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リアクション
エピローグ4
「委細は了解した。任務御苦労」
教導団の校長室。執務卓に座す鋭峰は提出された報告書を読了して部下を労った。
「お褒めの言葉、感謝致します!」
校長室に出頭した四人の生徒の中で先頭に立つルカルカが最敬礼の姿勢とともに礼を述べると、後ろに控える三人もそれに続くように最敬礼する。
この場に出頭している生徒は生徒たちの中でも階級が高い者――中尉以上の階級を持つ者だけだ。
「さて、今後のことだが――」
鋭峰が切り出した直後、すかさず三人のうちの一人であるクレアが口を開いた。
「恐れながら申し上げます。今回の事件における敵勢力の襲撃、および敵勢力の使用した兵器――すべてにおいて不可解なことが多過ぎると言わざるを得ません。まずは不可解な点を一つ一つ、可能な限り迅速に解明していくのが先決であると考えられます」
姿勢を正して上申したクレアに賛同するべく、三人の中の二人目であるルースも発言する。
「オレもそれに賛成ですよ。自分で言うのも何だが、古参兵のオレからしてみれば驚くことの連続ってもんです。いつの間に戦場はこんなハイテク兵器……いやもうそれすら通り越してこんなトンデモ兵器が闊歩する時代になっちまったんですかね」
いつも通りの、どこか軽い調子ながらベテラン古参兵の渋い風格が漂う物腰でルースが賛同すると、更に三人目――白竜も賛意を示す。
「私も同感です。不可解な点といえば、有人機であると思われる要素が多々確認されながら、こと機密保持に関する運用においてはそこだけあたかも無人機のような運用。そして、軍事的に見て必ずしも合理的ではない作戦行動の数々――こうした不可解な点が浮上してきている以上、シュミット大尉の仰る通り、早急に事実の解明を行うべきであると上申致します。不幸中の幸いとして、今回の一件で敵機のデータはそれなりの量が収集できました。それを基に今後は諜報と並行して分析を進めていくのがよろしいかと存じます」
部下たちからの進言を受け、しばし熟考する鋭峰。鋭峰の熟考がひと段落したのを見計らってクレアは鋭峰に告げる。
「それと団長、対策本部にて分析を担当していたセレンフィリティ・シャーレットからの報告です。本人によると戦闘中に得られたデータから敵機の性能が現行技術と比してどれだけのレベルに位置するかを概算できたそうです――」
そう前置きすると、クレアは鋭峰だけでなく仲間たちからの視線も自分に集まっているのを確かに感じながら、一度閉じた口を改めて開いた。
そして、その場に集まった誰もが確信していた。
クレアが一度言葉を切ったのは、もったいぶる為でも、二の句を強調する為でもない――ただ単純に、自分の口から出ようとしている言葉の内容と、それを他ならぬ自分が発しなければならないという事実に恐れおののいているのだと。
傍目にはわからないほど速く僅かに息を整えると、クレアはゆっくりと告げる。
「――現行機のレベルを第二世代とした場合、敵機の性能は大きく見積もれば第六世代相当。小さく見積もっても第三世代相当を下回ることはないそうです。現状では当該五機は試作品である可能性が高いと推察されますが……もし、これらの機体が実用化された場合――」
そこで再びクレアは口を閉じた。だが、誰も彼女が不必要にもったいぶっているなどとも思わなければ、彼女を叱責することもしない。
誰もがわかっているのだ。これから彼女の口をついて出る言葉が、どれだけ恐ろしく、それを発しようとしているクレア本人ですら戦慄のあまり声が出なくなってしまうほどのものであると。
じっくりと数秒間、仲間たちが水を打ったように静けさで待った後、クレアは三度ゆっくりと口を開いた。
「――あのジェファルコンですら、即座に型落ち品となるとされています」
流石は教導団の団長と尉官たちだけあって取り乱すことはしないが、心中穏やかではないのは想像に難くない。
ジェファルコンと言えばトリニティシステム搭載機にして現行レベルのイコン技術では最も先を行く天御柱学院の最新鋭機。それほど機体が即座に型落ち品になるということは即ち、戦場における常識が一瞬にして塗り替えられる事態であり、それだけで兵器の歴史が最少でも五年は進むという革命的事態が起こるということなのだ。
まるで魂を直接殴られたかのように凄まじい精神的ショックで放心していた仲間たちが我に返っていくのに合わせ、ルカルカは再び口を開いた。
「団長、僭越ながら申し上げます」
ただならぬ雰囲気のルカルカに、鋭峰もいつも以上に表情を引き締めて問いかける。
「言ってみろ」
鋭峰からの許可を得、改めて姿勢を正すと、ルカルカは厳かな声で告げた。
「今後、第二第三の襲撃がある可能性は決して低くありません。そして、本件がこれで終わりだとは到底思えないのです。だからこそ……今回のような臨時対策本部ではなく、継続的な対策本部の設立を進言致します次第です」
ルカルカの言葉をじっくりと吟味するように聞き、しばらくした後に頷くと、鋭峰もルカルカに負けず劣らず厳かな声で返事をする。
「その通りだ。我々シャンバラ教導団は本件に対し、継続的な姿勢を以て対応する。以上だ――」
鋭峰が下した決定に賛意を示すように、ルカルカ、クレア、ルース、そして白竜の四人は再び姿勢を正して最敬礼し、声を揃えるのであった。
「了解!」
「了解!」
「了解!」
「了解!」