校長室
学生たちの休日9
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★ ★ ★ 「違う、そこの計算式」 「ううっ……」 リビングダイニングで漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が十五夜 紫苑(じゅうごや・しおん)に勉強を教えていた。相変わらず十五夜紫苑は集中力が散漫なのでびしびしと教えていく。 「じゃあ、次、魔法の勉強をする。まずは火術から」 「えー、まだやんの!?」 もう勘弁してと、十五夜紫苑が音をあげた。 「だめ、これ、宿題でしょ。頑張る」 一所懸命教えてくれるのはいいが、一所懸命すぎて漆髪月夜は厳しい。これなら、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)の方が教え方は優しい。とはいえ、封印の巫女白花は、問題が解けるまで許してくれないので、優しくても本当は容赦がないのかもしれない。融通が利かないというか……。 究極の選択を迫られつつも、脱走できる可能性が残る漆髪月夜の方を選ぶ十五夜紫苑ではあった。 ここで助けを求めるとすれば、同じ男として、ちゃらんぽらんで優柔不断だと思う樹月 刀真(きづき・とうま)ではあるのだが。その樹月刀真がどうしているのかと、半ば救いを求めるように十五夜紫苑はキッチンの方に視線をむけた。 「いやあ、白夜も料理の腕が上がったよな。最初は大根一つ切れなくて心配したけれど……。あのころから比べたら凄いよ。なんだか、思い返すと感慨深いものがあるなあ。これならいつ嫁になって……、ええっと、お嫁に出しても大丈夫……」 「痛い!」 いきなり変なことを言うから、封印の巫女白花の手が滑って包丁で指を切ってしまった。嫁になっても大丈夫などと言ったら誤解されそうなので言いなおしたわけであるが、大した違いはない。樹月刀真の口から嫁などという言葉が出れば、封印の巫女白花の手元だって狂う。 「つっ……油断したか。大丈夫か、白花」 とっさに樹月刀真が封印の巫女白花の手を取って、血の出た指をくわえた。 「あー」 それを目撃した十五夜紫苑が、思わず声をあげる。 「見つけた……そこ!」 ぴきーん! 漆髪月夜のホークアイが、樹月刀真に突き刺さった。 それを感じて、封印の巫女白花があわてて指を引っ込めた。 「絆創膏を貼ってきます」 ちょっと顔を赤らめて、封印の巫女白花が救急箱を取りに行った。 「さ、さあ、スパゲッティーとサラダができたぞ……」 「じー……」 なんだかんだ出て来あがったミートソーススパゲッティーと温野菜サラダを持ってきて食事にすることにした樹月刀真であったが、漆髪月夜の視線が痛い。 「じー……」 食事中も、ずっと同じ状態だ。これはまずい。 なんとかしろよと、耐えきれなくなった十五夜紫苑がテーブルの下で樹月刀真を蹴っ飛ばした。 「ええっと、デザートだそうか」 そう言うと、樹月刀真はいそいそとアイスクリームを取りに行った。 「ほ、ほら、月夜、お前の好きなアイスだぞ。こっちに来て食べよう」 そう言って樹月刀真が手招きすると、アイスに釣られてか漆髪月夜がゆっくりと、だが、まだ、睨みつけたまま近づいてきた。ええい面倒くさいとばかりに、樹月刀真が漆髪月夜を引っぱって自分の膝の上に座らせる。 「はい、あーん」 そのままの体勢でアイスクリームを食べさせてやると、やっと漆髪月夜の機嫌が直ったようだ。 「オレもアイスほしい!」 それを見て羨ましくなったのか、十五夜紫苑が叫んだ。 「じゃ、紫苑さんは、こっちで私と勉強しながらアイスを食べましょうね」 気をきかせて、封印の巫女白花が十五夜紫苑に言った。 「えっ、それは……」 なんだか、とばっちりが来そうに感じて、十五夜紫苑が口籠もった。 「あっ、やるやる。オレ勉強する」 封印の巫女白花が悲しそうな顔をしたので、十五夜紫苑はあわてて言いなおした。 「次は、白ねーちゃんの番だよね、きっと」 次は漆髪月夜のまねをして少し拗ねてみようかと思ってる封印の巫女白花の心を見透かして、十五夜紫苑がつい口に出して言ってしまった。 「さあ、勉強ですよ。できるまでやりましょうね」 軽く十五夜紫苑の頭をポカリとしてから、封印の巫女白花がきっぱりと言った。