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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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【第二話】激闘! ツァンダ上空

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 飛都の説明に紅月は感心したように聞き入っていた。その一方で、ドール・ユリュリュズの出航準備は着々と進んでいた。
 もうじきドール・ユリュリュズは出航準備を終え、司令部へ向けて飛行することになる。短距離とはいえ、飛び立てばこの船は単独で空を行くことになり、そうなれば結和自身が主な治療者となるのだ。
「だだだけど私、私じゃ、まだ……」
 そうなることの不安を結和は、仲間であるアヴドーチカ・ハイドランジア(あう゛どーちか・はいどらんじあ)に漏らした。
 するとアヴドーチカは静かに、そして諭すように結和へと言い聞かせる。
「……お前さん、私と出会う前から、戦場で治療行動をしてきていたのだろう? きっと下手な新米医師よりは多いだろう。その救った命と経験に胸を張れ。自信を持て」
 結和に言い聞かせ、軽く肩を叩くと、アヴドーチカは彼女の役目である負傷者の診断・振り分けの担当へと戻っていく。彼女の仕事内容は患者を最初に診断・治療し、瀕死・バイタルサインが微弱な者は蘇生させるほどの強力な術をが使える者へ、単純な熱傷や裂傷等は治癒魔法が得意な者へ、体内に破片が残留している者・骨折、創傷が広範囲の者もしくはショック症状等発症した者は医学を修めた者へ、そして、より高度な治療が必要な者は状態を詳しくカルテに書き連ね治療所本陣へ搬送する準備をする――そうした救護の初期段階において重要な役割を担うのが彼女だ。
 また、彼女は他にどのような処置をすべきかその場の者に的確に指示を飛ばす役目も担っている為、実質、この中継所における救護の司令塔としての役割を務めていた。
 アヴドーチカが的確に指示を飛ばしている間にも、新たな患者は運び込まれてくる。
 レスキュー要員であるエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が戦場を駆け、探し出してきた負傷者を担いで処置用のストレッチャーへと連れてきたのだ。
 負傷者はエメリヤンに救助された時点で彼によって心肺機能の確保・止血・創傷の保護がされており、応急処置は十分。
 ――生命を繋ぎ止め治療所まで届けることが第一。最低限の処置を素早く行う。
 それを念頭に置いて負傷者を連れてきたエメリヤンは、今も意識のある負傷者に声をかけて励まし続けている。
「……大丈夫……大丈夫……がんば……頑張ってっ!」
 無口で口下手ゆえの拙いが必死な励ましを受け、負傷者の目にも活力が戻る。
 アヴドーチカのように直接励ますことこそまだしていないが、エメリヤンも彼女と同じ気持ちだった。
 結和の弟としてずっと戦場で護ってきた。そして、その治療行動を見てきた。姉は今や信頼できる治療者であるとの確信がエメリヤンにはある。
 そんなエメリヤンが結和を見やると、ちょうど彼女に土佐の医療担当者である高嶋 梓(たかしま・あずさ)が話しかけたところだった。
「結和さん、もう少しで全員の応急処置が終わります。負傷者さんの何人かはこちらに残ってもらっても大丈夫そうですが、残りの人たちは予定通り司令部の医療本陣に移して高度な治療を受けてもらった方がよさそうです」
 そう切り出した梓は応急処置を施した負傷者の名前と各人の状態が記されたリストを渡しながら更に説明を続けていく。そして、全員の説明を終えた梓は結和の瞳をまっすぐに見て告げた。
「医療本陣行きの人達を頼みましたよ。今や、結和さんたちだけが頼りです」
 その言葉を重く受け止め、結和は深くしっかりと頷き、梓からリストを受け取る。直後、それを見計らったように結和へと声をかけてきたのはアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)だ。
「さー、発進するよ!」
 三号に頷く結和と梓。その後、梓は足早にドール・ユリュリュズを下船して土佐へと戻っていく。梓が土佐のデッキに降りた直後、ドール・ユリュリュズはゆっくりと浮き上がり動き出す。
 窓から土佐のデッキを見つめた結和は、デッキに残った梓が自分たちに向けて敬礼しているのを見て、自分も背筋を伸ばす。結和にとっての戦いはこれからだ。自分たちを信頼して負傷者を任せてくれた梓の為にも、絶対に負傷者は助けなければならない。
 移動中も治療を続けられるようにドール・ユリュリュズには医療器材が大量に準備されている。資材・薬等は患者の数から計算し余裕を持って積載、医療器材等はで出来るだけの症状に対応できるよう選抜、極めつけはベッドは多少の揺れでは動かないようガード付きという至れり尽くせりの設備だ。
 だがそれでも、気は抜けない。これから外に出て飛行する以上、この船は短時間とはいえ武装の一切ない姿を戦場に晒すことになるのだ。
 三号の操舵で飛行するドール・ユリュリュズは加速やカーブはゆっくり目に、運んでいる患者に負担のかからないような機動を心がけ、可能な限り速く、かつ安全な運行で患者を医療本陣へ運んでいく。
 だがそれでも、急変した患者は現れてしまう。すかさず結和は急激に危険行へと突入した患者のもとへと直に駆けつけ励ましながら、知識と経験を持って診断し適切な処置を行い治療を施す。
「大丈夫です。私がついてますから、あと少し、頑張ってくださいっ」
 治癒魔法での治療に加えて、医学的な措置も恐る恐る、しかし確実に行い始める結和。
 アヴドーチカ、そして前回の戦場でともに救護に当たったとある人物の言葉を胸に、結和は今までにいくつもの戦場を治療者として駆けた、その経験を糧に確かに成長しているという僅かな自信を得る。
 そうしている間にもドール・ユリュリュズは着実に司令部へと近づいていくのだった。