、この遺跡ってアトラクションのようなもの、なんですか?」
 アルファーナの物言いや、地下牢に入っていた契約者たちの話からそう推測した誌穂の言葉に、ジュースで喉を潤しながら、和輝も「マリーもそれらしきことを言っていたな」と、数時間前のことを回想しながら口を開いた。


 遺跡のクリアが確定した後、マリーが語ったところによると、こうだ。

 この遺跡の真相について問う面々に、マリーはにっこりと笑った。
「ご察しの通り、このダンジョンは初めから”ダンジョンとして”作られたものでゴザイマス」
 つまり、自然を利用してダンジョン化させたわけでもなく、何かを守るため、というのでもなく、ただダンジョンであることが目的であり、全てなのだと言う。
「ダンジョンそして……ってことは、まさかとは思うけど、古代にダンジョン研修用に作られた、のか?」
 和輝が首を傾げたが、マリーが応えるより早く「違うよね」とアニスが口を挟んだ。
「なんか、わくわく、って感じがするもん」
 言うと、にっこりと嬉しそうなマリーは「そう感じていただけると嬉しいデス」と頷いた。
「この場所は、お客様に楽しんでいただくために作られたダンジョンなのでゴザイマス」



「まあ、今で言えば遊園地のようなものかな」
 とは言え、大衆的なものではなく、貴族の道楽か何か、もっとプライヴェートな目的で作られたもののようだ、とクローティスは説明した。冒険者になりたくでもなれなかった貴族や、気晴らし、あるいはクローディスたちのように練習として挑むものもいたらしい。だが、天音はどうも、納得しきれていないようだ。
「……本当にそれだけ?」
 それだけであれば、今でも使われていたとしても可笑しくないのに、と。続くのに、クローディスは説明を続ける。
「割りと最近まで稼動していなかったんだよ。それに安全だろうとは言え、全く監視しないわけにも行かないしな」
 その説明に、ふうん、と何人かも納得しかかったが、説明しておきながら、クローディスはくすっと笑った。
「まあ……他にも色々、なくはない」
 ぼかすような言葉に、え、と目を瞬かす面々に、クローディスはぱち、と片目を瞑って見せた。
「それは、またのお楽しみ、かな?」
 面白がっているようなクローディスに、つれないなあ、と誌穂たち何人かが苦笑したものの、その逆に興味深々、という顔をしたものも居る。
「じゃあ、上級者向けの難易度設定も可能なの?」
 その内の一人であるルカルカが、わくわく、とその目を輝かせながら問うのに、勿論、とクローディスは頷いた。
「挑戦してくれれば、あいつらも喜ぶだろう」
 そう答えてから、ふと通信機が点滅しているのに気づいたクローディスは、それに応答して、皆を振り返った。


「マリーから伝言だ。

 『チャレンジでなくても、また是非遊びに来てクダサイマセ』  

                                    ……だ、そうだ」

 


 それには、皆一瞬顔を見合わせ。
 あるものは勿論、と高らかに、あるものはもう嫌だ、と涙声で。
 思い思いの感情と共に、それに応えると、手にしたグラスを、夕日の沈みかけた空に、高々と掲げたのだった。





 To Be Continued……?



担当マスターより

▼担当マスター

逆凪 まこと

▼マスターコメント

皆さま、お帰りなさいませ
たいへんお疲れ様でした

さて今回、流石にメモは簡単すぎたかと思いますが
初級編とか言いつつ、地味に嫌がらせのようなあれこれがあったりで
一筋縄ではいかない仕様となっておりましたが
無事に遺跡を攻略できまして何よりです

というか皆さまの自由さには本当に毎度びっくり&楽しませていただいております
またこのダンジョンを訪れる機会がありましたら
是非チャレンジしてやってくださいませ
マリーたちと共に、お待ち申し上げております