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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 7

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第8章 リア充なんて大嫌い、リア充、地獄へ落ちろ! Story6

「こんなに綺麗な海なのに、変な魔性がうろつくなんてねー」
 セレンフィリティはオフショルダーTシャツにホットパンツ姿で、透き通った水色の海を眺め、なぜこんな危険な者がいるんだろうと言う。
 水着を着ていこうとしたらセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)に見つかり、怒られてしまった。
「ねー、海に被害者がいたりしないかしら?やっぱり水着を…」
「却下。そんなこと言って、泳ぐ気でしょう?教師から被害者が沈んだなんて、情報はもらってないわ」
 理由をつけて海に入ろうとする恋人の希望を、あっさりと打ち砕いた。
「入ろうとしたら、周りの人間が止めるでしょ…」
「ぅー…、分かったわよ」
「ふくれていないで、被害者を探しなさい。…このリストによると、大人だけじゃなくって子供とかもいるのね」
 セレアナは涼しげなサマーワンピース姿で叱り、コピーさせてもらったリストへ視線を落とした。
「本当に…のどかでキレイな場所ですね」
 レイカ・スオウ(れいか・すおう)はこんな場所に、毒で人を殺す者が潜んでいるのだろうかと呟く。
「(今のところ、宝石にそれらしい数の反応はありませんね)」
 同行している者の数をカウントせず、アークソウルの範囲内にかかる者を探す。
「海で普通に遊んでいる者たちもいるんだろうか?」
「グラキエス様、独りの方もいるようですが」
 エルデネストは辺りを見回し、ぽつんと寂しげな背中を向ける人々を発見する。
「アークソウルの反応はある…。中に魔性はないようだ」
 グラキエスは独りぼっちの者のに近づき、宝石の反応があるか確かめる。
 何やら膝を抱え、小枝で砂浜にカリカリと文字を書いているようだ。
「なんとも声をかけづらい雰囲気をかもしだしていますね」
「ただ話してみないと状況が分からない」
「主、まずは私が聞いてみましょう」
 凶暴化した者なら主の身が危ないと思い、アウレウスは小さな子供の傍へゆっくり近づく。
「ぼうや、どうして独りでこんなところにいるのだ?」
「―…はぁ〜…、おじさんに話してもどうにもならないもん」
「言ってみないと分からないであろう?」
「はぁ〜…だって人生がつまらなくなったんだもん」
「(重い…重過ぎる!)」
 年端もいかない子供が“人生”という言葉を口にし、空気がずっしりと重くなる。
「だから、どうやって死のうかなって考えてるんだ。うでを切ってもかんたんに死ねないし、くびつりしようとしたらおかーさんにとめられちゃうし」
「どう考えても止めるだろう」
「みんな…なんで死なせてくれないの?死んだほうが楽しいことがいっぱいだって聞いたし」
 子供は口の端を持ち上げて、ニタリと不気味に笑う。
「いったい誰がそのようなことを言ったのだ?」
「おばーちゃんとか、おねーちゃんみたいな声が聞こえたんだ。死ねばじゆうに空を飛べて、どこへでもいけるって」
「自殺した者に自由はないぞ」
「ウソ!だって、ぼくちゃんと聞いたもん。……そうだ…おぼえれちゃえばいいんだ」
 砂浜から立ち上がった子供は、溺死してやろうと海へ駆けていく。
「待て、早まるな!」
 子供の腕を掴んだアウレウスだったが…。
「やだよ、はなしておじちゃん」
 その手を幼い手が、ギリギリと握り締める。
「手、おっちゃうよ?」
「おまえ…違うな」
 光のない虚ろな目を凝視し、この子は器にされてしまったのだと確信した。
 グラキエスやセレンフィリティの探知範囲外で、グラッジが少年に入り込んでしまった。
「何か妙ですね…」
 離れているため2人の会話が聞き取りづらかったが、双方とも動こうとしない様子に違和感を感じ、レイカはゆっくりと近づいていく。
「気配の数が……足りない。その子の体はもう…、体を奪われてしまっています」
「やはりそうか」
 レイカの声にアウレウスはその手を振り払い、憑依体となった者から離れた。
「憑いた状態でなければ、そのような強い力はないはずであろうからな」
「クククッ、この体…。もうじき、死ぬぞ。この子供は、ただの彷徨う亡霊となるのさ。それとも、海で溺れ死ぬのが先かな?あははは!」
 悪霊は体の持ち主の意思を支配し、土気色に変色した顔でニタニタと笑った。
「年端もいかぬ子供をよくもっ」
 海へ接近しようとするグラッジを、スピアドラゴンの柄で浜辺へ追い立てる。
「ふぅん、オマエ…壊してやろうか」
「石化の魔法…!」
「アウレウス、一旦退がれ」
 グラキエスは祓魔の護符を憑依体に投げ、魔法を中断させる。
「オマエ、邪魔だな。石になってしまえ!」
 悪霊は体を操り、手の平から灰色の泥状のものを発した。
 それは螺旋状に渦を巻き、グラキエスに巻きつこうとする。
「―…っ」
 アークソウルに精神を集中させ、石化の魔法を弾き散らす。
「早く祓わなきゃ、あの子死んじゃうかも」
 海辺にいる仲間を呼ぼうと、セレンフィリティは発煙筒に点火した。



「マスター、岩場の向こうから煙が…」
「応援要請か?急ぐぞ、フレイ」
 ベルクたちはもくもくと立ち昇る煙を目印に向かう。
 そこでは悪霊に憑依された子供と、グラキエスたちが交戦していた。
「フレンディス、あの子供にグラッジが憑依しているわ!」
「了解いたしました…。あの様子からすると優しくしては、簡単に離れそうにありませぬ。少々、痛い目に遭うと思いますが…お覚悟を」
 セレンフィリティたちの様子からして、一刻の猶予もならないと判断した。
 浜辺に伸びる小波のごとく、光の波を砂の上を滑らせる。
 標的の足元へ到達させると、大波のように光を広げて憑依体を飲み込んだ。
 器の中へ侵食した祓魔の力によって、グラッジは憑く力を低下させてしまった。
「アト…モゥスコシ…」
 一旦、子供から離れはしたが、再び体を奪って殺してやろうと機会を狙う。
「ボウヤ。オイデ、オイデ」
「うん……いく…」
 子供はふらふらとグラッジの声が聞こえるほうへ歩いてしまう。
「ったく、諦めの悪いやつだな」
「ワタシハ、シナセテ…アゲタイ…ダケ。…ワタシ…ノ……ナカマモ…」
 老婆のような低い声色で言い、グラッジは仲間を招く。
「アウレウス、真隣を狙え」
 グラキエスは付きまとう悪霊にだけポイントを絞り、アウレウスに位置を教える。
「はい、主!」
 少年の真横ギリギリに、スピアドラゴンでグラッジを貫く。
 ライトブリンガーの物理攻撃は通らなかったが、その後の光輝魔法によるダメージが多少効いたらしく、グラッジは少年から手を離してしまった。
 その隙を見逃さず、セレンフィリティが救出する。
「カェセェエエッ」
 怒り狂ったグラッジが放つ、エンドレス・ナイトメアによる闇が背後へ押し寄せる。
「この子の命は、あなたのモノではありません」
 レイカは精神力をアークソウルにそそぎ込み、自らを主軸に光の球形を模る。
 闇は進入スピードを衰えさせ、大地の力によって緩和されていく。
「今のうちに早く治療を…っ」
「ありがとう。…セレアナ、精神の治療をしてあげて」
「たいぶ苦しそうね…」
 少年の肌の色が土気色から黒ずんだ色へ変色している。
「私だけだと時間がかかるから、手伝ってもらえる?」
「おやおや…これはかなり危険な状態ですね」
 セレアナとエルデネストは、ホーリーソウルの聖なる気を少年の身体へ送り込む。
「アウレウス、子供が暴れださないように押さえておいてください」
「うむ、分かった」
「はなして……なんで…死なせてくれないの」
「それは、おまえが生きなければいけないからだ」
 逃げ出そうともがく少年の体を押さえ込む。
 その体の肌はだんだんと裂けていき、血が流れ出る。
「(これは…毒によるものなか?)」
 腐敗毒の進行のせで、ところどころ血管が破裂し、体内に溢れた血液が皮膚を裂いてしまったのだ。
「綾瀬様、こちらです!」
「煙が上がったというのは、こっちの方向でよいのですね?」
 リトルフロイラインが“煙が見えます!”と騒ぐため、一度帰還させて再度召喚させ、その方角へ案内させた。
「あなたの連れている使い魔って、ポレヴィークかしら?」
「えぇ、そうです」
「この子、魔性の毒に侵されて危険な状態なのよ。解毒の薬草を出してもらいたいんだけど」
「分かりましたわ。…リトルフロイライン」
「お任せください、綾瀬様!」
 リトルフロイラインは足元からいくつもの蔓を伸ばす。
 そこから細長い草が生えていくと、蔓の先に白色がかった小さな実が成る。
 少女が小さく言葉を紡ぐと、実と葉は細かく分裂し、1粒の丸薬として合成された。
「腐敗毒の解除用に、濃縮しました!毒が侵食した場所が、魂という非物質の内部なので、このようなタイプのお薬にしたんです」
「1粒だけなのですね?」
「はい!飲みやすいように、1つにしておきました」
「飲ませてみますわ。ボウヤ、口を開けてくださいな」
 中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は生成したばかりの丸薬を少年に飲ませると、抵抗していた手足は徐々に大人しくなっていく。
「体内も止血しておいたんですが…その分、綾瀬様の精神力を多めにいただいてしまいました」
「構いませんわ。そのままでは物理的異常を起こしかねませんから。それも毒の影響でしたの?」
「そうです、かなり酷い状態でしたね。身体の裂け目は流血による物理的な影響ですので、魔法で治癒したほうがよいかと」
「私が治療するわ」
 セレアナが完全回復させてやり、裂けてしまった皮膚や肉の組織を治す。
「おや、呪いにまでかかっているようですね」
 呪術にかけられているか、グラキエスが強化したホーリーソウルで確かめる。
「そっちは出来ないから任せるわ。セレン、魔性の気配は?」
「まだいるわ。こっちに来みたいよ」
 抵抗力のない小さな生命を消そうとグラッジが迫る。
「ゾルゲンフライ、 ゲミュートリッヒ フリードリヒ、ラッチ フレーリヒ…ウンゲドゥルトーッ!(なにも不自由がない、ぬくぬくした平穏な生活でへらへら笑いやがって…イラつくんだよーっ!)」
「フレイ、近づけさせるな。対象の左斜め前方に1体、そこから右サイドに2体!」
 ベルクは不可視の悪霊の姿を見破り、グラッジたちの位置をフレンディスに教える。
「了解です、マスター」
 怨念の塊たちは聖なる光に流されるかのように後退していった。



「よくやった、魔性が離れていくぞ。…ぁー、海でなんか買ってやろうと思ったけど、時間なさそうだな」
「いえ…、村でマスターには素敵な贈り物をいただきましたし…」
 今は宿屋に置いてきているが、レッドスターネックレスをつけていた左手首に触れ、嬉しそうに尻尾を振る。
「まぁーその…なんだ。事件が片付いたら、土産物屋でも行くか」
「そ、そんな。あのような高価なものをいただいたばかりですし、いただけませぬ」
「俺が買うっていってんだから貰え!分かったな?」
「は……はいっ」
 リア充全開の空気をかもしだす2人に…。
 悪霊の手がぬぅ…っと忍び寄る。
「ちっ、また来やがったか」
 ベルクはそれを見逃さず、アークソウルで気配を探知し、フレアソウルの炎を纏いフレンディスを抱えて飛ぶ。
「マ…マスター!?」
 突然、お姫様抱っこされた彼女は、わたわたと慌てる。
「魔性がフレイに憑依しようとしやがったんだ」
「―……そ…そうでしたか。私は章を使う準備をいたしまする」
「ウンゲドゥルト…、グリュックリッヒ ダムドッ!」
「闇黒属性の魔法か」
 エンドレス・ナイトメアをかわし、フレンディスの術をぶつけるチャンスを作ってやろうと、隙を狙うべく対象を観察する。
「まっ、無きゃ無いで、作るまでだ。フレイ、狙え」
 岩影へ隠れようともアークソウルで位置を把握し、そこから出てくれば視界で姿をとらえられる。
 ホーリーソウルの光の気を、指先に集中させて光線を放つ。
 フレンディスはそれを目印変わりに、灰色の重力場でグラッチを包み、光の波の中へと沈めた。
「あいつ、逃げようとしてるぞ」
「もう、憑依する力もないでしょう。ですが、また戦うことになるでしょうね、マスター…」
 別の魔性が関与しているのならば、再び遭遇するのだろう。
 2人は逃走していく悪霊を見送った。
「消されなくて…本当によかったです…」
 すやすやと寝息をたてる子供の頭を、レイカは優しく撫でてやった