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リアクション
第三章 皆さま殺る気満々です
「……想像以上だな、おい」
「全くですねぇ……」
観客席。調理場の様子をモニターで見ていたメンテナンス・オーバーホール(めんてなんす・おーばーほーる)と八神 誠一(やがみ・せいいち)が呟いた。
「これ料理って言うより、食材無下にしているだけだろ」
「本当ですねぇ……企画発案者は料理の危険性というのを考えた事は無いんでしょうかねぇ? 錬金術みたいな物なんですよ?」
「小一時間ばかり発案者は説教受けた方がいいと思う」
オーバーホールと誠一が呆れた様に言う。しかしそうは言うが、こっちはまさかマジで企画通るとは思わなかったという事を知ってほしい。
「……アイツら大丈夫か?」
ふと、心配そうにオーバーホールが呟いた。
「どうかしましたか? まさか知り合いが審査員にでも?」
「いや、パートナーが司会進行をするらしいんだ。一応注意はしておいたが……なぁ……」
「あぁ……何が起こるかわかりませんからねぇ……そう言われると僕も心配ですねぇ」
「そっちも知り合いが出るのか? まさか審査員側か?」
オーバーホールの問いに、誠一は首を横に振って答える。
「いえ……調理側でねぇ……」
「……何事も無いことを祈ろうか」
「ですねぇ……」
その祈りも無駄になる事を、二人は知らない。
『Aブロックの司会進行を担当させていただきますピュラ・アマービレ(ぴゅら・あまーびれ)です』
『同じく、モニカ・アマービレ(もにか・あまーびれ)よ』
『試合開始前のデモンストレーションで早速犠牲者、といいますか脱落者が出てしまいました』
『普通の料理バトルとは違う、とは解っているつもりだったけどここまでハードだとは思わなかったわね……』
『ですが今更後にも引けません。早速開始していきましょう』
『それでは今日地獄を見るであろう被害者、でなく審査員の方々を紹介していくわね』
『まずは薔薇の学舎から大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)さんに来ていただきました』
『『大阪人の食い倒れ根性見せたる!』との意気込みだけど、吐き倒れにならないといいわねー』
『基本的に好き嫌いは無いそうですが猫舌なので熱い物が苦手という事、後食材を冒涜している物は勘弁してほしいそうです』
『この試合で冒涜していないものが無い方が難しいわよね……あ、それと海老もダメだとか。以前踊り食いして当たったらしいわね』
『今回新たなトラウマが芽生えないことを祈るばかりです。続いて空京大学から師王 アスカ(しおう・あすか)さんの参加です』
『何でも地球にいた頃には色々な地での料理を味わったことがあるそうね。勿論ハズレ料理も色々と』
『見た目よりも内臓は丈夫、との事です。特にスープ類は好物で何であろうと頂けるそうで』
『逆に乾燥している物が苦手なようね』
『さて、最後に紹介する方はエッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)さん。肉体的なダメージはほとんど効かないでしょう』
『この人は見た目通り、とんでもない食べ物でも大丈夫そうね』
『ただ本人曰く『味覚は普通』らしいです。その辺りが弱点となりそうですね』
『……おっと、どの調理人も準備はいいそうです』
『早速始めましょう! 審査員の方々、遺書の準備はOK? ダメでももう始めるけどね!』
『それでは最初の料理、入りましょう』
「遺書って……そんな準備してないわよ〜」
審査員席、司会二人の口上にアスカが苦笑を浮かべつつ呟く。
「……想像以上に恐ろしい所に来てしまったようやな」
泰輔が頬に冷たい汗を伝わせながら呟いた。
「まあいいではないですか。命に係わるようではなさそうですし。お祭りみたいなものですよ」
アザトースが笑いながら言うが、泰輔が首を横に振る。
「いや充分かかわると思うで、さっきのデモ見た限りやと」
脳裏によぎるのは先程のモザイク料理。それを食べ、ぶっ倒れる一輝の姿。あれが自分となる可能性が高い。
『さて、それでは最初はキルラス・ケイ(きるらす・けい)さん、ソフィリア・ローレル(そふぃりあ・ろーれる)さんのお二方です』
そう言って現れたのは意気揚々としたケイ。そしてそれとは対照的に意気消沈気味のソフィリアであった。
「はいはーい、俺達の料理がトップバッターさぁ」
「……はぁ」
はしゃぐケイに、ソフィリアが溜息を吐く。
「さーって、そりゃ!」
そしてケイがクロッシュを取り外す。
「「……う」」
そして泰輔とアスカが言葉を失う。
そこにあったのは、虹をイメージしたかのように数種類の色で彩られた物体であった。
「……何か、焦げ臭いですね」
アザトースが顔を顰める。言う通り、焦げた臭いがその物体から発せられていた。
トッピングの隙間から見える土台は黒く、臭いの原因もそれであろう。
『……あれ、何?』
『えーっと……キッシュらしいわよ?』
「き、キッシュ〜? これがキッシュなの〜?」
アスカが驚き声を上げる。
キッシュというのは簡単に言うと卵やクリームを使ったパイのような物である。言われてみれば円形のパイのようにも見える。思いっきり焦げているが。
「そうそう、キッシュだって。なぁソフィ?」
「正確には『キッシュになるはずだった物』ですわ……私は普通に作るつもりだったのにこのもやし男が余計な事してくれるから……」
「余計な事って何さ。俺はただ手伝っただけだよぉ?」
「オーブンに入れるのが面倒だからって魔法で焼いたのは何処の何方かしら? 【ヘルファイヤ】なんぞで焼いたらそうなるのは当たり前でしょう!」
ソフィリアの言葉に審査員の面々が納得したように頷く。
『えー、それでは実食です』
切り分けられた『キッシュになるはずだった物』が審査員席に並べられる。
「……これホンマ見た目的にアウトやろ」
「うわ〜……色彩凄いわね〜……」
「まぁでも……食べ物なんですよね、全部」
躊躇いはするが、目の前の料理を一斉に口に運ぶ。
「んむっ!?」
そしてアスカは慌てて口元を押さえ、
「「んぶっ!」」
男性陣二人は思いっきり噴出した。
『あらら、いきなりいいリアクション』
『こういうのを見ると司会というポジションで良かったと思います』
「か、辛い! これ辛いわよ〜!?」
口元を押さえつつ、アスカが叫ぶ。
審査員の口の中は今、焼けるような熱さに襲われていた。その他にも甘酸っぱいやら苦いやらあるのだが、それ以上に強いのは辛さによる熱。最早それは痛さといっていい。
「もやし男……一体何をしたんですの?」
苦しみあえぐ審査員を見て、ソフィリアがケイに耳打ちする。
「トッピングじゃないかなぁ? 確かハバネロとかワサビとか彩良い物入れたから」
「ああ……もういいですわどうでも」
ケイの言葉にソフィリアが大きなため息を吐いた。
「ぐ……がぁッ!」
アザトースが咽返りつつ膝をつく。通常の攻撃ならともかく、味覚は普通の彼にとってハバネロ丸かじりはダメージが大きい。全身から汗が噴き出し、口の中の痛みに耐えるので精一杯である。
だが、彼以上にダメージを受けている者がいた。泰輔である。
「こ……この……風味……!」
泰輔が、全身を震わせる。そして、
「アカン……言うた……やん……」
ゆっくりと、後ろに倒れ込んだ。
「海老……海老はアカン……アカンて……」
倒れ込んだ泰輔は白目を剥きながら、譫言の様に繰り返していた。
「海老? 海老なんて入れたかしら……」
ソフィリアは思い返す。中身にはキノコやらは入れたが海老は入れた記憶は無い。
「多分これだろうねぇ」
ケイが愉快そうに指さしたのは、キッシュの上にかけられているオレンジ色の粉。
「それは?」
「海老塩」
海老塩とは乾燥させてすりつぶした海老と唐辛子、ニンニクが入った粒塩である。
「……あぁ、そう」
その後、泰輔は復活できずリタイア。アザトースも辛さには勝てず、ある程度食べた所で完食を断念し料理を残しギブアップとなった。
最終的に時間をかけて何とか食べきったのはアスカだけであった。
『開始早々1名に大ダメージ、1名脱落と中々の好成績でしたね』
『これからこんな料理ばかり出てくるのとか考えると頭が痛くなるわ……まあいいわ、とっとと次行きましょう次!』
『それでは審査員の方々が復活するまで、しばしお待ちください』
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