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リアクション
第五章 Q.そんな料理が大丈夫か? A.大丈夫なわけねーだろ
「他人の不幸は蜜の味。そんな自分が嫌いじゃない全パラミタの皆さーん! 間もなくBブロックの料理審査がはーじまーるよー! 司会進行は泪先生に代わって小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)と」
「僕、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)でお届けします」
「さて先程まで行われていたAブロック。そこで出された料理はどれも只者ではありませんでした!」
「審査員の方々、後司会進行の方達もまだシューマウンテンに埋もれたまま救出されていません……ってそれ大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、多分! そしてこのBブロックも負けず劣らずの猛者達が勢ぞろい! 果たしてどんな料理が出てくるのか! そしてこれから紹介するのはそんな料理に立ち向かう毒見ストの皆さんでーす!」
「翼さんが『セメント前並み』と表現するくらいの緊張感があふれ出ています! 命は惜しいもんね……」
「それでは紹介していきましょう! まずは茅野 菫(ちの・すみれ)さんとパビェーダ・フィヴラーリ(ぱびぇーだ・ふぃぶらーり)さーん!」
「菫さんは『美緒さんが参加するから』というのが参加理由みたいだね。好物……というか大丈夫な物は化学物質は耐性があるそうです。逆に苦手な者は胃薬とか。昔ラッパのマークでトラウマになったんだってね」
「パビェーダさんは菫さんの代打役をやるんだって。菫さんが倒れたら代わりは任せたよ! ちなみに好物はお酒! ロシア方面出身は伊達じゃない! 反対に苦手な物は魚卵! 高価安価は関係なし! 生理的に苦手らしいよ!」
「次に紹介するのは如月 正悟(きさらぎ・しょうご)……何か吹っ切ったような顔しているけど、大丈夫かな……?」
「腹を括った良い顔をしているよ、正吾さん……六文銭の準備はもうできているようだね!」
「それあの世への片道切符だよね? あ、正吾さんは好物は『好き嫌い言ってられるか!』と何だって食ってやる宣言を出しました。あと苦手な物は生もの。『生はビールだけにしておいてくれ!』とのことだよ」
「回復薬はいっぱい集めておいたから安心して逝ってね! さてお次は大所帯だよ! まずはコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)さん! 今日の敵は料理だ!」
「見た目は頑丈そうだけど料理相手はどうなんだろうね……あ、本人から『揚げ物は大丈夫なんじゃないか? ただ汁物は錆びるかもしれないから避けたいところだな……』とコメントを頂きました」
「そんなハーティオンさんをさっきからぽかぽか殴っているのはラブ・リトル(らぶ・りとる)さんだよ!」
「見学のつもりだけだったのに完全に巻き込まれた形だからね……甘い物が好きだけど辛い物は苦手みたい」
「良くも悪くも女の子だからねー……お次は業深き者達へ説教だ! 夢宮 ベアード(ゆめみや・べあーど)さん!」
「中の人などいやしないよ! 火が通っていれば何でも食べるというけれど裏を返せば生ものは致命的!」
「そして最後は龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)さんだー! 美羽たちには何を言っているかはさっぱりだよ!」
「ハーティオンさんの通訳だと『肉大好き! けど草なんて食べられるかー!』という肉食派だよ!」
「以上、総勢6名の毒見ストは最後まで生き残れるのか! 毒見ストの皆さん、良いコメント期待してるよー! と、前置きはこのくらいにしておこうね! それじゃコハク、始めるよ!」
「それじゃ早速いくよー! まずはこの人から、どうぞ!」
「何かやけにテンション高いわね、あの司会。てか毒見ストって何よ……」
疲れた様に菫が呟く。
「それに対して、こっちは……ねぇ……」
パビェーダがちらりと横目で他の審査員を見る。
「……おかしい、こんなの絶対料理と違う……いや料理なんて言っちゃいけない……」
「あぁ……美人薄命何て言うけどこんな死に方嫌すぎよ……見学のつもりだったのに……」
視線の先にはぶつぶつと虚ろな目で呟く正悟とラブがいた。
「そうこう言っている内に始まるらしいぞ」
ハーティオンがそう言うと、入場口から何者かが姿を現す。
「あれ、最初は私達?」
それは布袋 佳奈子(ほてい・かなこ)とエレノア・グランクルス(えれのあ・ぐらんくるす)であった。
「さーて、始めるよー!」
鉄板の下に炭を敷くと、佳奈子は【火術】を用いて火を点ける。
暫くすると熱された鉄板から陽炎のような熱気が立ち上りだした。そこを見計らい、エレノアがバターを転がすと固形のバターがあっという間に液体へと変わる。
すかさず、佳奈子がバターの上に牛サーロイン肉を乗せ、両面をじっくりと焼きだす。
「このくらいかなー、エレノア!」
「はい、これね」
佳奈子はエレノアからブランデーを受け取ると、肉にかけ、火をつけた。炎が一瞬立ち上るが、アルコールが飛ぶと収まった。
佳奈子はそのまま肉を鉄板の上から引き上げ、皿へ乗せると用意してあった付け合せのブロッコリーやマッシュルームを盛り付け、エレノアがソースをかけた。
「これでサーロインのフランベ焼き完成! さ、召し上がれ!」
そう言って佳奈子は審査員にそれぞれ配るが、誰も警戒して中々手を着けようとしなかった。ドラゴランダーを除いて。
肉好きのドラゴランダーが我慢しきれず、真っ先に被りつく。
「ガオン! ガオオン!」
そして尻尾を振り回し、叫んだ。それは苦痛の物などではなく、喜んでいるようであった。
「……美味いと喜んでいるな」
ハーティオンが言うと、其々が警戒しつつも手を伸ばす。
「……美味いじゃん」
「あ、ああ……うん、美味いな……」
「……うん、普通に美味しいわね」
菫と正悟とラブが釈然としない表情で呟く。ハーティオンとベアードは黙々と食べていたが、何事も無く完食する。
「美味しいって、エレノア!」
「頑張った甲斐があったわね!」
美味い、という言葉に、佳奈子とエレノアが手を取って喜んでいた。
「あー……ちょっと待て。これ何の肉だ?」
「へ? 普通の牛肉だけど? サーロインの」
「じゃあ何か変な物入れたか?」
「変な物って?」
正悟の問いに、佳奈子が首を傾げた。
正悟だけでなく、菫もラブも疑問を抱いていた。このルールであるのに、この料理は普通すぎたのだ。
「いや、おかしいじゃん。これ普通に食べられるし、異物もないし……強いて言うなら炭火焼きで鉄板を使うのくらいしかなくね?」
「それじゃこのバトルだとおかしいわよね? でもソースも別におかしくないし……」
「……佳奈子、私達何か勘違いしていたんじゃない?」
菫とラブの考え込む仕草を見て、エレノアが少し考えて呟いた。
「え? 何が?」
対して佳奈子は何も気づいていないようであった。
「……えっと、料理バトルよね、これって?」
「まぁ、バトルって言えばバトルだけど……」
そこで二人に対して、改めてルール説明を行う。
「……はー、そういうルールだったんだ」
「とんでもないルールね……すっかり普通に作ってたわ、私達」
佳奈子とエレノアがうんうんと頷く。
この二人は、ルールを勘違いしていた。普通に味や見た目を審査するタイプの料理バトルだと勘違いしていたのであった。
「それじゃ何もないわけよね」
ラブがほっとしたような息を吐いた。何もないわけである。
料理は全員が完食し、ドラゴランダーなど肉を食べられて歓喜の雄叫びまで上げていた。野菜はしっかりと残していたが。
普通の料理バトルならいざ知らず、このルールでは低い評価結果で佳奈子達の料理は終了した。
「さ〜て、お次は僕だね〜」
そう言って入場してきた崎島 奈月(さきしま・なつき)の姿に、審査員一同が目を丸くして驚く。
奈月は所々血を浴びていた。それだけでは終わらず、牛の亡骸を引き摺っての登場だ。
「食材は新鮮な物がいいからね〜」
そう言うと、奈月は徐に牛の解体を始めた。血抜きも満足にしていない牛の亡骸からは血が時折飛び散る。奈月の頬にも飛び散るが、軽く拭う程度で済ませていた。
その光景でもアレなのに、グチャリ、とかヌチャリ、とか生々しい音が更に引く。てかグロい。
しかしそこは契約者。魔物との戦い等でその程度の耐性はある程度はある。軽く引く程度で済んでいる。
「う、うわぁ……」
だが、その中でラブがこの光景にドン引きしていた。
「取れた取れた〜。それじゃこれを煮込むよ〜」
骨やら内臓やらを残し、奈月が既に用意してあった鍋に肉を切り分けて入れていく。その両手は血に塗れており、足元に転がっている内臓とかも合わせると何処ぞのホラー映画並みの光景である。一応注意しておくが、これはただの牛である。
「はい、できたよ〜!」
そんなこんなで奈月の調理が完了したらしい。完成した物は牛鍋。どんな物かというと、牛一頭から取ったばかりの肉をふんだんに使った鍋である。
「味付けは醤油をベースに砂糖を入れてちょっと甘めの味にしたよ〜」
出来上がってみると意外と普通の代物であった。この鍋に、肉好きのドラゴランダーは歓喜した。
他の審査員達も、先程の光景を思い出すと少しばかり躊躇いはあったが物は普通の物であったので難なく完食できた。ハーティオンを除いて。
「ハーティオン、平気ー?」
「だ……大丈夫……だ……」
ラブの呼びかけに、カクカクとハーティオンが答える。最初はひょいひょいと食べていたが、鍋の汁が機械の身体にはちょっと効いたようである。それでも完食を遂げるのであったが。
「あちゃ〜、駄目だったか〜。全部食べてもらえるのはうれしいけど、結構複雑だね〜」
空になった鍋を見て、奈月は苦笑していた。
「でね、私も色々食べたり作ったりした経験とかから研鑽を重ねた結果、一つの結論に至ったんだよ」
芦原 郁乃(あはら・いくの)が力説するのを、審査員一同顔を顰めつつ黙って聞いている。
「臭いがきつい物っていうのは珍味とか、美味しい物として扱われることが多い……そう! 『臭いものほど美味い』って事なんだよ!」
そのまま『な、なんだってぇー!』という声が聞こえてきそうなくらい郁乃は力強く説くが、残念ながらその声は聞こえない。
「で、その結論が……」
「これってわけか……」
菫と正悟が手元の皿に目をやり、『うっ』と顔を顰める。手元にあったそれから漂う臭いのせいである。それは最早異臭と呼んでもいいだろう。
それもそうだろう。郁乃はその持論を元に、シュールストレミング、ホンオ・フェ、エピキュアーチーズ、キビヤックという世界屈指の臭い食材を用いたのだから。
それらの発酵食品を混ぜ合わせ、隠し味にくさや液と魚醤を混ぜてソースにし、一本のぶっとい塊にかけていた。更に見た目を彩ろうと刻んだドリアンまで上からかけられている。臭い物のオンパレードだ。
「所で、これはなんだ?」
正悟がその太い棒のような物を尋ねると、
「……パスタです」
郁乃はは目を反らしながらぽつりと呟いた。
「……パスタ? 私の知っているパスタとは違うのだが、こういうのもあるのか?」
ハーティオンが首を傾げながら他の面々に問うが、帰ってきたのは「んなわきゃーない」という答え。
「ゆ、ゆでている間にくっついちゃった……あはははは……」
「一束丸々くっつくってそうないんじゃね?」
「で、でも身体にはいいはずだよ! 栄養価は高いし!」
「この臭いで既に身体に悪いような感じするけど……あ、悪いけどあんた近寄らないでくんない? 何かあんたも臭いんだけど」
「酷ッ!?」
菫が鼻を押さえてあからさまに郁乃を遠ざける。実際、シュールストレミングの缶を開ける際に中の液体を浴びている為、異臭が取れないのであるが。
「に、臭いはいいから食べてよ!」
涙目になっていた郁乃に言われ、渋々と鼻をつまみながら審査員が手を伸ばす。
「……の、飲み込むのが辛い……」
「う、うん……なんていうか……その……」
正悟とラブが渋い顔をして歯切れの悪い言葉になっていた。
「なんかションベン食ってるみてぇ」
「「人が折角言わなかったことを!」」
菫ははっきり言った。この感想は発酵の際のアンモニア臭のせいであろう。
ブツブツと文句を言いながらではあるが、そこは百戦錬磨の契約者。臭いに涙を流しつつも完食。先程同様ハーティオンがやはり苦戦したが、何とか完食を達成。
「美味しかった?」
何処か期待が籠った目で郁乃が問うが、
「いや普通に美味くねぇよ? くっさいし」
と菫があっさりと打ち砕いた。
『さて早くも三組の料理が披露されましたが、意外にも全て完食! 凄いね美羽!』
『感心するのはまだ早いよコハク、今の人たちはまだヌルい方。本番はこれからだよ!』
「今のでヌルいのかよ……」
「もう早くおうち帰りたい……」
げんなりした表情で、正吾とラブが呟いた。
「……代打、回ってこなければいいなぁ」
そして今の所出番がないパビェーダがぽつりと呟いた。
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