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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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第7章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story5

 男子の部屋では、刀真が小型カメラに記録された実戦の様子を、シャンバラ電機のノートパソコンで編集している。
「今後の勉強のための資料を作るために、音声や映像をスムーズに取り込めるよう設定をしておこう。後は映像を見ている校長たちのコメントや教えを入れておけば完璧だな」
 その頃、月夜と玉藻は…。
 終夏たちに同行し、レストラン内にいた。
「玉ちゃん、美味しそうなデザートがあるね」
 休憩する時のために、参考にしようと客のテーブルをちらちら見ている。
「カフェのほうがよいのでは?」
「うん、どっちかでスイーツ食べようね」
 はしゃいでいる玉藻たちだったが、刀真はそれどころじゃなかった。
「俺も何か魔道具が使えると良いんだけど、剣士に使える魔道具は無いからなぁ。片手のスペースをあけなきゃいけないし…。2人とも楽しそうだな…。えっと、これって男子部屋のほうじゃないのか?」
 楽しげな様子なのは問題ない。
 そこから先に、見てはならないものが映っている。
 見覚えのある室内に、“もしかして…”と画面を凝視した。
 自分のトランクケースが開けられてしまっているのだ。
 部屋で目を覚ました月夜が、こっそり刀真の財布を持ち去ってしまったのだ。
 現在の画面を見てみると、テイクアウト出来るクレープを1つ買って、わけあって食べている。
「くっそ〜、人の金で美味そうに食べやがって!風呂覗くぞ!あっ、うそ、嘘ですゴメンナサイ」
 月夜にバシバシ叩かれた頬の痛みの記憶が復活し、村で校長にヘンタイ扱いされたことを思い出した。
「…パソコンに向かって頑張ろう」
 “ホント、男の子って損だよな〜。”
 自分の財布の中が、月夜と玉藻の遊び代に化けてしまっている。
 パートナーに財布を取られたことを訴えても、他の女子から“それがなにか?”みたいな扱いを受けそうだ。
 シクシクと泣きながら内勤に勤しむ。



 レストラン内では早くも乱闘が騒ぎが起こっている。
「オレ、ミュージシャンになるんだとか、いつまでいってるの?ろくに稼がないくせに、ばっかじゃないの!」
「うるせー!お前なんか、へたっぴな裁縫で生きていけると思ってんのかよっ」
「なんだとこのヤローッ!」
 口げんかしていた二組のカップルが暴力沙汰まで発展してしまった。
「チャラチャラしやがって、ムカツクんだよっ」
 彼氏の顔に熱々の茶をぶっかけ、ハイヒールで蹴り飛ばす。
「このバカチャラ。シネ、シンでしまぇえ!」
「ケンカ?それと魔性の毒に…」
「アークソウルでその人の気配を感知出来ますから、悪霊に憑依はされていないみたいです」
「スーちゃん、花で解毒薬を作って!」
「2人ぶんでいんだよねー?」
 召喚されたスーは終夏の頼みに、足元から伸びた茎に花を咲かせた。
「あめとかジュースっぽいタイプもつくれるけど、どんなかんじがいいかなー」
「飴だと食べてもらうのが大変だから、花のジュースがいいね」
「わかったー!」
 スーは葉と茎で作ったポットに白い花を入れた。
 花は一見、砂粒のように見えるが、ポットの中でとろとろに溶けてたように、葉のグラスに注がれていく。
 終夏は空飛ぶ箒シーニュに乗って女の肩を掴み、花のドリンクを飲ませる。
「なにすんのよあんた!」
「とっても美味しい花のジュースだよ、飲んでみて」
「―…っ。…あ、あれ…。私…なんであんなに怒っていたのかしら」
「よかった、元に戻ったんだね。次は彼氏さんのほうを…」
「ちくしょう、このアマ。刻んでやるーっ」
 刃物を手にした男が、恋人に切りかかる。
「こらー、女の子になんてことするの」
 月夜が手にしている本で彼の頭を殴る。
「つ、月夜。本はそんなふうに使うものではない」
「だって女の人が怪我しちゃうかもしれなかったし…。角じゃないから大丈夫!」
「ほう、それならば問題ないな」
 手加減していたと分かり安心する。
「気絶しちゃってるね。…あ、起きたみたい」
 スーが作ったジュースを飲ませてやると、すぐに目を覚ました。
「なんだか気分が…」
「あれ?…私も眩暈が…」
 2人の顔か急に青ざめ、ふらふらとフローリングの上に倒れてしまった。
「―…憑依されていたせいで、精神が衰弱しているようだな。2人がかりで行えば、早く終わるだろう。ミリィ、一緒に治療しよう」
 ぐったりとしている女の隣に屈み、涼介はペンダントに触れて浄化の力を引き出す。
 ミリィは父親の向かい側に座り、ホーリーソウルの輝きを手に集中させる。
「癒しの光よ、傷付きしものに活力を与えよ」
 女の身体に手をかざすと、器にされていた彼女から邪気が吹き出る。
「顔色がよくなってきましたね。彼氏さんもほうを治療してあげましょう」
 2人が治療に集中していると…。
「―…お父様、気配の数が多くなっていますわ」
 視覚で確認出来る人数よりも、気配の数のほうが多いことに気づく。
「地球人を除いても気配が多いです」
「私も探してみます…っ。(この力を、擬似的に索敵や察知に使えないでしょうか…)」
 結和は哀切の章の力を、ごく弱く広く展開してみるが…。
 悲鳴もなにも聞こえなかった。
「(では、裁きの章を…っ)」
 さきほどと同じように試してみるが、敵を発見するようなことまでには至らなかった。
 位置を的確に把握するものと、視覚感知能力があるものがないと厳しいようだ。
「だいぶ精神力を消耗してしまいましたね…」
 結和は呼吸を整え、聖霊の力で精神力の回復に専念する。
「休んでいてください、私がグラッジを誘い出します」
「目に見えない気配は3つです。気をつけてください」
「―…はい。ここで暴れられてしまったら、パニックになりませんからね」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は悪霊を誘い出す囮になろうと店内を歩く。
「シアワセ、ナ…ヤツ。キタ…」
「アイツ、ワタシ…モラウ」
「ワタシ、ガ…モラウ。ヵ…カヵラダォオ…ョコセェエッ」
 グラッジたちは低く耳障りな声音で呻き、明日香を器にしようと身体へ入り込む。
「ぅうっ」
「オマエ…デティケ」
「ワタシ……ガ、ツカイ…タイ」
 先に入った悪霊が出て行くのを待とうと、他の2体が彼女の周りをうろつく。
「我は…射す……光の閃刃っ!」
 意思を持っていかれぬよう、肩腕に爪を立てて自分を保ちながら、明日香は光の刃で自らの身体を貫く。
 “ギゲェエエエッ!”
 中に潜む魔性が悲鳴を上げた。
 “ィタイィ…イタイィ…ィタイ……カラ、ォマェ、ツレテェイク。”
 魔法の痛みに怒り、明日香の中で爆発してしまい、飛散したグラッジは闇の霧となって身体から噴出す。
「ぁああぁあっ!!?」
「はわわ、明日香さん……っ」
 慌てて結和が駆け寄ろうとするが…。
「来ないで…ください。まだ…グラッジが近くにいるはずです…。うぶっ、…かはっ!」
 明日香は結和に来てはいけないと制止する。
 内部から痛めつけられてしまったせいで、血を吐いてしまった。
「どど、どうしましょうっ」
「あなたが一番近くにいるんだから、グラッジを祓って!」
「(……はっ、ここで私が慌ててどうするんですか。明日香さんを守らなくては!)」
 月夜の声で焦りの気持ちが消え、哀切の章を唱えた。
 章から発せられた光の波によって、器を求める邪悪な者たちを退かせる。
 グラッジたちは口汚く捨てセリフを残して去っていく。
「今…治療しますね」
 命のうねりで床に横たわる明日香のダメージを癒す。
「ありがとうございます」
「憑依されたばかりですから、早く治療出来ると思いますわ」
 ミリィは明日香の傍へ駆け寄り、精神を穢した邪気を浄化する。
「毒の影響がでるかもしれないから飲んでおいて」
「はい…、ふぅー…甘くて美味しいですね」
 終夏からスーが作った解毒ドリンクをもらう。
「エリザベートちゃんのリストには、アクセサリーショップの店主の様子もおかしくなってしまったとか…」
「もう動いて大丈夫なの?」
「すぐ回復してもらいましたから大丈夫です。急ぎましょう」
 明日香たちはレストランから出ると、宿屋の近くにあるショップへ向かう。



「フフッ。……あの口うるさい魔道書…、今頃……免許を一生懸命でしょうね」
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)の裏側の存在、ノアールは本来の身体の主である表と入れ替わったようだ。
「―…あれがなければ、この合宿に参加出来ないものね。ククク…、あの魔道書がいないうちに、せいぜい楽しませてもらうわ」
  いつも五月蝿い魔道書の免許は、出掛けに隠しておいたため、当分追って来れないだろう。
「あの子のほうは…まぁ適当に押し込めて置けば問題ないわね、未だに自分で出てくる方法知らないみたいだし」
 当然、町の風景や実戦の様子を見せる気もない。
 表側の彼女が学ぶ時間を奪い、くすくすと笑う。
「ま、コレで自由なわけだけど…。…たまには邪魔する側じゃなくこの授業に出てみるってのも面白いかもね」
 今回の相手は幸福な者を嫉む魔性らしく、どんなものが見れるか楽しみだ。
「ただまぁ…私のことばれると色々面倒そうよね…。コレは…ちょっと演技してみるのもまた一興かもね…ふふふふふ」
 他の者に表側でないことが知られでもしたら、絶対に警戒されるだろう。
 表側が話しているかのように、演技してやるしかない。
 ばれないためには外に出ないほうが確実なのだが、待機場でモニターをずっと眺めているのは性に合わない。
 外で調査するフリでもしようと、町中をふらつく。
「あれはイルミンスールの…。ふふっ、ちょうどいいわ。よいものが見られそう…」
 校長の伴侶である明日香の姿を発見し、後をつけていく。
「アクセサリーショップ?店員と何か話してるわね…」
 ノアールも店内に入り、背を向けて会話を聞く。
「すみません、お揃いのアクセサリーを買いたいんですけど。何かお勧めはありますか?」
「お友達とお揃いのものがよろしいのですか?」
「いえ、結婚相手とです。あ、相手といっても女の子ですけどね」
「左様でございますか……。………ウザイわ…」
「ぇ…?」
 店員の舌打ちを耳にし、明日香は聞き違いだろうかと首を傾げる。
「あんたみたいなヤツに売るモンなんてないの。ふぅ〜」
 イラついた女店員はタバコを吸い始め、カウンターに酒瓶を置いて飲む。
「あの店長…、アクセサリーを作ってみたんですけど。どうでしょうか…」
「フンッ、ゴミ以下」
 下っ端の店員が作ったものを床に放り投げてしまった。
「もっとマシなの作れないわけ?この無能が!」
「―…も、もうしわけありません店長っ」
 少女は殴られながらも必死に謝る。
「ワタシが作るものって、やっぱりどれもゴミなんですね…うぅ…。もぅ、手首を切ってしまうしか!」
「そこまでしなくっても!」
 月夜がカッターを奪い取り、リストカットを止める。
「この子も毒にやられているはずよ、治してあげて」
「分かった、スーちゃん。花のドリンクを作ってくれる?」
「いっぱい作るのー?」
「そうだね、いくつかあるといいかも」
「おりりん、つかれてきてるみたいだから、きゅうけーするかかいふくしたほうがいいよー?」
「じゃあスーちゃんが作ってくれた飴を食べようかな」
 精神力を回復しようとスーが作った苺ドロップを食べる。
「その人に飲ませてあげて、月夜さん」
「これを全部飲ませるのね」
「月夜、棚が倒れてくるぞ」
「えっ?きゃあぁああーっ!!」
「フンッ、止むを得まい」
 玉藻はファイアストームを放ち、倒れかかる棚を燃やして破壊した。
 ほっとするのも束の間、カウンターの上にあるペン立てが、床に座り込む下っ端の店員の頭を直撃した。
「大丈夫?ケガとかしてない?」
「いいんです、ワタシのことはほっといて。こうなったらこのペンで…」
 取られたカッターの変わりに、それで自殺ようと心臓に突き立てようとする。
「やめてっ」
 それを月夜が取り上げる。
「返してください。なにもかも上手くいかなくって、もう…この先…生きていても何もいいことないんですから」
「そんなことないわ。さぁこれを飲んで」
 月夜が無理やりドリンクを飲ませる。
「ぅんぐ、…むっ」
「―…気分はどう?」
「ぁ……ワタシ…なんで死のうとしたの……」
「正気に戻ったみたいね」
「そのゴミと一緒にあんたもどっかいってくんない?」
 店長のほうは相変わらずタバコをふかして酒をかっくらっている。
「ならば貴様の持っているそれらを燃やし尽くしてやろう」
 毒の影響とはいえ、月夜にまで暴言を吐く女の態度に、さすにがイラッときた玉藻はタバコと酒を奪った。
「あんた何すんのよ!」
「えぇいバカ者。こんなもの、店に置いておくなっ」
 店の外へ放り投げ、ファイアストームで焼き払った。
「店長さん、お酒はないけど。美味しい飲み物があるよ、どうぞ」
 終夏は邪気のない笑みでにこにこと微笑みかけ、葉で作られたグラスを渡す。
「気が利くじゃないの、あんた。……ん。……っ!?」
 いっきに飲み干した店長は足元をふらつかせ、床に倒れてしまった。
「きゃーーっ!?店長!!…いったい、何を飲ませたんですかっ」
「月夜さんがあなたに飲ませたのと同じものだよ。心配しなくても、店長さんは時期に目を覚ますよ」
「ミリィは精神の穢れを浄化してくれるかな」
「はい、お父様」
「私は呪いのほうを解除しよう。そこのあなた、こっちへ来てくれないか?」
「ワ、ワタシですか?」
「立て続けによくないことが起こっているんだったな?」
「はい…」
 言ったような…言わなかったような…、曖昧な記憶しかない。
 毒のせいで酷くネガティブになっていた頃、具体的にどんなことかまでは覚えていないが、とにかく不幸な出来事ばかりな日々だったのは覚えている。
「不幸があなたに付きまとっているようだ。私がそれを取り除いてあげよう」
「そんなこと出来るんですか?」
「少し、目を閉じていてくれればすぐ終わる」
 涼介がそう告げると、下っ端店員は目を閉じた。
「全てを癒す光よ、傷付き苦しむものに再び立つ活力を」
 彼女にかけられている呪いが影となって、その身体の表面に現れた。
 ヘビのように不気味に顔や首の周りを這い、彼女の口の中へ入ろうとする。
 涼介はそれを許さず、ホーリーソウルで聖なる光で非物質体のヘビを捕らえる。
 影は光に引き剥がされるように、メリメリと音を立てて身体から抜け出ていく。
 それは“シン…デ、シマエバ、ヨカッタ…”と老婆が低く呟く声色で言い、光に浄化され消え去った。
 彼は続けて精神の穢れを祓うべく、再び祈りをこめる。
 穢れは黒い霧となって、溶けるように消えていった。
「お父様、店の中に…目に見えない者が存在するようです」
「店内にあるものに憑いているということだな」
「時計が並んでいるところから感じますわ」
「章で刺激を与えれば、正体を見せるはずです」
 明日香は哀切の章を唱え、時計が並べられている棚へ光の嵐を放つ。
 珊瑚の細工をあしらったデジタルの置時計が、かたかたと震えだしたかと思うと、他の棚を破壊しながら明日香たちのほうへ向かってきた。
「グリュックリッヒ ダムド!!」
 時計に憑依したグラッジが叫ぶ。
 店内にいる者全てめちゃめちゃにしてやろうと、カタクリズムでそこら辺のものを操作して投げる。
「玉ちゃん、いっぱい飛んでくるよ」
「月夜。私が唱え始めたら、すぐ詠唱を開始しろ」
 玉藻は品物をぶつけられながら、裁きの章を唱える。
 正体を現し、暴れまわる魔性を酸の雨で弱らせてやる。
 それに合わせて月夜と結和が、哀切の章による術を行使し器から祓った。
「魔性の気配はまだありますかー?」
「いえ、もう感じられません」
「逃げてしまったのですか…」
「あらあら、店の中がぐちゃぐちゃですね」
 明日香が店内を見回してみると、買い物は出来そうにないほどグラッジによって荒らされてしまった。



 すっかり正気に戻った店員に、結和は“この町で変わったことはないですか?”と訊ねた。
 店員は突然、人々の性格が変わってしまったり、不幸な出来事ばかり起こる運のない人が増えたと答える。
「そ…それは、同時に起こったことですか…?」
「はい。不幸続きの人が増えたのも同じ時期に増えてしまったかと…」
「なるほどですね…、ありがとうございます。(2種類の魔性は、互いにコンタクトをとったような仲…ということでしょうか)」
 結和は店員に礼を言い、カウンターから離れた。
 物陰から見ていたノワールは、面白いものが見えれたと小さく笑う。
「ン……クク…ッ、フフフッ。人が壊れているところを見るのって面白いわ。どうせなら重傷になるところを見たかったわね」
 大笑いしたい気持ちを必死に堪え、店内での騒動を見届けた。