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リアクション
トーナメント、イコン戦の会場。
「あれは……イコン?」
最初にそれを見つけたのは、シフだった。
襲撃者を撃退し、機体は現在格納庫にて整備中である。
「全てのレーダーに、反応なし。……ステルス機ね」
そう口にしたのは、アリソン・バーグだ。
「どうしたのですか?」
臙脂色の未確認機が、会場の上空にいる。その姿を見て、アリソンは驚愕した。
「あれが稼働しているはずがない。だって、あの機体は開発中止に……」
息を飲む彼女の傍らには、トーマスの姿がある。
「……アメリカ製試作第二世代機ジャッジメント。ブレイン・マシン・インターフェイスを搭載し機体性能も極限まで追求。だが、適正のあるパイロットが見つかる見込みもなく、コストの採算も合わないことから開発中止。プロジェクトに関わった者は、フリーダムの開発チームに合流した」
拳を握りしめ、トーマスが駆け出した。
「トミー、どこへ行くの!?」
「俺が出る。さっきの襲撃のせいもあって、出れる機体は限られているんだ」
「しかし、無茶です。相手がどんな手を使ってくるかも分からないんですよ?」
シフは言った。
優秀なパイロットであるというトーマスだが、プログラム期間の彼を見た限り、天学のエース級パイロットには劣る。シフはそう判断していた。だが、彼女の機体は今、発進できる状態にはない。パワードスーツの迎撃に向かった他の機体もだ。
「このプログラムの間、何度も無様な姿を晒してきた。けどよ、俺はアメリカのトップパイロットだ。その真価、今発揮せず、いつ発揮しろって言うんだ?」
「トミー……」
「大体他国の契約者もいるって時に、試作運用の国家機密機の全てを曝け出すと思うか? 手加減してたんだよ。今までの態度は全部演技だ。騙されただろ?」
ぶっきらぼうに、トーマスが言い放つ。
「いいぜ。見せてやるよ、俺の本気をよ」
そのままシフたちを振り返ることなく、彼は出撃した。
臙脂色の機体――ジャッジメントと、フリーダムが対峙する。
迷うことなくビームサーベルを構え、フリーダムは直進した。臙脂色の機体が放つビームライフルを最小限の動きでかわしつつ、間合いを詰める。
「押してますね……」
一見すると、フリーダムが優勢に見えた。
敵は防戦一方。花弁のようなシールドを駆使し、フリーダムの斬撃をさばいている。
そしてついに、シールドが破壊された。
『もらった!』
トーマス機から発せられた声が聞こえてくる。だが、彼は気づいていなかった。
「トーマスさん、盾は壊れたわけではありません!」
シフが叫ぶも、もう遅かった。
花弁のようなシールドは、ビームリフレクターだ。それが空中に展開する。フリーダムの斬撃を回避したジャッジメントは、その一つに向けてビームライフルを照射。
それは反射され、威力が増幅されていく。
そして、
『……さようなら』
『……さようなら』
二重になった少女の声が響く。
フリーダムの真上から、反射されたビームが機体を捉える。
死角からやってくる攻撃を咄嗟にかわすことはできず、フリーダムに直撃。コックピットとジェネレーターを貫かれた機体は爆発した。
「トミー!!!」
アリソンが叫ぶ。
だが、無線からはノイズが聞こえてくるばかりだった。
臙脂色の機体は人材発掘プログラムの会場であるWCSをしばらく旋回したかと思うと、そのまま去っていった。