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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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大嵐を起こすために顔を洗う妖怪猫又

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第10章 お供え物をくれないと許さないにゃんにゃん Story2

「こんな料理で大丈夫かなぁ。まぁ、妖怪だから味もありっちゃありだけど、あえて猫向けで」
 さゆみたちがご飯を炊き始めた頃合を見て、弥十郎もご飯だけは既に釜で炊いている。
「イコプラ…?」
 クーラーボックスに入れてあるササミを取ろうとすると、台所に入ってきたネズミ型のイコプラを見つけた。
 いつの間に入ってきたんだろう?と首を傾げる。
 “えー、こちら練。料理の完成度合いはどう?”
「ご飯は炊いたから、10分もあれば出来るよ」
 “了解。猫又ちゃんがもうすぐ食べ終わるから、そっちに連れて行くね。”
 練はイコプラを通して確認すると、自分たちがいる民家へ走らせる。
「(さて、ワタシの料理は猫様にもきくかねぇ)」
 完成した時に35度くらいになるように、ご飯をボウルに移し、ササミを小鍋で茹でる。
 茹で上がったそれを菜箸で取り、うちわで扇いで冷ましてから、指で細かく裂く。
「お魚だけっていうのもあれだからね」
 冷ましたご飯を丼に入れ、裂いたササミ、紅花油、とき卵とご飯を混ぜ、卵ご飯を作る。
 料理を食べてもらう猫又の健康を考え、脂肪代謝の役に立つビタミンEを多く含んだ食品を追加した。
 猫が好みそうなにぼしを、すりこぎで粉末にしてふりかける。
「うん。味がしない」
 味見用の器で西園寺が食べてみる。
「うん。そうだねぇ」
「ほんとにこんな味でいいの?」
「猫の味覚と人間の味覚は違うだろうからねぇ」
 美味しくない…というふうに、顔を顰める西園寺に、猫と人の味覚は違うことを教える。
「いや、相手は猫又だよ?」
 しかもパラミタなんだし、本当にこれでいいのか…と言う。
「まぁ、これで勝負してみるよぉ。あえてね」
「チャレンジャーだね」
「あ、油は少しだけにしたんだ。流石にギトギトだと口の中がいやな感じだろうしね」
「ふぅん。いいんじゃないかな。流石にギトギトしてるものは嫌だよね」
 人と味覚が違うのか、同じなのか…と話している頃…。 
 “デザートが食べたいにゃ!”と猫又がまた我がままを言っている。
「佐々木さんて言う料理に関しては鉄人レベルの人が、至高の料理を用意して待ってるはずやから大人しくしろって!」
「(木賊殿、例のものを使います)」
 秘色が練に目配せをする。
 もう1度、対電フィールドを掛けてもらったのと同時に、北都たちにネジから手を放してもらう。
 放たれたぜんまい仕掛けの魚型玩具が、地面の上でビチビチする。
「何にゃ、これっ」
 しっぽをふって玩具を捕まえようとじゃれつく。
「雷を落とさないね?」
「これを使わないでおいてよかったです」
 2人は猫又に聞かれないように、小さな声音で話す。
「みかげにゃん、お魚獲ったにゃ」
「大漁だにゃ」
「にゃ?ネズミが民家に入ったにゃ」
 戸が開いている家にイコプラが侵入し、猫又たちはそれについていく。
「いらっしゃい、作っておいたよ」
 出来立てねこまんまを、弥十郎が卓袱台に運ぶ。
「いただくにゃ!にゃうにゃうにゃう…。ちょうどいい味加減にゃ。ご飯の温度も熱くにゃい。美味しかったにゃー」
「―…練さん。お供え物を作った人って、後何人くらいいるのかな?」
 他にも作っている人はいるのか聞こうと、エースが練に話しかける。
「何人っていうか、5組くらいね。イコプラで完成までの時間を確認しているから、長時間待たせてぐずらせないようにしているよ」
「次はどこかにゃ?」
「まだ食べるんか…」
「陣くん、雷の音がやんだよ」
「おー…、だいぶ機嫌を直してきたみたいやね」
 さっきまでゴロゴロ鳴りっぱなしだった雷の音が聞こえなくなった。
 さゆみの料理と弥十郎の料理も食べて、猫又はだんだん満足してきた様子で、顔を洗う回数も減ってきた。



 透玻は璃央に挽いてもらった米粉に、牛乳・ベーキングパウダー・砂糖・バターを入れて混ぜる。
「油の温度を見ててくれ」
「はい…。(…火災は、とても怖いですが、透玻様が傍にいれば安心ですね)」
 パートナーが傍にいるおかげで、璃央でも焚き火程度の火なら安心して近づける。
「むー…。見栄えもよくないとな…」
 丁寧にドーナツの形を作り、生地をトレイに並べる。
「ネットでレシピを幾つか見てきたのだが、その中の1つに“分量を間違えると、揚げ時に生地破裂する場合がある”とあった気が…。…うまく揚がるだろうか?」
「破裂するということは…、量を多くしてしまったりした場合じゃないでしょうか」
「なるほど…。それなら、私はちゃんと量ったから問題ないだろうか…?」
 ドーナッツの形を作りながら、破裂しないだろうか…と雑談する。
「えぇ、大丈夫だと思いますよ。透玻様、そろそろ揚げ始めましょう。油がはねないように、そっと入れてください」
「ふむ、分かった。キツネ色になるまで揚げるのだったな」
 透玻は170度に熱した油に生地を静かに入れる。
「―…透玻様、猫又が来てしまいました」
「何?早くないか…。いくつかもうすぐ揚るが、簡単に温度は下がらないぞ」
「にゃぅー…」
「猫又さん、ちょっと話いいかな?」
 むすっとした顔する猫又に、北都が話しかける。
「なんだにゃ?」
「皆がキミのために、美味しい料理を作ってくれたんだ。こんなにたくさん用意されたのは、それだけ皆キミのことを大切に思ってるってことだよ。キミは幸せ者だね」
 超感覚で犬耳をはやし、同じ獣耳がはえていれば酷く警戒することもないだろうと、親近感を演出する。
「むぅうぅ…。全部食べてから、嵐をとめるか決めるにゃ」
「うん。お腹いっぱいになってから、決めてくれていいよ」
 なかなか首を縦に振らないのは、空腹は少しずつ満ちてきているようだが、今までの座敷わらしとの扱いの差に不満があるのだろう…。
「やっとお酒の出番ですねっ」
「いやー…、全員分の料理をまだ食べてないし。酔ったら味覚や味の記憶が微妙になるから、まだだな」
 酒の出番はまだ早い、と昶が言う。
「おかしができるまで、リンと遊ぶの!」
 ご機嫌斜めにならないように、リンはカズが作った玩具で猫又と遊ぶ。
「カズちゃんは走るの!」
「やっぱりそういう役割?(自分だけ猫耳幼女の姿を見ていない!!?)」
 このまま妄想だけで終わってしまうのかと思った一は心の中で号泣する。
「お供え物が出来たぞ」
 透玻は米粉ドーナッツを皿に盛り、お供え物らしくラップして猫又に渡す。
「なんていう食べ物にゃ?」
「珍しいのか?米粉ドーナッツだ」
「さっそくいただくにゃーっ。はむっ…あむあむ」
「どうだ…?」
 服が濡れようとも、傘が“耐えられませぇ〜ん…”と天に召されてびしょ濡れになろうともめげず、買出しに行き作ったドーナッツ。
 美味いかどうか、猫又の感想を待つ。
「もちもちだにゃー。にゃにゃにゃんうまぃうまぃにゃ」
 彼女たちが作ったお菓子が気に入ったらしく、もぐもぐと食べる。
「そ…そうか」
「他の人のお供え物も食べにいってくるにゃ」
「あぁ、分かった…」
 別の民家へ向かう猫又に、ちいさく手を振る。



「ね…猫又さんが来ました、マスター…」
 すでに用意は出来ているが、フレンディスはあわあわと緊張する。
 この長屋にまでドジっ娘忍者という、不名誉な名声を知られているため、味にあまり自信がない。
「猫用に余計なもん入れていなし、問題ないだろう」
 器の中のつみれ汁をベルクが見る。
「フレイが1人で作ったんだよな…?」
「いえ、2人で作りました。その……たくさん失敗してしまいましたけど」
 正体不明の液体を積めたゴミ袋に視線を映した。
「何作ったんだ?」
「えーっと…失敗したつみれ汁です」
「はっ!?生き物でもいるんじゃないかと思ったぞ。ぁ…何かぐにょぐにょ蠢いているし…」
 謎の生物が発生するような失敗なんてありえるのか?ここは夢の中だろうか…と、自分の目を疑いたくなる。
「なぁ…、キシャーッて言われたんだが」
 ベルクが袋をそっと開けようとすると、中に潜む者が奇声を上げる。
「どんな化学反応起こして生まれたんだか…。これでもくらえ」
 人様の台所に異物を放置するわけにもいかず、ベルクは袋の中に洗剤を入れて、袋をとじる。
 中の者はぐにゃぐにゃと暴れたが、洗剤で死滅したのか動かなくなった。
「しかたねぇから、処分してきてやる」
 想い人に危険物の始末をさせるわけにもいかず、民家の裏側に行き消滅させる。
「マ…マスター、あの袋の中身は…」
「永久消滅させておいたぞ」
「あ……ありがとうございますっ」
「そこの2人、さぼっていないでテーブルを拭いたりしておけ。まもなく猫又がくるのだぞ」
「(いったいどうしたんだ。血の雨でも降るんじゃないのか…っ)」
 戦闘以外に対する興味が極めて薄く、常に仏頂面で不機嫌そうで口数が少ないレティシアは、なぜか今日は不気味なほどよく喋り、時々口元を緩ませていた。
「ベルク、猫又をもてなす準備は出来ているのか!?」
「あぁ、卓袱台に用意しておいたぞ。ていうか、ちゃんとした料理が食いたいっていってんだろ…。油はいらんだろ」
「む…そうなのか?」
「ここはどんなお供え物を用意しているのかにゃ?」
「い……鰯のつみれ汁です」
「持ってくるまでの間、キャットフードでもどうだ」
 皿にもったキャットフードを、ベルクが猫又の方へ寄せる。
「おつまみにしかならないにゃ…。あむ…」
「あっ、あの…。お持ちしました」
 つみれ汁を入れた器を、フレンディスが卓袱台に置く。
 彼女1人なら問題なかったが、レティシアの不気味な味付けのせいで失敗しすぎ、一品しか作れなかったのだ。
「平らなところに座らず、我の膝の上に座るがよい」
 レティシアは自分の膝を軽く叩き、遠慮なく座れと猫又を呼ぶ。
「座っていいのにゃ?」
「遠慮はいらん」
「じゃー座るにゃ」
「1品しか料理を用意出来なかったからな…、サービスとして我が食べさせてあげよう」
 隠れ猫好きの彼女にとって、時が止まってしまえばいいのに…と思うほど幸せ気分を味わう。
「いただくにゃー、あむ…」
「…どうだ、美味いか?」
「うん、さっぱりしてて食べやすいにゃー」
「そうかそうか、おかわりはいくらでもあるぞ」
「次のところがまだだから、しばらくそのままよろしく」
 椿と牡丹のところを確認した練が、レティシアたちに言う。
「なんだとっ。我は全然構わぬぞ!」
 そういうわけで…。
 シーフードドリアは出来ているが、ポトフやデザートがまだ未完のままの2人は、ぽわ…っとのんびりお供え物を作っている途中だ。
「猫又さん…食べてくれると嬉いのです…」
 民家にある唯一の電化製品…冷蔵庫に、黒ゴマとにぼしを使った和風ムースを入れる。
 牡丹は豆乳ポイップと、苺にちょこっとだけまたたびを混ぜたアイスも作り、冷凍庫に入れた。
「溶けないように冷蔵庫にしまっておきましょう。椿、何か手伝うことはありますか?」
「このベーコンを刻んでください。それが終わったら、鍋に入れておいてくださいね」
「分かりました」
 まな板にベーコンを乗せ、包丁でトントンッとベーコンを刻む。
 その間、椿はかしわと鯛を、小さな子供が食べる一口サイズに切り分ける。
「材料は全部、入れましたね…」
 牡丹に頼んだベーコンも入っているか、鍋の中を見て確認する。
「30分待ちですけど、ドリアは出来てますから、猫又さんを呼びましょう」
 椿は待機しているイコプラに話しかけ、ドリアとデザートが出来たと練に連絡する。
 連絡を受けた彼女は、猫又を牡丹たちのところへ案内する。
「いらっしゃい、猫又さん」
「どうぞこちらへ…」
 牡丹が座布団を置き、椿は卓袱台の上にドリアを運ぶ。
「まぐろとササミの、シーフードドリア…鰹節乗せです」
「にゃう、いただくにゃ。にゃぅにゃぅにゃにゃん…」
「…お味はいかかでしょうか?」
「にゃーが好きなものがいっぱい入ってて、おいしーにゃ!」
 食べたことがない料理を、夢中で食べる。
「黒ゴマと煮干しを使った和風ムースです…」
 ムースをデザート担当の牡丹が運ぶ。
「どうでしょう…?」
「なめらか〜だにゃ。ん…もうないにゃ?」
「ポトフが後、15分程度で出来ますよ。その後は、2つめのデザートがあります」
「それまでひまにゃ…ふぁー…」
 猫又は眠たそうにあくびをする。
「よ…よければ、私の膝で寝てください…っ」
 うとうととする猫又の傍に牡丹が寄る。
「みゅ…そうするにゃ」
 仔猫の姿になり、牡丹の膝の上でまるまった。
「三毛猫さん…可愛いです、ちっちゃいですね。…ふわふわな猫又さんです」
 すやすやと眠る猫又の毛を牡丹が撫でる。
「つやつやな毛ですね」
 椿もそっと触ってみる。
 ポトフが出来完成し、猫舌でも食べられるように冷えるまでの間…。
「お耳ふわふわ…」
「長い尻尾をぱたぱた…」
「おてて、すごくちいさいです」
「ぷにぷに肉球なんですね…」
 2人は仔猫サイズの猫又を撫で撫でする。
 15分とちょっとが過ぎ…。
「お待たせしました、鯛とかしわとベーコンのほんわりポトフです」
 椿はポトフを運び、またたび酒も用意する。
「次の料理の味がわからにゃくなるから、ちょこっとしか飲まないにゃ」
「ではちょっとだけお注ぎします…」
「これくらいでいいにゃ」
「猫さんですから…猫舌、なのでしょうか…?」
 器によそって冷ましえておいたが、念のため聞いてみる。
「熱いのは食べられないにゃ」
「一応、冷ましておきましたけど。ふーふーしてお召し上がりくださいね」
「わかったにゃ」
「…お口に合うと、いいのですけど…」
「これはソーセージかにゃ?」
 椿が魚型に切ったソーセージを見る。
「目で楽しむのもよいかと思いまして…」
「こっちのは星で、花もあるにゃ」
 星や花の形にくり抜いた野菜で、可愛らしく飾られている。
「にゃぅ…にゃにゃう」
 少女の姿になった猫又はポトフをぺろりと食べてしまった。
「豆乳ホイップと苺にちょこっとだけまたたびを混ぜたアイスもあります」
「冷たいにゃー、はぐはぐ…」
「(食べているところも可愛いですね)」
 小さな口で食べている姿を牡丹が眺める。
「すごく美味しかったにゃー。次のところでは、何がでるのかにゃ?」
 食べ歩き状態で、お供え物として作ってもらった料理を食べに行く。