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第九章 大混戦! 時代劇バトル!? 三

 ここで場面が変わり、時間はやや前に遡る。
「良い月じゃねえか、満坊」
 代官屋敷の庭から、煌煌と輝く満月を見上げて呟くのは「蜘蛛使いの亜急斗」――アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)である。
「こんな日は、身重の嫁さんと一緒に月でも眺めて、子供の名前でもアレやコレやと語ってるのが似合いってもんだ」
 優しげに、そしてどこか寂しげに笑う。
 男の哀愁を漂わせるその雰囲気は、彼がC級映画俳優としてコアな人気がある理由を饒舌に物語っていた。
「警戒中つっても、お前一人抜けたって大丈夫だ……帰ってやんな」
 そのセリフで、カメラがゆっくりと横へ移動していき、彼が呼びかけていた相手が映る。
 その相手は、宙に浮かぶマンボウ……「閃光の満坊」こと、ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)だった。
「亜急斗よ。気遣いは嬉しいが、今は御家の一大事」
 表情一つ変えず――まあ、マンボウだから当たり前だが――落ち着いた様子で答える満坊。
「漢は責任から逃れてはならない。生まれてくる子供にも示しがつかぬというものよ」
 これで、彼の姿がマンボウそのものでさえなければ、しみじみとした味のあるいいシーンになっていただろう。
 しかし、繰り返すが、彼の姿は宙に浮かんだマンボウそのものなのである。
 残念ながら、これではどう頑張ってもギャグにしかならない。
「ケッ、なりは生臭なクセして、このカタブツめ」
 まあ、確かに魚であるから、生臭でも間違っていないが……誰がうまいことを言えと。
 ともあれ、そんな見ている側のツッコミをよそに、亜急斗はいい笑顔でお猪口に酒を注いでいく。
「ならせめて、生まれて来る子供と苦労性の嫁さんに、乾杯といこうじゃねえか」
「うむ」
 軽くお猪口を合わせる二人。

「皆の者、全員まとめてお相手して差し上げなさい!」
 越後屋の号令が聞こえてきたのは、ちょうどその時だった。

「曲者のようだ。行くぞ亜急斗」
 まずは満坊が静かに席を立つ、というか浮かび上がり、亜急斗もそれに続く。
「おう! 死ぬなよ、相棒」
「そなたもな」

 ……以上、死亡フラグ二丁上がり、である。
 まあ、悪代官に仕えている時点で死亡フラグが立っているも同然なのだが、そこに重ねてこれだけのフラグを立ててしまったとなると……この後どうなるかは、まあ、推して知るべし、である。