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めざめた!

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めざめた!

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「うーん、このくらい裾上げと袖を詰めればなんとか形になるかなあ」
 月崎 羽純(つきざき・はすみ)のスーツを自分の体形に合うようにちくちくと縫った遠野 歌菜(とおの・かな)が、鏡の中でポーズをとった。そこに映っているのは、りっぱな男装の麗人である。
「いったい、何をしているんだ……!?」
「羽純さん、いつの間にそこに……」
「いや、今来たところなんだが……」
 いきなり男装している遠野歌菜を見て、驚いた月崎羽純が言った。もっとも、見られた遠野歌菜の方が、負けず劣らず驚いている。
「ええっと、男装……」
「男装って……、ああ、それ、俺の服じゃないか!?」
「うん、格好よくなりたいなと思ったから、格好いい羽純さんの服を着たくなっちゃって……」
 答えつつ、なんでそんなことを思いついたのかなあと遠野歌菜は考えなおしてみた。
 格好よくなりたい……。ううん、格好いい月崎羽純になりたい。いいえ、月崎羽純になりたかったのかも……。
 そこに考えがいたったところで、急に顔が火照ってきた。
 こころなしか、月崎羽純の目が、どうしたんだと訊ねてきている。
「思ってない、思ってないよ! 羽純くんみたいになってみたかったとか!」
 手遅れだった。心の声が、実際の声に……。遠野歌菜、一生の不覚……。
「俺のようにか……」
 ちょっと嬉しそうに、月崎羽純が微笑んだ。
「でも、それだとちょっと困るな。俺にとっては、歌菜は歌菜でないと、いろいろとな……」
 そう言って、月崎羽純が遠野歌菜の頭をなでた。
「とりあえず、ちょっと散歩に行ってもいいかなあ」
「男装は男装で楽しむのか。まあいいか」
 そのノリはどこからわいてくるのかと思いつつも、月崎羽純は遠野歌菜と共に、世界樹の散策に出ていった。
 展望台の方へむかって少し歩いたころだ。
「きゃー、ジュレ、かわいいわよー♪」
 何やら奇声をあげて、カレン・クレスティアがジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)を追いかけているのに遭遇した。
「なんなんだ、あれ!?」
 また変なことが起こっているなと、月崎羽純が立ち止まった。
 その姿を見たカレン・クレスティアの顔色が変わる。
「男……男……、男なんて死ねーー!!」
 有無をも言わさず、いきなりカレン・クレスティアが襲いかかってこようとした。
「何!?」
「だめー! 羽純くんは傷つけさせないんだから」
 とっさに、遠野歌菜が月崎羽純の前に飛び出して、その身をかばうように大きく両手を広げた。
「また男!! えっ、女の子? にっくき男! かわいい女の子? あううううう……」
 男装している遠野歌菜の姿に、薬で男嫌い女好きになっていたカレン・クレスティアが、大混乱に陥って頭をかかえた。
「御迷惑をおかけする。ほーれほれほれ、絶世の美少女はこちらであるぞ」
 ぺこりと遠野歌菜たちに謝ってから、ジュレール・リーヴェンディがカレン・クレスティアを挑発した。こんな人の多いところでは、何が起こるか分からない。事故が起きてからでは遅いと、ジュレール・リーヴェンディはカレン・クレスティアを人の少ない展望台の方へと誘導していった。
 
    ★    ★    ★
 
「はあ。ベアもおかしくなっちゃうし。なんだか今日はみんな変です。きっと、みんな何かを感じて……あれっ? なんでしょう、この感じ……。この感じは、そう、守護天使です! 私の中に眠る守護天使の力……これはなんかもう、目覚めてしまった気がします!」
 ソア・ウェンボリスはそう口にすると、風を感じに展望台へと出ていった。
 少し遅れて、ジュレール・リーヴェンディが、同じ展望台へと逃げてくる。その後ろからは、まだ薬の力に支配されているカレン・クレスティアが怒濤の勢いで追いかけてきていた。
「待ってー、ジュレー。私の、スイートハニー♪ その頭のお団子も、ふっくらまんまるしたお顔も、か・わ・い・い〜。さあ、そのちっちゃい身体で、私の胸に飛び込んでおいでなさーい」
 目をハートにして、カレン・クレスティアが走ってくる。その目に、ソア・ウェンボリスの姿が映った。
「マイスイート魔法少女〜。丸くってちっちゃくて、かわい〜。さあ、お姉さんの胸に飛び込んできなさ〜い」
「しまった。逃げるのだ。捕まったら、なでなでぺろぺろされるぞ!!」
 カレン・クレスティアの目標がソア・ウェンボリスに変わったのに気づいて、ジュレール・リーヴェンディが警告を発した。
「はっ、びんびんに危険を感じます。これこそ禁猟区の発現!!」
 ソア・ウェンボリスが決めつけたが、そんなこととは関係なしに、今のカレン・クレスティアを見れば誰だって素で危険だと感じるだろう。
「ここは、光の翼で逃げるしかありません。我求めるは、天翔る翼! あいきゃんふらーい!!」
 とっさに、カレン・クレスティアから逃げるためにソア・ウェンボリスが展望台の端から飛び降りた。もちろん、仮に本当に守護天使とのハーフの家系だとしても、地球人の血が濃ければ光の翼など生えるはずもない。ただ、魔法少女としては、本能的に空飛ぶ魔法↑↑を使ったようだった。
「ダ〜リ〜ン!?」
 ソア・ウェンボリスの後を追って飛び出したカレン・クレスティアだったが、当然、箒もスキルもなければ落ちるだけである。
「我が輩はめげまセーン。カレーがなくなったら、何度でも作ればいいのデース」
 運よくか悪くか、アーサー・レイスが下の方の枝で新しいカレーを煮ていた。室内で作るなと、みんなから追い出されたので、適当な枝の上で超特大の鍋で作っていたのである。
 そこへ、カレン・クレスティアが落ちてきた。
「うきゃあ、我が輩のカレーがあ!!」
「あぢー、辛! 辛っ!!」
 カレーまみれになりつつも九死に一生を得たカレン・クレスティアが、あわてて鍋から飛び出した。
「はっ、私は今まで何をして……。辛ーい!」
 どうやら、激辛カレーの効果で、やっと正気に返ったようであった。