リアクション
夏休みの終わりに…… 「ここが、肝試しのときに見つかったという祠ですか?」 キーマ・プレシャスと連れだったジェイムス・ターロンが、肝試しのときに使った洞窟の奥の祠を確認して言った。 「バラバラだね。まったく、相変わらず、あの生徒たちはやり過ぎだ」 やれやれと言うふうに、キーマ・プレシャスが肩をすくめた。無事夏合宿も終わったと思ったのに、地元から祠を壊されたとクレームが来たのだ。 「祠は単純に修理する……ですみそうにないですね」 祠のあった場所に何か穴があるのを見つけて、ジェイムス・ターロンが顔を顰めた。中から、何かは出したような跡もある。 「はははは、もしかして、もの凄くまずいことになってる?」 「かもしれません。とりあえず戻りましょう。もう、祠は意味がないか、適当な物でいいでしょう。地元の人たちには注意をうながすと言うことで」 とりあえずの対処を決めると、二人は洞窟の外へと戻っていった。 海岸からパラミタ内海を望むと、沖合をど派手な大型飛空艇が通りすぎていくところだった。 「なんなんだ、あの派手な船は」 「ああ、あれは、ジェイダス様の御座船ですね。いったいどちらへおこしになるのでしょうか」 タシガンの家令であるジェイムス・ターロンが、即座に船を判別して説明した。 ★ ★ ★ 「エリュシオン帝国への到着は、翌日未明の予定となっております」 御座船の船長が、ジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)に告げた。 「うむ。ユグドラシルの視察は楽しみだな。面白い催し物となればよいが」 これからの予定を思って、ジェイダス・観世院が、楽しそうに言った。 ★ ★ ★ 「行ったか。発見されてはいないだろうな」 「もちろん。このナグルファルのステルス機能は完璧ですよ」 海中に潜んだ機動要塞ナグルファルのブリッジで、指令がソルビトール・シャンフロウに言った。 「エリュシオンの方角に行ったのが気になるが……」 「では、計画を急ぎましょう。ですが、ニルヴァーナの工作員からの報告も必要な情報でありますから……」 「慎重にな。動きを察知されて先手を打たれてはまずい」 不機嫌な顔で、ソルビトール・シャンフロウが言った。 「心得ております。お任せを。――バラミタ内海西岸にむけて移動を再開せよ。空母スキッドブラッド他の発進を準備」 そう言うと、指令は部下の者たちに細かい指示を与えつつ、パラミタ内海を深く静かに機動要塞を進ませていった。 ★ ★ ★ 「アスコルド大帝の命を伝える」 「はい」 アスコルド大帝の命令書を携えた創龍のアーグラの使者が、新しく小さな一地方の領主の座を急遽継いだエステル・シャンフロウに告げた。 「シャンフロウ卿におかれては、即刻出立して逆賊を討伐せよ。以上である」 きびきびとした声で、使者が命令書を読みあげた。 「謹んで承ります」 銅色の長髪を肩から零して、エステル・シャンフロウがうやうやしく使者に一礼した。後ろに控える二人の護衛の騎士たちもそれに倣う。 「どうぞ、お気をつけて。おっと、これはアーグラ様からの私信です」 使者が、しゃちほこばった態度を崩してエステル・シャンフロウに優しく語りかけた。 「本当にありがとうございます。どうかよろしくお伝えください」 「お伝えいたします」 そう言うと、使者は足早に出ていった。 「デュランドール、フリングホルニの出発準備はできていて?」 「御命令あれば、今すぐにでも出発できます」 エステル・シャンフロウに聞かれて、騎士団長の若者が自信満々で答えた。美形だが、その眼光は鋭く、どこか容赦がない。 「すぐにでます」 エステル・シャンフロウとしては、時間を無駄にするつもりはないようだ。 「目的地は?」 「当初の予定通り蒼空学園へ」 デュランドールの形式的な問いに、エステル・シャンフロウが即答した。 「御意」 一礼すると、デュランドール・ロンバスがエステル・シャンフロウを警護しつつ新造空母のフリングホルニにむかう。楕円形の飛行甲板に二本のカタパルトを擁する中型空母だ。 空中に浮かぶフリングホルニの滑走路に往還用の中型飛空艇で降り立つと、エステル・シャンフロウたちはイコン格納庫を通ってブリッジへとむかった。イコン格納庫には、メタリックレッドのヤクート・ヴァラヌス・ストライカーと、紺色のヴァラヌス・フライヤーが格納されていた。それらの胸部には、シャンフロウ家の紋章が描かれている。 「発進させなさい」 艦長席に座ったエステル・シャンフロウが命じた。 「フリングホルニ、発進します」 操舵手が復唱する。 後部機晶エンジンから光を迸らせて、フリングホルニがエリュシオン帝国を出発する。 休日はそろそろ終わろうとしていた。 担当マスターより▼担当マスター 篠崎砂美 ▼マスターコメント
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