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めざめた!

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めざめた!

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    ★    ★    ★
 
 轟音を上げながら大量の水を落としている滝。
 その滝の中腹で、霧島 春美(きりしま・はるみ)超 娘子(うるとら・にゃんこ)と対峙していた。
「さあ、私が目覚めたマジカルバリツのお披露目よ。しっかり受けとめてください、ニャンコ」
 しゃべりながら、霧島春美が周囲の地形を素早く頭に叩き込んでいく。足場にできる場所は限られている。細い獣道のような物はあるが、もともと道ではないので、ところどころが崩れたり鳥の巣が作られたりしていた。岩肌には、いくつかの大きな突起が足場状に散在している。滝の高さはおよそ三百メートルと言ったところだろうか。
「ふにゃにゃにゃにゃ。それじゃ、思いっきり行くにゃ。もえあがるにゃ、ニャンコの正義の炎!!」
 断崖の突起の上に立った超娘子がブラックコートを投げ捨ててファイティングモードをとった。
「うさーっ!!」
 霧島春美も超感覚でうさみみを生やすと身構えた。
「さあ、来なさい」
 バリツの構えから、くいくいっと手首だけを動かして超娘子を挑発する。
「いっくにゃー!」
 超娘子がいきなりフライングキックを放ってきた。
 身構えつつ、霧島春美が超娘子を睨みつけた。ビームレンズから、ビームが発射される。
 素早く予測し、身を捻ってビームを避ける超娘子の身体を掴んで投げ飛ばそうとする。
「つかませはしないにゃ!」
 身体を掴まれてはまずいと、超娘子が超伝導ヨーヨーを断崖の岩に放って、霧島春美を避けた。ヨーヨーの巻きあげる力で素早く断崖に飛び移ると、もう一つのヨーヨーで霧島春美の足許を狙う。あわてて、霧島春美が滝の方へと大きく飛び退いた。
「この間合いには近づけないにゃ」
 両手のヨーヨーを縦横無尽に操って、超娘子が霧島春美を追い詰めていった。だが、ビームレンズで霧島春美がヨーヨーを撃ち落とす。
「まだまだにゃー。うなれ、ニャンコの肉球!!」
 素早く猫パンチに切り替えた超娘子が、一気に間合いを詰めて攻撃してきた。
 それを躱しながら、霧島春美が後ろに下がる。
「もう、後がないのにゃ! チェストー!!」
 勢いに乗る超娘子が飛び出した。その足が、何か柔らかい物を踏む。断崖に作られた鳥の巣だ。
「しまったにゃ!?」
 ずるっと足が滑った超娘子が、開きかけた足をあわてて戻してバランスを取り戻そうとする。
「迂闊だったわね。オンリディス凍えなさい。必殺! ライヘンバッハキーック!!」
 霧島春美が、キックのモーションからブリザードを放った。呪文詠唱のモーション自体を、バリツのモーションにおきかえた新技だ。
「うにゃあ!!」
 直撃をくらった超娘子が身体の表面を氷に被われつつ吹っ飛ぶ。なんとか足場に踏ん張ろうとするが、凍りかけていたため、あっけなく崖から滑り落ちた。
「しまった、力の加減が……! ニャンコ、落ちちゃダメ!」
 あわてて飛び出して超娘子の手を掴んだ霧島春美だったが、そのまま引っぱられて一緒に落下してしまった。すぐ横を流れる滝の水飛沫が容赦なくかかってくる。
「溺れるのは嫌ニャー!」
 叫んだ超娘子の身体が水面すれすれで止まった。というか、滝に打たれた水面の波で、鼻先がちょっと濡れる。
「危なかったわ」
 飛翔術でぎりぎり落下をとめた霧島春美がほっとしたように言った。そのまま、ゆっくりと滝壺から川岸へと移動し、霧島春美たちは生還した。
 
    ★    ★    ★
 
「くかー……。んっ、寝てたか?」
「うん」
 夫婦揃ってソファーでのんびりとしていた博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)であったが、いつの間にか寝てしまっていたようだ。それどころか、頭が妻の膝の上にある。
「これは、これでなかなか……」
 もっちりした太腿の感覚が後頭部に心地よくて、また眠ってしまいそうである。これはヤバい、何かに目覚めてしまいそうだ。
「あー、また耳掃除さぼってる。しょうがないんだから」
 どこからか取りだした耳かきをクルンと指先で一回転させると、リンネ・アシュリングが慣れた手つきで博季・アシュリングの耳掃除を始めた。
 これはさらにまずい。幸せすぎる。
「あー、気持ちいい。今度は僕がしてあげるよ」
 選手交代すると、今度は妻の頭を自分の膝の上に載せて耳掃除を始める。ああ、この頭の適度な重さがまた気持ちいい。だめだ、このままでは、夫婦揃ってどこかへ落ちていってしまうかもしれない。
 穏やかな昼下がり、ソファーはちょっとした小宇宙であった。
 
    ★    ★    ★
 
「ええっとお、これで、いろいろと増幅する薬ができるはずですけどお」
 珍しく白衣を着てメガネをかけたチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が、勝手にイルミンスール魔法学校の研究室に入り込んで薬の調合をしていた。
「あっ、誰か来たみたいですわあ」
 見つかっていろいろ言われてもまずいと、チャイ・セイロンが物陰に身を隠した。
「さあて、今日こそは新しいギャザリングヘクスの開発を成功させるぞお」
 研究室に入ってきたのはカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)であった。
 最近魔法攻撃力はかなりのレベルに達したのだが、本人としてはまだ物足りない。やはり、天災少女としては、その存在が災害指定されるぐらいでなければ名前負けだ。
「なんだ、準備は揃ってるじゃない。このまま使っちゃおうっと」
 ギャザリングヘクスの準備を一つもしていなかったのをいいことに、チャイ・セイロンの残した素材と実験器具をちゃっかり流用するカレン・クレスティアであった。
「何やら、雲行きがあ……。ここは退散した方が無難ですわねえ」
 カレン・クレスティアがろくに薬品を確かめもせずに調合していくのを見て、チャイ・セイロンがそーっと研究室の出口へと移動していった。
「できた。これぞ、究極ギャザリングヘクスZZ! さっそくいただきまーす!」
 できあがった薬を一気にカレン・クレスティアが飲み干した。動物実験は自らの肉体である。
「今のうちに……」
 そっとドアを開けたチャイ・セイロンであったが、ぎりぎりでカレン・クレスティアに見つかった。
「そこの人!」
 もろに声をかけられて、しまったとチャイ・セイロンが身をすくめる。
「結婚してくれ!」
「へっ!?」
 予想もしないどころか、斜め上にぶっ飛んだ台詞に、チャイ・セイロンが目を丸くした。
「大好きだー、結婚してくれー」
 椅子を蹴飛ばして、カレン・クレスティアが迫ってくる。
 どうやら、抑圧されていた深層意識が変な風に捻れて開放されてしまったらしい。極度の女の子好きに目覚めてしまったようだ。
「あ〜れ〜」
 チャイ・セイロンは白衣を投げつけて瞬間カレン・クレスティアの視界を塞ぐと、あわてて逃げて行った。