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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

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求ム、告ゲラレシ天命ノ被験者

リアクション


3月生まれ:御凪 真人(みなぎ・まこと)のケース


『占いねぇ。当たるも八卦、当たらぬも八卦ですよ。』


(なんという暇なことを……)
 夏期講習で蒼空学園に登校して、占い検証依頼の貼り紙を見た真人の感想は、その一言だった。
「そこまで気にするようなものですかねぇ……占いって」
 古来より占いというものは信じられてきてはいるが、そもそも一日の運勢が12通りしかないなんてありえないだろうと思う。こんなにも人間は世界に沢山いるのに。
 真人はあまり占いを信じていない。
 気には留める程度だが、当たるも八卦、当たらぬも八卦だと思う。
「さて、講習に行きますか」
 依頼の貼り紙は一読しただけでさして注意も払わず、真人は講習の行われる教室に向かう。
 ――パートナーたちの不穏(?)な動きには気付かずに。


「じゃあ、オイラは幸運ってこと? ――だって、『占い検証委員会』なんて知らない名前を今、知ったし」
 5月生まれのトーマ・サイオン(とーま・さいおん)は、首を傾げて貼り紙を見ていた。
「で、にいちゃんには『水難の相』ねえ……。アイシスは占いって、信じるの?」
「え? それなりに信じてるわよ。だって女の子だもの」
 アイシス・ウォーベック(あいしす・うぉーべっく)は、やはり貼り紙を見ながら、悪戯っぽい含み笑いを浮かべている。「面白いネタ、見つけた」という目の輝きだった。
「ま、良い事は信じて悪い事は信じないってとこだけどね」
 そんなアイシスは7月生まれ、「追い風が吹いて」おり、「多少の無茶も通る」日だという。
「だから、ね、トーマ」
 ――ちょっと引っ掻き回してみない?

 自分たち二人は良い運勢が味方しているから、大丈夫、上手くいく。
 言葉巧みに、アイシスはトーマを誘う――もともと根が根が悪戯好きのトーマだから、乗せるのは難しくはない。
「この依頼のせいで皆さん、占いに気を使いすぎてると思わない?
 きっと占い結果に近いイタズラなら、イタズラと思われずにすぐには手が回らないわよ。
 それに相手の不運と合わさって成功率も段違いよ」
 トーマの目も、生き生きと輝きだす。
 占いは大して信じていないけど、面白そうなことなら大歓迎だ。
「その話、乗った!」

 そうして二人は共犯者同士の笑みを交わす。
 ……ただし、自分が思っているより少し先のことまでアイシスが見通していることを、トーマは知らない。


 講習を終えた真人は、気分転換にどこかで本を読もうと、校内を歩いていた。読書が捗りそうな、静かで涼しい場所を探して。
 昼下がり、各教室で行われていた講習もあらかた終わり、残っている生徒は学食やカフェテリアで食事や談笑したり、暑さをしのぎにプールに行ったりという過ごし方が主流のようだ。それらから遠ざかり、校舎の奥へと続く、それ自体校舎の影となっている人通りも少ない渡り廊下を歩いているところで。

 ――ばっしゃああああん!

 水が降ってきた。
「……」
 あっという間もなく頭からずぶ濡れになり、手にしていた本もびっしょびしょだ。
 もうこのままでは読めないであろう本を持ち上げて空しく眺める。一瞬、脳裏によぎる『水難』の文字。
 しかし、こんな水の気のないところで水難など普通気にはかけない。どう考えても不自然な展開だ。
(これは……)
 スプリンクラーの誤作動とか、木の葉が詰まって堰き止められていた雨どいが決壊して飛び出してきたとか、そんなものではない。水の塊が、明らかに真人めがけて頭上から降ってきた。
 ――要するに、何者かがバケツか何かで、真人を狙ってぶちまけたということだ。
(こんな事をするのは……一人しかいませんね)
 通りかかったオデット・オディール(おでっと・おでぃーる)に怪訝がられつつ心配されたのを『心配ご無用』とできるだけスマートに返し、真人は歩き出した。
 捕まえて説教するために。


「わーっ、なんでばれてんだよ!? 占いのおかげでバレないんじゃなかったのかよ!?」
 水をぶちまけてすぐに現場から逃走したはずなのに、自分を真っ直ぐ追ってきた濡れ鼠の真人を見て、トーマは慌てふためいた。
 ……そもそも、校内の水辺でも何でもない場所で大量の水が降ってくることを、単なる「水難」で納得してもらえるどうか、という話だが。
「どうすんだよ……ってアイシス!? アイシスいないよっ!?」
 こうなることを見越して、アイシスはとっくに一人逃げ出していた。

「あ、あのっ、だからそのっ、占いってヤツが本当か試しただけだよーっ!!」


 ――そこからは、お定まりの説教コース。


『トーマのイタズラの結果、これですけど結果的には占いが当たったという事でしょうか?
凄く広い視野で見ると、当たった事になるんでしょうか……?

(……オイラの運勢外れてるよな〜)
(ま、一日面白ければOKだと思うわよ)

**************

●委員Eによるチェック●
 占いの内容を知っている第三者による運勢操作は運勢のみで回避可能かどうか、これは、興味深い論題だ。
 が……我が委員会の活動を「ヒマな」とか、委員会の名前を「知らない名前」とか……
 気分良くない! よくないぞおおおおおおおおおお
(↑ここでコメントの筆は途切れており、以下別人の筆跡)
 委員E乱心のため部室備品(椅子)にて同人を強制終了。委員Aにより本件のチェック終了、統計へ回して可。
 名前が知られていないのは隠密活動のためって言ってなかったっけ?