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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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【ぷりかる】幽霊夫婦の探し物

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第一章 幽霊になろう!


「んー……幽霊になったといっても余り変わりがないような気が……まだ死んでいないからかな」
 頭捜索のため霊体化した綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)は青白く透き通った自分の両手を不思議そうに見つめていた。ほんの少しこういうのも悪くないと思いながら。
「……そうですわね」
 同じように霊体化したアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)はうなずきながらハナエの方を見ていた。ハナエは事情を話す間、腕を組んだまま夫の傍らにいた。今は多少落ち着いて椅子に座っているが。
「幽霊だから死ぬ心配はないにしても頭を落としたというのは少しドジかなって思うけど、それを含めて好きなんだろうね」
 さゆみもハナエを見た。時々ヴァルドーに向ける視線が優しく愛しているのだと端から見ても分かる。
「……そうですわね。話す心当たりにも愚痴というかお惚気が混じっていましたものね」
 ハナエは夫は自分がいないと何も出来ない人、自分の事を名前で呼んだのは死んだ時ぐらいだったとかずっと死んでからも夫の姿をハラハラしながら見守っていた事などを事情を話す節々に愚痴として洩らしていた。それでもどこか幸せそうだったのがアデリーヌには印象的だった。
「急いで探そう。きっと頭だけになって心細い思いをしているだろうし、亭主関白な御仁ほど寂しがり屋だと思うから」
「えぇ。まずは紛失地点から探しましょう。幽霊とはいえ、頭が簡単に分離するのは少し疑問ですけど」
 さゆみと少し疑問を抱くアデリーヌはすぐに頭探しを始めた。

「……またあの子達ですか。どうしていつも怒られる方向に行くんでしょうね? 幽霊化は楽しそうですけど」
 ホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)は、今回の事にため息をつきながらも好奇心はしっかりと生まれている。
「才能としか言いようがありませんね」
 ブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)はホリイの言葉にうなずいた。
「巻き込まれる方はたまらないがな。わし達は古城に向かい頭と知人の所在を確認しに行くぞ」
 夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)はこれからの事を話した。ハナエから旅行ルートを聞き出し、甚五郎達は最終目的地である古城に向かう事にした。そこに頭が到着しているかもしれない上に会う予定の知人が故人である事は確かだが、成仏しているかどうかまでは知らないと言うので。その際、キスミに幽体離脱クッキーの効果もきっち確認した。

 甚五郎の言葉に一番驚きを見せたのは
「えええええええええええ!!!!??? あのお城に行くんですか! 本当に行くんですか!?」
 ホリイだった。思い出すのは壮絶な清掃奮闘記。飛び交う黒光りのアイツと戦った思い出。叫ばずにはいられない。

「ホリイの気持ちも分かるが……」
 甚五郎は言葉を濁した。ホリイが苦手である事は知っているが、気になる事があるため確認せずにはいられない。
「頭の事もそうじゃが、それ以上に例の魔術師じゃな。ともかく今回はヒスミ達を怒らない方向で……ん? ブリジット?」
 甚五郎が言おうとしている事を察した草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が先回りして言い、いつの間にか霊体になって行動を起こしているブリジットを目で追っていた。ちなみに本日の羽純は、ヒスミ達を怖がらせないように髪型を変えてカラーコンタクトを装着している。しかし、甚五郎達と一緒なのであまり効果は無いかもしれないが。
「何でも結びつけるのは良くないとは思うが少し気になる事もあるしな。行く前に連絡でもしておくか」
 羽純に答えながら甚五郎も目でブリジットの様子を追っていた。
「……霊体で古城ですか」
 ホリイは重いため息をついた。
 そこに元気な二人の声が降りかかってきた。

「面白そうなことに参加したら面白いことが起こった!」
 天野 木枯(あまの・こがらし)は楽しそうに声を上げ、親睦会会場を見回していた。
「さすがパラミタですね。それにまた巻き込まれてしまいましたね、木枯さん」
 天野 稲穂(あまの・いなほ)は、幽霊夫婦と調理スペースで奮闘するキスミを見比べながら言った。双子が絡むと本当にろくな事が無いが、楽しめない事はない。
「そうだねぇ、ここで会ったのも何かの縁、お話してこようっと」
「そうですね。あ、捜索に行く人達ですよ」
 木枯はハナエの話し相手になるべく動き始め、稲穂は何やら計画を立てている捜索者達を発見した。

「ホリイさん達だねぇ。ヴァルドーさんの頭探し?」
 木枯はホリイに声をかけた。
「はい。ワタシ達は古城に行く事になりました。実はあの古城、一度訪れた事があるんですが、とても……」
 木枯達に気付いたホリイは、少し気が重そうに答えた。答えている間も黒光りのアイツが飛ぶ姿が思い浮かぶ。
「大丈夫ですか?」
 稲穂が心配そうに言葉をかけた。
「あ、はい。大丈夫です。甚五郎達と大掃除を手伝った事があって……。片付いているといいんですが」
 ホリイは沈んだ調子を元気に戻した。
「……頑張って下さい」
「戻ったら親睦会一緒に楽しもうねぇ」
 稲穂と木枯はホリイを励まし、見送った。
「はい。それでは後の事よろしくお願いします」
 ホリイは二人の励ましに元気を貰い、幽体離脱クッキーを食べて甚五郎達と共に古城へ向かった。通称Gの幽霊がいない事を祈って。
 ホリイが木枯達と話している間、ブリジットと羽純がキスミを驚かせ、甚五郎は同じく古城を訪れる予定を持つ者達と話したり、オルナに連絡したりブリジットと羽純の様子を見に行ったりしていた。

「急いでヴァルドーさんの頭を探そうか。無いと色々と困るからね」
 グィネヴィア・フェリシカへ挨拶代わりの薔薇を渡した後、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)エオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)とこれからの事を話していた。
「そうですね。まずはこの街周辺の植物から聞き込みをしてから霊体になりましょう。夫妻については当時の新聞で確認をしましょうか。ハナエさんはともかくヴァルドーさんについては何かあるかもしれません」
 エオリアはうなずいた。ヴァルドーの頭落下から普通に亡くなったとは思えず、何か事故か事件で亡くなった気がしていた。
「聞き込みは俺に任せてくれ」
 エースは笑顔で言った。
「あまり話し込まないで下さいよ。とりあえず、体の安全確保のため量を調節して交互に幽体離脱をしましょう。他の人に情報を伝達する必要もありますから」
 エオリアはため息を吐きながら念を押した。
「確かに……」
 エオリアの話にうなずいていたエースが何かを聞きつけたのか突然、自分達と同じように話し合いをしているグループへと行ってしまった。
「エース?」
 エオリアは慌ててエースの後を追った。
 辿り着いたのは古城探検の話をしている三人組の元だった。

「……ここであの古城の話を聞くとは」
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)は、以前探検した凄惨なごみ屋敷を思い出していた。ごみだけでなく幽霊もいるとは。
「これは行くしかないでありますよ!」
 葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は好奇心を含んだ元気良さでこれからの計画を立てる。壮絶なごみ屋敷が今どのような姿をしているのかワクワクで止まらない。再び葛城探検隊出動である。
「そうね。会いに行く相手がまだとどまっているかどうかも分からないと言うし、何より頭がある可能性も」
 コルセアは反対はしなかった。会う予定の相手を知っておく事はウルバス夫妻にとって必要な事であり、もしかしたら頭があるかもしれない。
「そうであります! その前にヒスミを捜すでありますよ!」
 吹雪はふと街中で騒ぎを起こしていると思われるヒスミの事を思い出した。
「そうね。また悪さをして他人に迷惑を掛けているはず」
 コルセアはため息をついた。ヴァルドーの頭や古城と同じぐらいヒスミを放置する事は出来ない。
「では、我が霊体になり、ヒスミを捜そう。体は頼む」
 イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)がヒスミ発見時の対応のため霊体になる事に。
「任せるであります」
 吹雪がイングラハムの入った袋を担いで歩き回る事に。袋に入れずというのは騒ぎになりかねないためだ。
「……ワタシ達の他にも古城に行く人がいるみたいね」
 コルセアが出発前に甚五郎の話が耳に入って来たのだ。

 そして、コルセアは、
「あなた達もあの古城に行くの?」
 甚五郎達に声をかけに行った。
「そうだが、おぬし達も行くのか?」
 オルナに連絡しようとしていた手を止めて甚五郎はうなずいた。
「えぇ、そのつもり。ついでにワタシ達の事も伝えておいてくれるとありがたいのだけど。ヒスミを見つけ、街の騒ぎを収め次第古城に向かうから」
「よし、伝えておこう」
 甚五郎はコルセアの返事を聞いた後、長々とオルナと話した後、ブリジットと羽純の所へ行った。
 コルセアは吹雪達の元に急いだ。

 コルセアが甚五郎と話している間。
「あの古城に行くと耳にしたのだけど」
 ヴァルドーの頭探しに行こうとしたエースが吹雪達の会話を聞きつけ、百合を片手に間に入って来た。
「はい。行くでありますよ!」
 吹雪はエースの挨拶代わりの百合を受け取りながら答えた。
「それじゃ、あそこにいる植物達の様子も見て来てくれないだろうか。いや、俺自身が行った方が……」
 エースは自ら手入れをした植物達の事を思い出し、様子を知りたくて吹雪達に声をかけたのだが、オルナの掃除下手を知っているので心配になって来た。
「エース、夫妻のお手伝いが最優先ですよ」
 エースを追って来たエオリアが呆れながら言った。エースの植物愛は知っているが、今回ばかりは優先させるわけにはいかない。
「それはそうなんだが、あの城の住人が彼女達を大切に世話をしているのか心配じゃないか」
 どうしても気になるエースは恋人を心配する表情でエオリアに訴えた。
「……それはそうですが、彼女にはしっかり者の友人もいますし心配無いはずですよ……分かりました。捜索を終えて時間があれば様子を見に行きましょう」
 エオリアはエースの訴えに対し、妥協案を出した。古城の主オルナにはササカという友人の部屋掃除をする雑貨屋経営者の親友の女性がいるのだ。
「では、我らが植物の様子を確認する必要は無くなったのだな」
 イングラハムが相談を終えたエース達に確認した。
「いや、様子は見ておいてくれ。行くつもりだが、どうなるか分からないからね。知らせてくれるのは、君達の用事が終わってからで構わないよ」
 エースは頼みは取り下げなかった。頭探しの人手は多いが、まだどうなるかは分からないので。エース達は老人には親切にがモットーなので気になりながらも植物の世話を先にはしない。
「了解であります!」
 吹雪はびしっと敬礼と共に答え、エースの頼みを引き受けた。
 エース達は、大量の幽体離脱クッキーを持って頭捜索に急いだ。その前にエオリアは自分達と同じように古城を気にしている舞花に気付き、話しかけた。

「戻って来たでありますか。すぐに古城に行くでありますよ! 我々には重大な任務がありますよ」
 吹雪は戻って来たコルセアに仰々しく言う。探検隊隊長となりつつある吹雪。
「重大な任務?」
 吹雪の大げさな表現にコルセアは聞き返した。
「エース達が先ほど我らに植物の確認を頼んで来たのだよ」
「……そう。とりあえず、急ぎましょう」
 イングラハムが吹雪に代わってコルセアに説明をした。
「葛城探検隊、いざ、凄惨なる魔物の巣窟へ」
 と、吹雪はこの上なく真剣な表情で。
「魔物の巣窟ってごみ屋敷でしょ。確かに魔物の如く凶悪なごみはあったけど。その前にヒスミよ」
 コルセアはため息をつきながらツッコミを入れた。
「さっそく霊体化を」
 イングラハムは霊体になった。
 吹雪とコルセアは実体のまま探検準備を整え、ヒスミの悪さを止め次第古城へ向かう事に。吹雪はイングラハムの肉体が入った袋をしっかりと担いでいた。

「さっさとクッキーを用意して行くとしようか。しかし、頭ってそうそう紛失するものか。もしかしたら何か事件にでも遭ったのかもしれないな。まさか幽霊になったから間接の付合が緩くなったとかだったりして。深刻なのかそうじゃないのか」
 ハナエから心当たりを聞き出した酒杜 陽一(さかもり・よういち)は、あまりにもおかしな落とし物が気になって仕方が無い。その上、話すハナエから危機感を感じられない。
「とりあえず、霊体化して肉体は空飛ぶ箒シーニュに運ばせようか。すぐに見つかるとは限らないし。しかし、古城も気になるな」
 そう言いながら陽一は、幽体離脱クッキーを取りに他の捜索者が準備をしている所にやって来た。

「本当にありがとう」
 ハナエは事情を話してから御神楽 陽太(みかぐら・ようた)の子孫の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)に礼を言った。舞花は、双子開催の親睦会に参加していたらいつの間にか捜索に行く事になってしまったのだ。
「いえ、これでも探し物はそれなりに得意だと思いますので安心して待っていて下さい」
 舞花はハナエを安心させるために笑顔で答えてから捜索の準備を始めた。

 幽体離脱クッキーの準備中、
「……まずは紛失に気付いた地点、ヴァイシャリーの街中を捜してから古城周辺を捜しましょうか。しかし、古城ですか。まさかここで耳にするとは」
 大いなるごみ屋敷での住人救出や清掃に参加した事がある舞花は少し気になっていた。古城自体に何か悪いものがあるのではないかと。何せ変死伝説なので。

 そこに同じように頭探しに加わる陽一が会話に入った。
「もしかして捜索か?」
「あ、はい。でも古城も気になるんですよ。以前、掃除と住人捜索のお手伝いをした事があるのでハナエさん達が会う予定の方が成仏していればと思うのですが、嫌な感じがするんです」
 舞花は答え、少しばかり気掛かりな事を話した。
「そうだね。住人が次々と変死したというから悪いものでもいるのかも。例の魔術師のようにたちの悪いものとか」
 陽一も舞花と同じように古城については多少気になっていた。何も無ければそれでいいのだが、もし何かあるようならウルバス夫妻を行かせる訳にはいかない。その悪いものの例として森汚染や石ばらまきの犯人を挙げた。
「はい。その気がするんですが」
 舞花はうなずいた。気にはなるが、ウルバス夫妻を放って置く事は出来ないので心配なのだ。

「……それは心配ありませんよ。葛城さん達が向かうそうです。僕達も捜索が解決次第様子を見に行くつもりです」
 舞花と陽一の話を聞いたエオリアが接触して来た。
「それなら安心ですね」
 舞花は少し安心していた。エオリア達や吹雪達もまた自分と同じようにあの古城については馴染みがあるので何かあればきちんと対処してくれるだろうと。
「そうか。何もなければいいが。古城でそんな事件が起き始めたのはいつ頃か夫妻の死因とか調べてみるか。捜索もあるからあまり時間は掛けられないだろうけど」
 陽一はウルバス夫妻の死因と古城での変死伝説の始まりを頭捜索と併せて調べる事に決めた。問題は時間だけ。
「夫妻の死因調査は引き受けますよ。ちょうど、調べようと思っていたところなので」
 エオリアが死因調査を引き受ける事を申し出た。元々調べるつもりであったので負担にはならない。
「そうだな。頼む」
 陽一は調査をエオリアに任せる事にした。
「はい。では」
 話し終わったエオリアは幽体離脱クッキーの準備をしているエースの所に戻って行った。
「古城については後で聞けばいいとして急いで捜索をしないといけませんね」
 心配事が一つ取り除かれたところで舞花は頭探しの方に話を戻した。不可思議な籠に『ヴァルドー・ウルバス氏の“頭”』と記した紙を入れて準備を整えた。
「行き詰まった時の用意か?」
 舞花の行動に陽一が一言。
「はい。聞き込みで発見出来れば、何も問題はありませんが。後は、肉体を賢狼とスペースゆるスターに守って貰って」
 舞花はうなずき手際良く準備を進める。あとはキスミの悪戯から肉体を守る準備だけ。
「肉体なら一緒に空飛ぶ箒にでも乗せたらいい。貨物席を装着すれば四人まで大丈夫だから。すぐにそれを確認出来るようにしておいた方がいいだろう」
 ここで陽一が合理的な案を出した。
「確かにそうですね」
 現実的な舞花は考え込む事無く陽一の案に乗った。幽霊相手の聞き込みがスムーズに行くとは考えられない。もしかしたら聞き込みの途中でクッキーの効果が切れたりする事も有り得るかもしれない。その時、わざわざ悪戯小僧がいる所に戻って霊体化するのは危険だ。勝手に不可思議な籠を開封されたりなど余計な騒ぎに巻き込まれる恐れがあるから。
「準備を整え次第、頭を探しに行こうか」
 陽一の空飛ぶ箒シーニュに二人の肉体を乗せ、特戦隊に運ばせた。不可思議な籠と予備のクッキーも特戦隊に任せた。