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リアクション
3章 「兵器と生体」
〜古代兵器内部・通路〜
通路をまるで忍びのようにこっそりと進む者が数人。
「……よし、こっちにはいないみたいだ。もう、来ていいぞ」
後方の者に合図を送るのは、ジャスティシア国頭 武尊(くにがみ・たける)。
殺気看破などのスキルを巧みに使用し、敵と遭遇せずに通路を進行していた。
「……ったく、なんでこんな奴のお守なんか……俺達だけならさっさと動力部まで行けるってのによ」
ぼやいているのは、トランスヒューマンのゆる族猫井 又吉(ねこい・またきち)。
本来の予定では、国頭と又吉は光学迷彩を使用し、動力部まで侵入する予定だったのだが……。
「す、すいません……なんだかご迷惑をお掛けしているようで……」
申し訳なさそうに小さくなっているのは、スカイレイダー山葉 加夜(やまは・かや)。
通路で魔物相手に苦戦しているところを二人に救われたのであった。
「気にすんなって。困った時はお互い様って奴だ、それよりもそろそろ動力部に着くはずだからな。
気を抜かないようにしねえと……」
通路から顔を出そうとした国頭は何かを感じ、咄嗟に顔を出すのをやめる。
直後、顔のあったであろう位置をレーザーが通り抜けた。
「な……っ!? 殺気なんて感じなかったぞ!」
「おそらく、レーザー砲台のようなものがあるんだろう……機械は殺気なんて発さないからな」
又吉が納得したような顔で通路の先を予想した。
「ここまで砲台のようなものがなかったと考えると、重要な部屋があることは確実だと思います」
「違いねぇ……だが、不用意に出れば一気に蜂の巣だ。どうしたもんかねぇ……」
加夜は何かに気づいたように、
「火炎放射器の熱量ならば、多少はセンサーを妨害できるかもしれません。熱量探知でない場合は……意味がないですが」
「……なるほどな、よし……それでいこうか!」
「え……でも、熱量探知でなかったら……」
国頭は一番いい笑顔を加夜に向け、言い放つ。
「ま、そんなもん何とかなるだろ。それじゃ、火炎放射を頼む!」
「わ、わかりました……いきますッ!」
加夜はドワーフの火炎放射器を構えると、通路の先に向かって放射する。
後ろに居ても、かなり熱く感じるその熱量が通路の壁をまるで飴のように溶かしていく。
「又吉ッ! 放射の終わった直後に一気に飛び込むぞ、火傷すんなよ!」
放射が終わったと同時に国頭と又吉が通路の先に飛び込んだ二人の視線に。
2機のレーザー砲台が飛び込んでくる。
レーザー砲台からレーザーが掃射されるが、うまく二人の位置を掴めていないのか、真横をすり抜けていく。
「距離を詰めてセンサーの回復前に決めてやるッ!」
国頭はワイヤークロー【剛神力】をレーザー砲台に向かって放った。砲台に掛かったワイヤークローの
巻き取りを利用して、壁を走るようにその距離を詰める。至近距離で跳躍、急降下してスタンスタッフを
レーザー砲台に突き刺した。
「精密機械は電流に弱いってな!」
スタンスタッフから電流が放たれ、砲台は火花を上げてその機能を停止した。
「今度は俺が……ぐあああーーッ!」
もう1機のレーザー砲台のレーザーに腕を撃ち抜かれ、バランスを崩してその場に倒れる又吉。
「……いけないっ!」
宮殿用飛行翼を広げ、今まさに又吉に照準を付けているレーザー砲台に接近する加夜。
「これで、止まってッ!」
飛翔しながらドワーフの火炎放射器から火炎を放射。レーザー砲台の砲身はたちまちに溶け、ひしゃげていく。
放射が終わると、レーザー砲台はどろどろに溶け、黒煙を上げていた。
「……はぁ、はぁ……間に合ってよかった……又吉さん、大丈夫ですか!?」
加夜は又吉のそばに座ると、布で撃ち抜かれた腕を縛り上げる。
「応急処置の心得などないので、この程度しかできませんが……何もしないよりはいいかと」
「……あ、ありがと……な。それと、さっきお守なんて言って……悪かったな」
加夜は優しい微笑みを向けると、
「大丈夫ですよ、気にしていませんから」
「……お、おう」
その様子を見ていた国頭がにやにやしている。
「ほら、又吉、照れてないでさっさと内部を調べるから、扉開けろ」
「て、照れてなんかッ!」
又吉はささっと立ち上がると扉横のコンソールに、はんだセットと腰道具を駆使してノマド・タブレットを接続した。
ものの数秒も経たない内に扉が音を立てて開いた。
「こ……これは、なんだ!?」
「ひ、ひどい……」
3人の目に飛び込んできたのは、生物のような肉塊が部屋を埋め尽くし、ミイラ化した多数の人間達であった。
「まさか……この人達は、鏖殺寺院の……」
「研究者のようだな……ひでえ表情してやがる……」
加夜は深刻そうな表情で呟く。
「これは、古代兵器なんかじゃなくて……生物……それも、人の手の入った……なんということ」
〜古代兵器内部・情報処理室〜
「なんなの……これじゃ情報なんて」
情報処理室の中で端末を操作し、頭を悩ませているのは
ディーヴァ綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)。
彼女の見るモニターには、延々と「イリュジオン」という文字が並んでいた。
先程から、端末をどう操作してもその文字しか出てこないのである。
「まるで、この端末が何の意味もなく、ダミーで置かれているような……
だとしたら、この部屋は何の為に……」
ふと、彼女の視線が天井を向く。
「えっ!? な、何ッ!?」
床に自分が倒れていると認識するまでさほど時間は掛からなかった。
「床に……えっ、どうして……痛ッ!」
足に痛みを感じて視線を下げると、脈動する肉の塊のようなものが足首に巻き付いていた。
「なにこれッ!? このッ!」
フロンティアソードで斬り付けると、簡単に肉塊は斬り裂かれ、脚に自由が戻った。
即座に立ち上がると、綾原は肉塊から距離を取る。
見渡すと、壁から床から先ほどと同じような肉塊が徐々に迫っていたようだ。
「魔物……? なんだっていうの……!?」
四方から迫る肉塊に剣を叩き落とされてしまう。
「あっ……剣が! きゃあッ!?」
腕と足を拘束され、身動きが取れない状態になる綾原。
その四肢からは徐々に力が抜けていく。
「な……力が、入らない……うそ……でしょ」
次第に視界がぼやけていき、意識が遠のいていく。
不意に綾原の後ろの扉が開き、炎と氷の小さな竜巻が部屋内に放たれた。
あっという間に炎と氷の小さな竜巻は部屋内の肉塊を一掃する。
「大丈夫っ!? お怪我はありませんか!?」
血相を変えて部屋に飛び込んで来たのは、メイガスの吸血鬼アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)。
「な、なんとか……ちょっとふらふらするけど。助かったわ、ありがとう」
「お礼なんて……それに、わたくしはあなたに謝らなくてはなりませんわ」
少し驚いたような表情を見せる綾原。
アデリーヌは言葉を続ける。
「わたくしは、ほんの少しの間とはいえ、あなたを一人にして、危険に晒してしまった……
また……わたくしは……わたくしは……」
泣きそうな表情になるアデリーヌを抱きしめると、綾原は優しく言葉を掛ける。
「大丈夫、ちゃんとアデリーヌは助けに来てくれたじゃない。だから泣かないで……ね?」
「……は、はい」
しばらくの間、二人は愛おしそうに抱き締めあっていた。
〜古代兵器内部・通路〜
通路を全速力で走っている人影が二つ。
マスターニンジャ葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)とスナイパーのシャンバラ人コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)。
二人は通路で多数の肉塊に追われていた。
当初は魔障覆滅や霞斬りを使用し、肉塊を斬り刻む等して退治を試みたのだが、効果は薄いようで、
すぐに次の肉塊が二人の目の前に現れたのである。
その為、二人は退治から逃走に作戦を変更したのであった。
走りながら吹雪がコルセアに話しかける。
「このまま逃げ続けていたら、いずれ追いつかれてしまうか、行き止まりで退路がなくなってしまうであります。
幸いここは直線、イレイザーキャノンでの一気討滅試してみる価値はあるかと」
「そうですね、逃げ続けるのは不可能でしょうし……時間稼ぎをお願いしますね」
吹雪は肉塊に向きなおり、パンドラソードを下段に構え、急接近する。
肉塊は吹雪に狙いを定め、多数の触手を伸ばす。
吹雪は空中で高速回転し、周囲に迫った触手を斬り刻んだ。
「まだまだ! 忍法・呪い影ッ!」
吹雪の影が立体化し、肉塊の伸ばす触手を斬り裂いていく。
二人の吹雪は壁や床を縦横無尽に飛び回り、肉塊の触手に反撃の暇を与えない。
コルセアはイレイザーキャノンの発射準備に入り、その照準を肉塊の中心に合わせた。
「エネルギー充填率10……20……30……吹雪、もう少しだけ頑張ってください!」
肉塊は吹雪の猛攻に反応し、触手の数を一気に増やしてきた。
影の吹雪は数の増えた触手の猛攻を受け掻き消えてしまう。
「くっ……ならばもう一度、忍ぽ……」
そこまで言った時点で、吹雪の首に触手が巻きつく。
「がぁッ! 気づかなかった!? ぐっ!」
必死に引き剥がそうとするが、触手の力は強く、びくともしない。
触手が身体、足、腕などに巻き付き、その力を奪っていく。
「くぁぁ……体に、力が……入らな……ん、ぐぅ……」
力を吸われていく感覚に抗おうとするも、意思とは無関係に体はいう事を聞いてくれず、
徐々に身動きが取れなくなっていく。
「チャージ完了ッ!! 吹雪ッ! 退避をッ!」
コルセアの声を聴き、朦朧とする意識の中で、驚くほど冷静に吹雪は思考する。
辛うじて動くのが腕一本であることを確認し、手の平で魔方陣を構成。
「く……らえ!」
魔方陣が完成し、至近距離で小規模な魔力の爆発が発生する。爆発は巻き付いた触手を粉々に吹き飛ばし、、
吹雪は自由となった。
ふらつく身体を精神力で立て直し、コルセアの元に駆ける吹雪。
コルセアは吹雪が自分の後ろに退避したのを確認し、引き金を引く。
光が収束され、肉塊に向かって勢いよくビームが放たれた。
通路の壁を抉り、床を抉り、肉塊に向かってビームは直進する。
ビームが命中し、その形を残すことなく肉塊は光の中に消え去った。
「……なんとか、片付きましたね……吹雪、大丈夫ですか!」
「これしきの、ダメージ……問題ない、であります」
「ほら、肩を貸しますから」
また新たな肉塊の出現を警戒し、
ふらつく身体を支えられながらその場を後にする吹雪であった。
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