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リアクション
第六章 ごゆっくりとお寛ぎ下さい
イーストエリアフェスティバル最終日。
開店前のキッチンで、長谷川 真琴(はせがわ・まこと)はキッチン担当のスタッフ数人の前に立っていた。
数人のスタッフとは、主に謎料理を生み出しかけたスタッフたちである。
「昨日も言いましたが、私たちが犯した過ちの責はヴェロニカさんやセラさんが負う事になりますからね」
真琴の言葉に、しゅんと項垂れるスタッフたち。
「貴方たちを責めているわけではないんですよ。ただ、ヴェロニカさんたちを信用してお店を任せたマスターや、
ここに来る事を楽しみにしてる常連さんを悲しませたくないので、気を付けてほしいんです」
そう言って、真琴は優しく微笑んだ。
「さあ、皆さん。お客様に楽しんでいただけるように頑張っていきましょう」
真琴は「バイト代は一切頂きません」と言って、ボランティアでカフェの手伝いをしに来ている。
ヴェロニカのサブとして、昨日から手の回らないところを助けている真琴のおかげで、いくつの謎料理が阻止されたことだろうか。
「この店で働くのも久しぶりだね」
真琴の元に、パートナーのクリスチーナ・アーヴィン(くりすちーな・あーう゛ぃん)がやってきた。
クリスチーナの着ているカフェの制服は、少し胸の辺りがきつそうだ。
「まあ、真琴の場合何事にも本気で取り組むからねぇ。キッチンは任せようかな」
そう言い残してホールに向かうクリスチーナ。
「さあ、頑張っていくよ! いらっしゃいませ!」
開店して間もなくのロシアンカフェに、ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)とフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)が来店した。
ここ最近休む暇がなく、たまには骨休めをしようとこのロシアンカフェを訪れたのだった。
「マスターはいるか? ちょっと会いに来たんだが」
「申し訳ありませんが、マスターは今ロシアに帰っていて店におりません」
「そうか、いないのか」
ローグはふうん、と小さく頷いて了承する。
「まぁいいや、とりあえずおすすめメニューをもらおう」
「本日のオススメはブリヌイとロシアンティーのセットになります」
「それにしよう。フルーネはどうする?」
「じゃ、ボクもそれをもう一つ」
クリスチーナは二人の注文を取ると、カウンターへと戻っていった。
「よく考えたらドイツ系とかイタリア系の料理は好んで食べるけどロシア系は初めて食べるなぁ……。
というかロシア系のカフェって自体珍しいような気もする」
フルーネが店を見回しながら呟く。
「そうだな。話では昨日のこのカフェが満員で行列ができていたそうだが、今日はあまり混んでいないようだな」
「昨日一日はメイドデーだったらしいよ。でも、これくらいの方が、ゆっくりお茶できるんじゃないかなあ」
「ああ、だからメイド服姿の店員がいるのか」
ローグの視線の先には、ルシェンによってメイド服を着せられたままの、あさにゃんとアイビスの姿があった。
「そこの綺麗な緑色の髪をしたメイドさん、ちょっといいかしら」
ローグとフルーネのすぐ近くのテーブルについた宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、ちょうど近くを通りかかったアイビスに声をかけた。
「はい、何でしょう」
「あなたのお名前、お伺いしてよろしい?」
「えっ? ア、アイビスと申します」
アイビスは名前を訊かれるとは思っていなかったのか、驚きながらも答える。
「良いお名前ね。アイビスさん、オススメのメニューはあるかしら?」
「ええと、ブリヌイのティーセットなどになります」
「でしたら、そのティーセットを頂けるかしら。ジャムは米麹ジャムはいいわ。それと、カブリーシュカ」
「こちらアイスティーになります。お待たせ致しました」
注文を終えてすぐに、祥子の向かいに座る同人誌 静かな秘め事(どうじんし・しずかなひめごと)の元へあさにゃんがアイスティーを運んできた。
「って、メイドの格好をした美少年キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!」
途端にテンションの上がる静かな秘め事こと、静香。
「少年? 少女ではないのか?」
その隣に座ったヴェロニカ・バルトリ(べろにか・ばるとり)が、あさにゃんを見て首を捻る。
「何言ってるんですかこの子は正真正銘男の子ですよ私の目はごまかせませんわ!!」
静香は捲し立てると、ずいと身を乗り出した。
「ちょっときみ、お名前は? お店終わったあと暇?? 連絡先教えてもらっていい?!」
「え、ええと――」
質問攻めにする静香に、たじたじとするあさにゃん。
(ああお持ち帰りしたい今すぐお持ち帰りしたい!!)
静香の脳内ではお持ち帰りして何をするかまで妄想が膨らんでいたのだが、あさにゃんはそんなことは夢にも思わず。
「まずはお近づきに軽くお茶でも……お仕事終わったら喫茶店でもいきません?
あ、でもお店終わってからじゃもう遅いかしら……あまり遅くなると門限とか厳しいですわよね?」
矢継ぎ早に質問をする静香にあさにゃんが戸惑っていると、
「知己を増やそうとするのは良いことだが、静香のそれは俗にナンパと言われる範囲ではないか?
客商売の仕事の最中では迷惑になるであろうから、程々にな」
と、ようやくヴェロニカが静香を諌めた。
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