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学生たちの休日9

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学生たちの休日9
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「ううっ……。せっかくの休日なのに、図書館で勉強だなんて。ボクって不幸……」
 蒼空学園の図書館に籠もった神崎 輝(かんざき・ひかる)は、全教科の教科書と参考書で自分の周りに巨大なタワーをいくつも作って頭をかかえていた。
 試験が近い。
 普通の学生であれば、悩むと言ってもそこそこですむところなのだろうが、神崎輝はちょっと状況が違っていた。
 アイドルとしての芸能活動があるため、どうしても他の生徒たちよりも勉強が遅れてしまう。というか、勉強の時間がまともにとれないのだ。
「これで留年でもしたら、アイドルとして箔がつく……、いいえ、恥よ、恥。なんとしても、試験で頑張るんだもん」
 こういうときに、気晴らしとして話し相手になりそうな一瀬真鈴と一瀬瑞樹は、ヴァイシャリーに観光に行っている。
「まったく、いい御身分……。いやいやいや、羨ましくなんかないもん。あの二人がどうなろうと、知らないもん!」
 そう叫んでしまい、周囲の目の集中砲火を浴びて、神崎輝はあわてて教科書に目を戻した。
 
    ★    ★    ★
 
「ふう。少し息抜きしましょう」
 宿題に遅ればせながらめどがついたので、杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)を散歩に誘った。
「内に籠もりっぱなしだと、本当に腐ってしまいますね」
 のんびりとベンチに座りながら、杜守柚がだらんとだらけて言った。ちょっと珍しい姿だ。さすがに、ここしばらく根を詰めていたので、反動が来たらしい。
「あられもないなあ。そんな姿だと、振られちゃうよ」
「なんてこと言うんですか!」
 がばっと起きあがって、杜守柚が杜守三月に言い返した。
「ちっとは身体動かそうよ。フリースロー対決でもやろう」
 持ってきたバスケットボールをボンボンと手で突きながら杜守三月が言った。
「対決ですか? 負けませんよ」
「僕だって、誰が来たって負けないよ」
「誰が来たって……。そうです!」
 杜守三月の言葉に何か思いついたのか、杜守柚があわてて携帯でどこかに連絡した。
「どこに連絡したの?」
「当然、海くんです」
 きっぱりと、杜守柚が答えた。フリースロー対決を口実に、高円寺 海(こうえんじ・かい)を呼び出すつもりだ。はたして、高円寺海がこんな誘いでやってきてくれるかは不明だが、当たって砕けろである。
「よおし、じゃあ、始めるよ。負けた方がジュースを奢るんだからね」
 公園にある3on3のバスケットゴールの前に立つと、杜守三月がボールを投げた。するんと、ボールがリングの中央を通り抜ける。どんなもんだいとポーズを作ってから、杜守三月がボールを拾って杜守柚に投げ渡した。
「ようし、見ていなさい」
 ボンボンと数回ボールをつくと、杜守柚が軽くジャンプしてポーンとボールを投げた。
「ゴール!」
 やったねと、杜守柚がポーズをつける。さすがに、杜守三月に内緒で、こっそりと練習していたかいがある。全ては、高円寺海と一緒にフリースローをして遊ぶ日のためである……のか?
「さあ、本命が来るまで、雑魚と練習ですよ」
「誰が雑魚だあ!」
 負ける気のしない杜守柚に、杜守三月が意気込んで叫んだ。
 
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「あら? コーヒー豆がもうないわ」
 午後のお茶を飲もうとして、奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)がコーヒー豆の入っていた缶を逆さにして、底をポンポンと叩いた。
「さて、どうするかだわ」
「何を悩んでいるのよ、そういうときは、さっさと買いに行く」
 のんびりとしている奥山沙夢に、雲入 弥狐(くもいり・みこ)が言った。
「じゃあ、買いに行きましょう」
「あたしも!?」
 なし崩しに雲入弥狐を引っ張り出すと、奥山沙夢がショッピングへと繰り出した。
 一応、買い物の目的はコーヒー豆ではあるが、それは最後でもいいというわけで、散歩がてらのんびりとウインドウショッピングを楽しむ。
「天気がいいから、雲海から吹く風も気持ちいいよね」
 ふわふわとした狐尻尾を、風に靡かせながら雲入弥狐が言った。
「お買い物〜、お買い物〜」
 結構上機嫌の雲入弥狐と一緒に、奥山沙夢はツァンダのメインストリートを歩いていった。
 空京ほどではないにしても、小綺麗なショップがならんでいる。
「あれ、ここ新しくできたレストランだね」
 新装開店の幟を立てている小綺麗なレストランを見つけて、奥山沙夢が指をさした。
「食べていく?」
 窓ガラスに貼ってあるメニューを見て、雲入弥狐が聞いた。
「うーん、でもここじゃ豆は売ってないみたいだから、いつもの店に行こ」
 そう言うと、奥山沙夢は先に進んだ。
 途中のクレープ屋さんというトラップにみごとに引っ掛かった雲入弥狐が買ったクレープを半分奪いつつ、のんびりと散歩を楽しむ。ほんとに、久々のいい気分だ。
 ブティックなどを目で見て楽しんだ後、お目当ての喫茶店が見えてくる。
「ロブスターとサントスを。それから、ブレンドとモカを100グラムずつ」
 注文をすますと、奥山沙夢は雲入弥狐と共に外のテラス席に座った。落ち着いたアンティークな店内も捨てがたいが、人通りのあるテラス席も変化に富んでいていい。
「ゆったりとした休日もいいものねえ」
 コーヒーの香りを楽しみながら、奥山沙夢がしみじみ言った。
 
    ★    ★    ★
 
「米は配達を頼んだし……。後なんか買いたい物あったか?」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)が、パートナーたちに訊ねた。食料や細々とした日常品などを大量に買い込んだのだが、そちらの方は夜刀神甚五郎と草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)のドッペルゴーストが運んで家へとむかっている。
「それであったら、何着か服を買いに行きたいのじゃ。靴もじゃし、それから、小物も見て回るのじゃ!」
 何か買ってくれると思い込んだ草薙羽純が叫ぶように言った。
「でしたら、ワタシも鎧の新調をお願いしたいです。あと、やっぱり、服とか靴とかもほし―です」
「オイラは、別にいらないなあ」
 ちょっと意気込むホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)と対照的に、オリバー・ホフマン(おりばー・ほふまん)はお洒落には興味なさそうだ。
「何を言っておる。甚五郎もオリバーもちょっとはお洒落せい。お主らの服も買おう。特にオリバー、お主は、ジャタの衣装ばかりでなく普通の服も買え」
 ちょっと呆れたように、草薙羽純が言った。二人とも、普段から同じ衣装を着たきり雀だ。特に、オリバーは今と違う衣装を見たことがない。
「いいんだよオイラはこれで。コレはオイラの誇りだ!! だから、他の連中がどう言おうと……」
 思いっきり反論しようとしたオリバー・ホフマンであったが、あっという間に草薙羽純の拳に説得されてしまった。
分かった、とにかく、あそこのブティックに入ろう」
 なんだか人目が恥ずかしいと、夜刀神甚五郎がカフェテラスの前からそそくさと数軒先のブティックへと移動した。
「さてさて、お主らにはたっぷりとわらわがコーディネイトしてやろうではないか。ふふふふふ……」
 実に楽しそうに、草薙羽純が言った。普段お洒落に疎い者というのは免疫がないから、いろいろと飾り立てがいがあるというものだ。
「これなど、どうかのう。いやいやいや、こちらの方が。ええい、いっそこれでどうだ」
 もう、完全に夜刀神甚五郎とオリバー・ホフマンは、草薙羽純の着せ替え人形状態である。普段バンカラな夜刀神甚五郎には、ぴっちりとした黒のスーツにサングラスで大人っぽくしてみる。オリバー・ホフマンには、少し大きめのTシャツとサロペットにスニーカーと、ストリートの元気少年風に。自分用には、ミニのワンピースにジレ、足許はロングブーツというカントリースタイルにしてみる。
「これ、どうでしょうか」
 鎧がほしいと言っていたホリイ・パワーズは、パープルの鮮やかな金属鎧で、ブレストアーマーとガントレットとブーツを揃えていた。鎧の当たる肌にはタンクトップと腕カバーとストッキングを身につけているが、肩やおへそは丸出しだ。そこに、もこもこのショートケープとモヘアのついたパレオをつけている。頭には、赤い花飾りのついたヘアバンドとなかなか可愛く纏まっている。
「魔鎧が自分の鎧に凝るなどと……」
 なんだか本末転倒だと草薙羽純は言いたげだったが、自分で選んだだけあってこのメンバーの中では一番お洒落っぽい。
「とりあえず、会計は任せたのだ」
 そう言うと、草薙羽純がお財布係の夜刀神甚五郎をレジへと突き飛ばした。
「なんだか、着慣れない……はははは、格好いいぜ、オイラ」
 ちょっと文句を言いかけたオリバー・ホフマンが、草薙羽純に睨まれてごまかした。
「やれやれ。とりあえず飯でも食うか?」
「あ、食事でしたら、地球料理が美味しいと評判の所があるのでそこへ行ってみたいです。予約とかドレスコードとかは関係なく入れるみたいですよ」
 夜刀神甚五郎の言葉に、ホリイ・パワーズが乗ってきた。別段おかしな格好というわけではないが、全員でならぶと、確かにちぐはぐな感じは否めない。
 新装開店という幟のあるレストランに入ると、中はビュッフェ形式であった。主に地球の料理が所狭しとならんでいる。
「うおおお、これ全部食べていいのか!?」
 山ほどの食べ物を見て、オリバー・ホフマンが今にもよだれの滝をこぼしかねない顔で聞いた。
「食べられるだけですよ」
「全て食う!!」
 そうホリイ・パワーズに言うなり、取り皿を持ったオリバー・ホフマンが突撃していった。
「うむ、こういう形式は、オリバーにとっても、わしの財布にもありがたいぜ」
「何をぐずぐずしている。ぼけっとしていると、全てオリバーに食い尽くされてしまうぞ」
 うんうんとうなずく夜刀神甚五郎を、草薙羽純が急かした。
 その後、そのビュッフェに、要注意人物と書かれた張り紙があるという噂がしばらく流れたのだった。