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第七章 波羅蜜多仕事人 三

 そしていよいよ、黒幕である悪徳商人の仕置きである。

 群青色の小袖に身を包んだ千鶴が、梁の上から下の様子をうかがう。
 念願叶って店と看板娘を手に入れた悪徳商人は、いよいよ隣室にいるその看板娘を毒牙にかけようとしていた。
「悪の所業に今日も涙する人が居る限り、私は仕置きをやめない……東・照・大・権・現」
 悪徳商人が立ち上がった瞬間を狙って、千鶴が縫い糸を飛ばす。
 糸が狙い過たずに悪徳商人の首に巻きついたのを確認して、千鶴はぐっとその糸を引いた。
 首を押さえてじたばたする悪徳商人の巨体が宙に浮く。
 その糸を、千鶴がもう片方の手でピンと弾き――一瞬遅れて、悪徳商人の身体が一度びくんと跳ね、がくりと力なくぶら下がった。

 糸が首に食い込むアップシーンは当然別撮りとして、本気で首が絞まらないように対策はしてあるとしても、はたしてこうまでうまく糸が巻きついてくれるものだろうか?
 実は、このシーンの撮影には、本来登場しないはずのテレジアが関わっていた。
 彼女が「サイコキネシス」を使って、糸をコントロールしていたのである。
 さらに言うなら、悪徳商人が吊り上げられるシーンでも、目立たないようにひっそりこっそりサイコキネシスで悪徳商人を持ち上げていた。
 サイコキネシス、こういう時には実に頼りになる能力である。





 最後は、悪徳商人が雇った浪人たちのリーダー格である。
 懐が暖かくなったのをいいことに遊び歩いていたその男が、橋に差し掛かった時。
 橋の上に、一人の男が立ちはだかった――又兵衛である。
「あんたの渡る川は、この川じゃないぜ」
「何言ってやがる」
 侮辱されたと感じてか、浪人が刀を抜き、又兵衛もそれに応じて抜刀する。
 その二人の影が、橋の上で交錯し。
 ややあって、浪人が大きくよろめき、そのまま橋から落ちていった。
「三途の川、迷わず渡ってきな」
 そう呟いてから、又兵衛は静かに刀を収めるのだった。

「又兵衛、お疲れさま。かっこよかったのだ」
 薫にそう言われて、又兵衛はかすかに笑った。
「お疲れさん。天禰こそ、なかなかいい役がもらえてよかったじゃないか」
 もともと引っ込み思案なこともあり、「どうせいい役なんて回ってこないだろう」とややネガティブに考えていた薫であったが、配役が決まってからはそんな様子は微塵も見せず、一生懸命に与えられた役を演じていた。
「うん。うまく演じられて、みんなの役に立てていたら嬉しいのだ」
 薫が演じた役は、出番こそそこまで多くはないものの、「仕事」を依頼するというストーリー的には大きな役割をもつ役である。
 二人がそんなことを話していると、そこに銀澄がやってきた。
「お二人とも、お疲れさまです。とてもいい演技でした」
「あ、ありがとうなのだ」
 演技している最中はそちらに夢中で忘れていても、改めてそう言われるとやはり少し恥ずかしいのか、照れたように笑う薫。
 銀澄はそんな彼女の様子を微笑ましげに見て、それから又兵衛にこう言った。
「特に又兵衛殿。正義のために戦う侍の姿、実に見事でした」
 ストーリー的に「侍」の活躍できる場面は少なかったのだが、それでも「時代劇の花形は侍である」とねじ込んだうちの一人である銀澄にしてみれば、「侍の復権」は又兵衛にかかっているも同然である。
「いや、そう言ってもらえるのはありがたいんだが、本当に俺でよかったのかねぇ?」
 一方、又兵衛にしてみれば、理想の「武将」でこそないにせよ、今回のストーリーなどを考えれば十二分に満足できる役柄であるし、一般的な武士の枠からは多少外れるものの、一本筋の通った生き方は共感できるところでもあった。
「又兵衛殿だからこそよかったと思います」
「だと、いいんだけどねぇ」
 謙遜する又兵衛だったが、その表情はまんざらでもなさそうであった。