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夏の終わりのフェスティバル

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第三章 最強ケモ耳決定戦!!


 行列に並ぶこと15分。源 鉄心(みなもと・てっしん)は、ようやくロシアンカフェ店内へと案内された。
「「「お帰りなさいませ、ご主人様♪」」」
 ホールスタッフの声が揃った。鉄心は即席で作られたらしいお一人様席に案内された。
 鉄心はあまり混んでいない時間に様子を見に行こうとしたが、午前中にしてこの人気である。
 むしろもう少し遅い時間に来た方がとよかったか、と鉄心は思ったが、案外今が一番マシな時間帯なのかもしれない、と思い直す。
「お帰りなさいませ、ですの」
 ネコ耳をつけたイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が水とメニューを運んできた。
 しかし、イコナはどことなく悲しそうな顔つきで、ネコ耳もしゅんと垂れたように見える。
「どうした? 何かあったのか?」
「ティーがよそよそしくて、寂しかったですの」
 イコナは、一緒にカフェでアルバイトをしているティー・ティー(てぃー・てぃー)の名を上げた。
「取りあえず、ティーを呼んできてもらえるか?」


 * * *


 開店してまもなくのことである。ティーは衝撃の事実に、身を震わせていた。

 ティーが装着しているのは、ウサ耳である。
 対して、ホール内に見えるケモ耳は、ネコ、ネコ、イヌ、ネコ、イヌ、ネコ、ウサギ、ネコ、ネコ…………。
 圧倒的な、ネコ耳の数である。

「や、奴ら本気ですね……!!」
 何やら、それがティーの闘争心に火をつけたらしい。
 コンビとして一緒にいるイコナがネコ耳であるというのが、理由だ。
「何がですの……?」
 ティーの異様な気配に、イコナがおどおどとしながら問いかける。
「コンビとはいえ、二人以上となれば差がつくのです。
 いわば、野生と同じ――食うか食われるかの、非情な世界なのです……うさ」
 ティーは突如として謎理論を展開し始めた。
「きっと今に逆転してみせます――! 猫さんに負けないよう、仲間を増やすうさ!」


 そう宣言したティーが真っ先に狙ったのは、まだケモ耳をつけていない人たちだった。
 ちょうど裏から出てきた遠藤 寿子(えんどう・ひさこ)アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)の前に、ティーは立ちはだかった。
「アイリさんはちょっと分からないけど、寿子さんは魔法少女バージョンが兎っぽいですよね。
 というわけで、お二人とも仲良くうさぎ派閥にご案内ですうさ〜♪」
 ぽす、と二人の頭に被せられるウサ耳。
「えっ、ええっ!? ウサ耳ですか〜!?」
「なかなか似合っていると思います」
 焦る寿子と何かに納得するアイリを尻目に、ティーは次なる獲物を捜し始めた。
 こうして、もともとケモ耳をつけていなかった人たちは、ほとんどウサ耳をつけられてしまった。


「……さっきより、ウサ耳の数が増えてますね」
 グリーンのウィッグとカラーコンタクトに、ブルーのネコ耳と尻尾。
 富永 佐那(とみなが・さな)こと海音シャにゃんは、エレナ・リューリク(えれな・りゅーりく)に耳打ちをした。
「そうですね。最初は、私とティーさんくらいしかウサ耳はいなかったはずですけれど……」
 そう答えて、エレナはぐるりと辺りを見回した。
 まさにその瞬間、エレナの目にはティーにウサ耳をつけられるルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)の姿が映った。
「ルシェンさんまで……!」
 二人の視線に気付いたのか、ルシェンはカメラを手にしたままエレナたちの方へと歩いてきた。
「迂闊だったわ。あさにゃんの撮影にかまけて、背後から近付くウサ耳への対処が遅れて――」

 ――あさにゃん。
 ルシェンの口からその名が出た瞬間、ティーとルシェン、シャにゃんとエレナの四人は、同時に榊 朝斗(さかき・あさと)の方を向いた。
「……ん?」
 カウンターへと向かっていたあさにゃんが気付いた時には、既に遅し。
 そこから先の所業は、まさに神業としか言いようがなかった。
 ルシェンがスタッフ用通用口にあさにゃんを連れ出す。エレナが簡易更衣室へと引きずり込む。
 簡易更衣室から出てきたヴィクトリア朝のメイド服を着たあさにゃんに、ティーがウサ耳をつける。
「『伝説の美少女ウサ耳メイド』あさぴょんです!」
 シャにゃんが声を張り上げると、そこここのテーブルから歓声が上がった。
「私も負けていられないですね」
 ライバル心を燃やしたように、シャにゃんはそう呟いた。
「Здравствуй☆ Добро пожаловать☆」
 さすがはコスプレイヤーと言ったところか、ロシアンカフェにいるロシア人のハーフだからか。
 客から熱い視線を送られつつ、シャにゃんはホールへと出て行った。