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作ろう! 「次代劇」!?

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第五章 どうせだったら全部入り

 そうして、アレクスたちのPVの上映が終わった頃。
 ここに、さらに新たなる火種……もとい、アイディアを提案しようとしている者がいた。

 悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、ドクター・ハデス(どくたー・はです)その人である。
 こんな名前を自称してはいるものの、ハデス自身はれっきとした日本人であり、しかも時代劇ファンでもあったりするのだから世の中はわからない。
 そして、そのハデスが、実は最初から会議室の隅にちゃんと出席していたのも驚きと言えば驚きである。
 出席していながら、ここに至るまで黙って他の面々の話を聞いていたのは、実は参謀の天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)の入れ知恵であった。
「ある程度他の参加者の案を見ておいて、真打ちは最後に登場する」。
 真打ちかどうかはともかく、いきなり最初から話し合いが大混乱に陥らなかったと言う意味では、彼の入れ知恵は実に功を奏していた。

「フハハハ!
 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者にして天才プロデューサーのドクター・ハデス!」
 発言の機会を得るや否や、当然のごとく高笑いと名乗りから入るハデス。
 それに対する周囲の反応は、大きくわけると唖然とするか頭を抱えるかの二つである。
 もちろん、前者がハデスをよく知らない人々で、後者がハデスをよく知る人々の反応である事は言うまでもない。

「この俺の時代劇のコンセプトは、ズバリ、逆転の発想!
 過去の時代劇に勝てないなら、その過去の時代劇の集大成を作ればよいのだ!」
 確かに、その発想はここまでにはなかったが……では、どのようにして「集大成」を作るのか?
 その答えは、ハデスの手にした企画書にあった。

 自信満々で、ハデスがモニターに企画書を映し出す。
 そこに書かれていたのは、登場人物のリスト。
 そして、その登場人物は……なんと、どこかで見たような「時代劇の主役」ばかりが、大量に並んでいたのであった。

「スーパーヒーローの大集合が見たいのは、子供もお茶の間のご老人も同じ事!
 懐かしの時代劇ヒーローたちの夢の共演……これこそが、究極の時代劇なのだよ!」
 その言葉にも一理ある、かも知れない。
 一理あるかもしれないが……これはあまりにも危ない橋ではないか?
「まあ、ハデスくんの企画のままではいろいろとまずいでしょうから、この辺りはうまくボカす必要があるかと思いますが。
 この世界観であれば、多少時代や国の違う人物が出演しても問題ない、というメリットもあるかと思います」
 十六凪のフォローに、常春が楽しそうに笑う。
「北町の遠山と南町の大岡の共演とか、歴代将軍大集合とかか。面白ェかもなァ」
「脚本の方は、もちろん出演者の顔ぶれを見てからいくらでも調整可能ですので」
 そう考えれば、いろいろな時代や地域の英霊が集うパラミタの利点を最大限に生かせる、と言えなくもない。
 もちろん、正統派の時代劇からはかなり外れることになるが……まあ、有名なシリーズ物の時代劇でも、江戸に隕石が落ちるようなトンデモ回もあったことだし、許容範囲……なのかもしれない。

 ともあれ、ハデスの提案はこれだけではなかった。
「そして、今までの時代劇に欠けていたもの!
 それは、主人公を苦戦させる強力な悪役だ!
 お約束で負けるだけの敵役では、視聴者を満足させることはできぬ!」
 これも、少なくとも前半部分に関しては言われてみればその通りである。
 ほとんどの時代劇において、剣戟パートに入ると悪役はだいたいなす術もなく蹴散らされていくのが定番であって、まともに主人公にダメージを与えられるような反撃ができたものはそう多くない。
 もっとも、剣戟パートに至るまでの間に、悪役の理不尽な行為によるフラストレーションは十分にたまっているわけであり、はたしてそれを解消するための剣戟パートで主人公が苦戦する必要があるのかどうかは謎であるが。





 なんにしても、こうして案は出そろった。

 銀澄や甚五郎が推す「正統派」をメインとするのか。
 アレクスやミミたちの「新規ターゲット層開拓案」をメインとするのか。
 それとも、ハデスたちの「スーパー時代劇ヒーロー大戦」をメインとするのか。

 話し合いは、当然すぐにはまとまらず。
 最終的な方向性を決めたのは、常春の鶴の一声だった。

「よし、言いたいことはわかった。どの案にもそれにしかない長所がある」
 その後に、はたしてどんな言葉が続くのか。
 見守る一同を前に、常春は不敵に笑ってこう宣言した。
「……ってことは、だ。全部やってみりゃァ、どれが一番かわかる、ってモンだろ!」
「いえ、それは余りに無謀……!」
「やらずに悔やむよりやって悔やめ! 迷わずやりゃァわかるんだよ!」
 部下の一人がさすがに止めに入るが、常春は全く意に介さず。
 かくして、まさかの三作同時制作という事態になったのであった。