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パラミタ・ビューティー・コンテスト2

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パラミタ・ビューティー・コンテスト2

リアクション

 

緋王輝夜

 
 
『さあ、次はエントリーナンバー14番、緋王 輝夜(ひおう・かぐや)さん……』
「みんなー、ぶっ飛んでるかーい!!」
 紹介が終わらないうちに、爆音を響かせて緋王輝夜が「Blitzschlag」でステージに飛び込んできた。
 激しいタイヤのブレーキ音を響かせながら、機晶バイクを180度ターンさせて止める。
「敵襲か!?」
 思わず立ちあがったコア・ハーティオンが、後ろにいた皇彼方に席に引き戻される。
「意外と小柄なんですね」
 乗っているバイクの大きさと比べて、コハク・ソーロッドが言った。小柄な緋王輝夜と比べると、機晶バイクはまさにモンスターマシンだ。
「細くて長い脚ですねえ。あっ、コハクさんはあまりじろじろと見てはいけませんですよ」
 ほぼ美脚評論家と化しているベアトリーチェ・アイブリンガーが、ちょっと眼鏡の位置をなおしながら緋王輝夜の脚を観察した。
「みんな、熱くなろうじゃん!」
 ピョンとバイクの座席に足をかけて大きくジャンプすると、緋王輝夜がステージに飛び降りた。同時に、機晶バイクが非物質化して忽然と消え去った。
「さあ、今宵のあたしの観客は誰だい?」
 両手を繋いだ鎖をジャラジャラと言わせながら、緋王輝夜が花道を怪しいステップで進んで行った。
 もう、この辺は、エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)を捜すための資金稼ぎでやっているストリートライブが完全に板についてきているので、いつも通りの段取りといった感じだ。
 黒い袖無しのブラウスのボタンを下半分外してへそのあたりをチラ見せしながら、赤いチェックのミニスカートのベルトはバックルを外してなんとも危うい感じをちょいエロでかもしだしている。胸元は真紅のタイで飾り、長い黒髪は高い位置で大きくリボンで結び、ポニーテールにして鞭のように流している。顔に走った二本の傷跡さえも、ロッカーの勲章のように輝いていた。
 全体的に赤と黒で統一しているが、左右非対称のデザインは不思議とスタイリッシュだ。右腕には、指先のでた真っ赤なアームロングが、二の腕の部分で二本の革ベルトで止められている。黒いテープを巻きつけた左腕は、フラワシをまとわりつかせているせいか、朧に霞んで見えた。インナーの赤いチェックのアンダーシャツは、裾の左側がカットされて右側だけが装飾的にスカートの上に出されている。スカートの右側には、同じ柄のパネルがアクセントとして取りつけてあった。黒革のブーツを履いた両足は、左脚は赤黒縞のストッキングだが、右脚はそれが足首に行くに従ってぼろぼろに割かれており、そのままずり落ちた赤いソックスの中へと消えていた。
「ちょっと怖いですわ」
 ユーリカ・アスゲージが非不未予異無亡病近遠にひっつく。
「ロックというものは、パワーだけはあるようだが……」
 それは評価しつつも、決して気品があるという感じではないとイグナ・スプリントが戸惑いの表情を浮かべた。
「あまり、アルティアの趣味には合いませんですわね」
 アルティア・シールアムも、これはちょっとなじめないらしい。彼女自身歌を歌うが、これはさすがにジャンルが違いすぎる。
 花道の突端で、緋王輝夜が腰に手を当てて前屈みになって会場に睨みを利かせた。
「うむ。さっきのお嬢さんとは、また違った趣があるであります」
 しっかりと緋王輝夜の後ろ姿に注目しながら、大洞剛太郎が言った。
「みんな、あたしについてくるかい?」
「ついていくッス!」
 いきなり背後のアサシンたちに叫ばれて、源鉄心がびっくりする。どれだけ熱狂しやすいのだろう、こいつらは。
 気がつくと、いつの間にかアキラ・セイルーンがアサシンたちに混ざって気勢をあげていた。
「はいはい。席に戻るのじゃ」
 それに気づいたルシェイメア・フローズンが回収に来る。
 観客たちの反応に満足した緋王輝夜が、ターンして花道を戻る。再びステージに立つと、緋王輝夜がスタンドマイクを手にした。
「やるぜ、『THNDER STORM!』。聞きな!」
 大音響で、ロックのビートが鳴り響いた。
 スタンドマイクを蹴りあげて掲げ持った緋王輝夜が、ポニーテールを振り回してシャウトする。
 
FLYNG TO BURN OUT
 この世の全てを飛び越えて
 己の常識を打ち砕けば!
 加速増して走りゆく先に現れる
 限界の壁がそびえ立つ
 SO FAR AWAY
 届かぬ場所へいつしか
 永遠さえも貫く速度で
 
 TURNING TO RED THE SKY
 支配されていく宵闇を
 一筋光る稲光が
 未だ満ち足りぬその生き様ならば
 届きはしないあの高みへ
 奮い立つのならば、今
 膝を折るときはまだ早すぎると
 
 輝け! THNDER STORM!
 夜空が割れる 光、刃、輝き ああ地を裂く
 吼えろ!THNDER STORM!
 吹きすさぶ風 轟く雷鳴よ あぁ弾け飛べ
 猛き嵐よ 光る速さで翔けろ
 FINAL THNDER STORM!!

 
 歌が終わると同時に照明が落ち、機晶バイクの音が鳴り響いた。再び照明がつくと、ステージは空っぽになっていた。
『さあ、熱狂のステージでしたが、審査員の方々の評価はいかがでしょうか』
『ステージの熱気が心地好いですわね。評価しますわ』
 エリシア・ボックもノリノリだったようだ。
『えっ? す、すいませんー。耳がまだよく聞こえなくてえ』
 大音響のスピーカーのそばにいて耳をやられた不動煙が、まだキーンとする耳をしきりに叩きながら答えた。