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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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8月生まれ:八神 誠一(やがみ・せいいち)のケース


『特に信じてはいないんだけどねぇ……』


 何だか意味のないことのような気がする。蒼空学園の掲示板で貼り紙を見て誠一は思った。
(こういうのって、験担ぎやジンクスと一緒で、起きた事象と占いで出てた事柄を関連付けて考えようとする人がいるから、成り立つんだと思うんだけどなぁ)
 結局、結果が出てから照らし合わせて、当たっていた、いないと騒ぐだけだと思う。
「こんなの信じたいもんかねぇ」
 呆れたような、鼻で笑うような調子で言ってのけたのは強化人間パートナー・シャロン・クレイン(しゃろん・くれいん)である。
「日によって自分の能力が馬鹿でかく変わったり、帽子一個で運不運がそこまで変わりゃしねーだろ」
 自分の誕生月である12月の占いの文言を一瞥し、吐き捨てるように言う。
「こーゆーのはあくまで、気分の調整に使うのが本来の使い方じゃねーか?」
「……ごもっとも」
「あたしだって験くらいは時々担ぐけどさ、日々の生活を依存させるもんじゃねえだろうよ」
「全く持ってその通りだと思いますけどねぇ」
 そこまで話して、ほぼ同時に二人の口からため息がこぼれる。そこからは、【精神感応】での会話になる。
(そうは考えてくれない人たちが……ねぇ)
(いるんだよなぁ……)
 その『そう考えてくれない人』たちは、今まさに、二人の背後に迫りつつある。


「4月生まれの俺様のラッキーアイテムは『異性から貰ったもの』なのだよ」
 そう言ってオフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)はずいっと誠一に迫る。
「だから、ラッキーアイテムとして俺様に何かプレゼントするのだよ」
 当然の権利であるかのような口ぶりで、さらにずいっと迫る。
「いや、急に何かを寄越せとか言われても……ろくな物が無いんだけどねぇ」
「ただでとは言わないのだよ。そのお礼として、せ〜ちゃんには」
 すでにやや逃げ腰の誠一の目の前に、ずいっと今度は、何かを突き出す。
「俺様特製のお弁当をプレゼントしてあげるのだよ」
 差し出された弁当箱を、オフィーリア自ら開けて、中身を誠一に示す。
(……、今日はまた一段と毒々しいと言うか、禍々しいというか……是の一体どこを料理と言えばいいんですかねぇ)
 下手を通り越して錬金術の域に達している……と思われるその料理は、錬金術としてももはやある種の境地に達しているのではないかと思われるほどで、太古の魔神でも呼び出すのに使いそうな魔性の物体にしか見えない。
「一見怪しいものに近付くときっと良いと出てたんだし、遠慮は無用なのだよ?」
 悪びれる様子もなくそう言ったかと思えば、
「べ、別にその為に作ったわけでもないし、せ〜ちゃんからのプレゼントが欲しいと言っている訳でもないのだよ?
占いでそうすれば良い事があると出ているからやっているだけなのだよ」
 何やらツンデレのテンプレートみたいなことを口走る。魔性の物体を手にしての台詞ではデレの破壊力はいささか感じられないが……
 そもそも「一見怪しい」というより「どう見ても怪しいとしか言えない」のでは……とはさすがに口に出せない。
「とにかく、さっさと寄越すのだよ」


「ほら、シャロンおねー様! とっても素敵! カッコ可愛い! これで今日一日ラッキー間違いなし、です!!」
 能天気…というか、浮かれ気分全開の宇和島 凛(うわじま・りん)に、なんとも趣味に合わないバカデカいつばの帽子をかぶせられ、シャロンは顔面をひきつらせている。
 凛の頭の上には全く同じデザインの帽子、いわゆるお揃いという奴である。
(わたしとおねー様の誕生月は同じ12月、ラッキーアイテムは帽子、これはもうおそろいの帽子を被れっていう神様からのお告げだよね!)
 シャロンに異様に懐いている凛にとっては、幸運の女神からGOサインを得たようなものらしい。だが、シャロンにとっては鬱陶しい以外の何物でもない。密かに、やはり窮地に陥っている誠一と精神感応で言葉を交わす。
(おい、凛を何とかしてくれ……)
(どっちかと言うと、こっちが助けて欲しいくらいなんですけどねぇ……)
(弁当か? 気合と根性で喰えばいーだろが)
(…僕に、死ね、と?)
 この状況では助けは望めそうにない。仕方なく、シャロンは、つばが広い分陽射しを遮れることくらいしか自分には利点の見いだせない帽子を脱ぎ、圧をかけるくらいにくっついてくる凛を引きはがして歩き出した。どうせまた追いかけてくっついてくるだろうが、せめて木陰に入りたい。日向では暑苦しくて我慢ができない。
「おねー様ぁ」
 果たして凛はすぐに追いかけてきた。だが、そこは学園構内の車道だ。校内に何か運び入れるらしいトラックが、ちょうどその時走ってきた。
「! 危ないっ」
 間一髪、慌ててシャロンは凛の手を引っ張って舗道に引っ張り上げた。トラックは軋む音を立てて急ブレーキをかけたが、凛がいた場所をずっと通り過ぎてから停止した。
「……」
「…ったく、あぶねーからうろちょろすんな。こっちきな」
「おねー様! ありがとう私……おねー様にっ、一生ついていきますっ」
「そんなに長いことこっちに来いとは言ってねぇっ!!」
 占いに従って、自分なりに独自の表現で感謝を伝えようとした結果、勢い余って将来を誓うような言葉になった。凛のシャロンに対する「私なりの」感謝の表現とは結局のところ、猪突猛進な愛情表現に還っていくものらしかった。絞め技をかけるようにぎゅうっと抱きつかれて、脱力したシャロンの口からは溜息しか出なかった。


 そして結局、一同の「この日」は、多少過激な色合いを含みながらも、「ある意味」いつも通りに過ぎていったのだった。


『なんていうか、自分のは大外れな上に、他の人の結果で被害こうむった感すらあるなぁ』
(特に何もなし。外れたのはきっとせ〜ちゃんの所為なのだよ)
(身内はあぶねー目に合うわ、あたしは色々としんどいわ、外れだろ)
(シャロンおねー様とおそろいの帽子、一緒にお出かけできてる時点で良い事が起きてます!

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●委員Aによるチェック●
 ……占いを盲信する人のせいで信じない人が被害を受ける……という極端な例だね、これ……。
 にしても、錬金術みたいなお料理って一体……。