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夏の終わりのフェスティバル

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夏の終わりのフェスティバル
夏の終わりのフェスティバル 夏の終わりのフェスティバル

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 ちょうどその頃商店街に近い区画にいたジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、
 キロスたちの騒動のことなど何も知らず、フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)と共にぶらぶらと店や露店を覗いていた。
「ふむ、いろいろと珍しいものが出ているようだな」
 ジェイコブは国軍の用事があり海京へ訪れた。公務を終えて帰る時に休暇を貰い、フィリシアと一緒に祭りを回ることにしたのである。
「そ、そうですわね……」
 フィリシアにとって今回の休暇は、願ってもいない機会だった。
 長年ジェイコブに思いを寄せているフィリシアは、この祭りをきっかけに今度こそ告白を――と、決意する。
 そんなフィリシアの想いなどつゆ知らず、ジェイコブは露店の飴細工や射的を物珍しそうに眺めていた。
「ん? 行列ができている店があるな。何の店だ?」
 ジェイコブが目を止めたのは、甘味処『わだつみ』だった。
 店の前にある幟には、「イーストエリアフェスティバル限定ソフトクリーム!」と書かれていて、数十人単位の行列ができている。
「『味は食べてみてからのお楽しみ★』――か。なかなか興味深いな」
 そんなジェイコブを見詰めるフィリシア。この甘味処で休憩をしながら、告白……なんて、どうだろうか。
 今度こそ、思いを告げたい。拒否されたらどうしよう。でも、今度という今度は――!
「ん……どうした? 熱でもあるのか?」
 隣を歩くフィリシアの顔が赤いことに気付いたジェイコブは、そう言ってフィリシアの顔を覗き込んだ。
「そ、それは、いえ、大丈夫ですわ!」
 しどろもどろになったフィリシアは、思わずジェイコブの手を取って駆け出した。
「おいおい、何だ?」
 今のフィリシアには、ジェイコブの声も上の空だ。走り出してしまったけれど、どうしよう。
 どこか、どこか入れそうな喫茶店は……!
 フィリシアの目に、一軒のカフェが目に留まった。迷わずフィリシアはその店に駆け込んだ。

「「「お帰りなさいませ、ご主人様〜♪」」」

 しかし、フィリシアが駆け込んだのは絶賛メイドデー開催中のロシアンカフェだった。


「ロシア系のカフェか、珍しいな」
 とりあえずテーブルについた後、ジェイコブはメニューを見ながら呟いた。
 二人のテーブルへと来たのは、ウサ耳メイド服姿の館下 鈴蘭(たてした・すずらん)霧羽 沙霧(きりゅう・さぎり)だ。
 午前中に行われたケモ耳決定戦にてウサ耳をつけられたままだ。
 鈴蘭の髪はお団子に結われていて、狭霧は完璧にメイクをして女装している。
「何になさいますか、ご主人様」
 狭霧が注文をとりながら、鈴蘭はお冷とお絞りをジェイコブたちの前に出した。
「そうだな……では、このボルシチとピロシキのセットにしよう。フィルはどうする?」
「え? え、ええ……同じものにしますわ」
「かしこまりました」

 狭霧と鈴蘭はカウンターへと戻っていきながら、目配せをする。
「なんだか元気がなかったね」
「そうね……何かあったのかしら」
 鈴蘭が困ったようにうーん、と唸る。そこにちょうどセラ・ナイチンゲール(せら・ないちんげーる)が歩いてきた。
「どうしたの?」
「セラちゃん、4番テーブルのお客さんなんだけど、なんだか元気がないみたいで……」
 鈴蘭が事情を説明していると、キッチンにいたヴェロニカ・シュルツ(べろにか・しゅるつ)もやってきた。
 四人は一旦スタッフ用通用口に移動し、口早に話を続ける。
「――元気のないお客様を元気づけるのも、私たちの仕事じゃないかな」
 鈴蘭たちから話を聞いたヴェロニカは、そう答える。
「私たちはあくまでもカフェで料理と休息の場所を提供しているわけですし、あまり深入りするのも悪いんじゃないかしら」
「普段のロシアンカフェだったらそうかもしれないけど……今日一日は、メイドデーだからさ。
 お客様を元気づけるのも一つの役目かなって思ったんだけど――」
 セラとヴェロニカ、双方の意見を聞いていた鈴蘭は二人の顔を交互に見比べて小さく頷いた。
「そうしたら、私たちでできることをしてみるね!
 セラちゃんとヴェロニカちゃんは、責任者とキッチンリーダーの仕事に専念していて大丈夫!」

「あんなこといってたけど、本当に大丈夫なの?」
 セラとヴェロニカがそれぞれの仕事に戻った後、ホールに出た狭霧はこっそり鈴蘭に話しかける。
「やっぱりそのままっていうのは気になるし、放ってはおけないわ。
 私たちにできることは話を聞くことくらいかもしれないけど、少しでも元気になってもらえたら嬉しいじゃない」
「鈴蘭ちゃんがそう言うなら、応援するよ」
 狭霧はカウンターのボルシチとピロシキを受け取る。そのまま二人はジェイコブたちのテーブルへと向かった。
「お待たせ致しました♪ ボルシチとピロシキになります!」
 鈴蘭と狭霧は、料理を出しながらフィリシアの様子を窺った。
 フィリシアは未だに俯いて赤面し、悲しそうな表情をしている。
「お嬢様、熱いうちに召し上がって下さいね!」
「え? え、ええ」
 鈴蘭の言葉に、フィリシアは驚いたように顔を上げた。
「私たちメイドの役目は、ご主人様やお嬢様を元気づけるのも仕事ですから!
 何か上手くいかないことがあっても、きっと次こそは上手くいきますよ♪
 それではお嬢様、ご主人様。ごゆっくりどうぞ〜♪」
 鈴蘭の明るい声に励まされたのか、フィリシアはようやく小さく微笑んだ。