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屍の上の正義

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屍の上の正義

リアクション

「こちらパラスアテナ・セカンドです。遅れましたが、そちらの援護に入ります」
『! こちらウィンダム、助かるわ!』
『速いとこ頼むでー! まだ死にたない!』
「……この群れの意思を決定しているリーダー格のようなものを倒せばあるいは、と思っていましたがそれどころではありませんね」
「そうじゃのう。リーダー格のようなものが存在し、そいつを倒したとて、事態が好転するとも限らんしな。ジリ貧になろうとも、ここは維持するの先決じゃ」
「ともかく、この状況を脱した後で考えなくてはなりませんね。……行きます!」
 ブルースロートをフルカスタムしたイコン機パラスアテナ・セカンドに搭乗する、御凪 真人(みなぎ・まこと)名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が砲撃態勢に入る。
「まずはあのでかぶつを誕生させんことじゃ。全兵装安全解除っと」
「『レーザーマシンガン』、『ナパームランチャー』、『ウィッチクラフトキャノン』、『ミサイルポッド』、オールグリーン……全兵装射出!」
 搭載されている兵装のありったけを同時に発射。合体しようとしているスポーンの群れへと向かい、着弾と同時に豪快な爆発を巻き起こる。
 大量の煙幕があがり、その場に残ったイレイザー・スポーンは一つたりともいなかった。
「パラスアテナに異常はありますか?」
「久々のフルオープンじゃったからのう。火器系統が少しオーバーヒート気味じゃが、すぐに直るじゃろ」
「まだ戦えるということですね」
「ああ。じゃが少し前に出すぎじゃな。後退するのがよかろうて」
 後退しようとする真人たちパラスアテナ・セカンド。しかし、その両サイドからスポーンが何体か襲いくる。
『そうはさせない!』
『恩人には報いんとな!』
 それを泰輔と朋美が阻む。パラスアテナ・セカンドに近づくこともできずにスポーンは散っていった。
「危ないところ、ありがとうございます」
『いやぁごっつい火力でこっちも助かりましたわ』
『ボクたちだけじゃ大型スポーンになられていたかもしれないしね』
「真人、この者たちと協力したほうがいいんじゃないかの? そうすれば前線は少なからず任せられる、考える時間もできるじゃろう?」
「……そうですね。前を戦ってくれるイコンがいれば心強い」
『話しは聞かせてもらったで! 前線は任せや!』
『後方からの支援、お願いね!』
 急遽ではあるが泰輔、朋美、真人の三人が協力し合うことになった。
「お二人に当てないよう、気をつけなくてはなりませんね」
「そう言いつつ面で攻撃する気じゃろう?」
「ええ。点より線で、線より面で。パラスアテナ・セカンドならできるはずです」
 考える時間を手に入れた真人。無論考えるだけではなく、この戦線を維持するために二人と尽力するのだった。

「どこもかしこも大きなイコンとスポーンだらけだね。壮観壮観っ」
『そんなこと言って、あまり無茶はしないでくださいね?』
『さあ、いっこうー!』
 身に待とうパワードスーツを改良した宝貝・補陀落如意羽衣を身に纏い、更にその下のインナーにドール・ゴールド(どーる・ごーるど)を身に纏い、おまけに物部 九十九(もののべ・つくも)を憑依させた状態で、
 果てには【ナノマシン拡散】で拡散状態の蒼汁 いーとみー(あじゅーる・いーとみー)をスーツ内部に忍ばせた、とんでも状態で戦場を駆け回るのは風か嵐か鳴神 裁(なるかみ・さい)
「うじゃうじゃいるわいる! 小型スポーンがこんなにも!」
『どこから出てくるのでしょうか?』
『さあ? でもぶっとばせることには変わりないよ!』
「そうだね。ドール、お願い!」
『……無茶だけはしちゃだめですよ?』
 そう言いながらドールが『超人的肉体』を発動。それを受けた裁がいよいよ攻撃に打って出る。
「一撃でももらった、それで終わり。だから一撃ももらわないよ」
『さあー言ってみよう!』
 一度だけ立ち止まる裁。そして九十九と声を合わせる。
「『ボクは風、風(ボク)の動きを捉えきれる?』」
 それを皮切りに裁がスタートする。恐らくもう二度と止まることはない。
 一撃でももらえばその場で終わりなため、止まることができないのだ。そのため限界まで機動をあげて、一撃ももらわない。究極にシンプルな戦法。
「まだ気づいていないんだね? なら遠慮なくやらせてもらうよっ!」
 速すぎる裁に気づけもしないまま小型のスポーンがやられる。ようやく事態に気づいたスポーンが、裁に振り向く。
 が、既に裁の姿はなかった。どころか。
「もう後ろにいたりするんだよねっ」
 その言葉とほぼ同時に二体目のスポーンを撃墜。そのまま『迷彩塗装』で施した迷彩で相手から判別されにくい位置へ移動。
 『歴戦の立ち回り』と【陸上競技】を組み合わせ囲まれないように周りを駆け巡る。
 その進路上にいたスポーンが運良く裁に気づき攻撃を敢行。だが、その攻撃は空を切り、次の瞬間には。
『風を捕えることなんて、誰にもできはしないよ☆』
 憑依した九十九の言葉と共に、頭上に避けた裁によって上からその身を打ち砕かれていた。
 しかし、やられたスポーンに向かって一斉に他の小型スポーンが四方八方から迫り来る。
「うむ、反撃する息や良し! なーんてねっ」
 裁は6時の方向へ猛ダッシュ。敵の眼前まで行くとその身を急停止。思惑通りスポーンがそれに釣られて攻撃、進行も停止した。
 攻撃は裁にあたらず他のスポーンを巻き込む。
 逆に裁は12時の方向へ急発進し、同様に相手を幻惑させる。これで6時、12時方向から来るスポーンを潰す。
 すぐさま中央に戻ると対処しきれていない3時、9時の方向のスポーンがすぐそこまでやってくる。
「そのままおいで、もしかしたらボクを捕らえられるかもよ?」
 その場で新体操を行う裁。それが裁の『メンタルアサルト』とも知らず不用意に接近してくるスポーン。
 十分に近づいたことを確認し、新体操を行っているその状態から空へと高く飛ぶ。
 裁を見失ったスポーンはお互いに衝突しあい撃沈。上へと飛んだ裁はそのまま『ワイアクロー』を使ってその場から離れていた。
「一難さってまた一難、はいっ!」
 後ろからの攻撃を『行動予測』と【武術】で先読みしていた裁は振り返ることなくしゃがんで交わして、そのまま迎撃。
 しかし、相手をどれだけ倒しても決して止まらない裁。その姿は風すら置き去りにしようという勢いだった。

 何体ものイレイザー・スポーンが風に翻弄される中、その風に誘われるか如く戦場に生身で舞い降りたディーヴァ。
「あっちでは風が渦巻いてるのね」
 ゆっくりと歩くのはリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)。その動きはあくまでも緩く、また穏やかだった。
 しかしスポーンにそれが理解できるまでもない。無粋にもリカイン取り囲むのみだった。
「……私は本来、オペレーターでありたい。そう、だから今回もそうしようと思った」
 ゆっくりと喋るリカイン。その言葉など聞いてなどいないであろう、小型のスポーンたちが次々と集まってくる。
「でもね、やってみたいことがあったの。ずっとずっと前から、ディーヴァとして、ね」
 待ちきれず、イレイザー・スポーンたちがリカイン目掛けて一斉に飛び掛る。
 イコンならまだしもリカインは生身。小型のスポーン相手では分が悪いかに見えた。
「ずっと本気で使うことのできなかった私の叫び、聞いてくれる?」
 リカインが思い切り意気を吸い込む。そして紡がれる。
 
――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!

 神々ですら戦く、『咆哮』。
 神にすらあたいしないスポーンたちに阻むことなどできなかった。リカインの神をも揺るがす歌声の前に崩れ去るのみだった。
「……ありがとう、聴いてくれて。今度は私があなたたちに付き合ってあげる」
 すぐに沸いて出てきたスポーンを前に、【レゾナント・アームズ】を使用するリカイン。
 ほとんどイコンしかいない戦場で、歌姫・リカインが歌い踊る。
 今だけは、戦う歌姫として、戦うオペレーターとして、戦場に。

「他にも生身で戦ってる人がいるなんてね。いい歌、もっと近くで聞いていたかったな」
 リカインと同じくしてその身を戦場に晒すのは、緋柱 透乃(ひばしら・とうの)。パワードスーツもなにも装備していない正真正銘の生身。
「よく集まってくれたね。こっちもリーチが短いからね、助かるよ」
 透乃の周りに集まったの小型スポーン、中には中型のスポーンの姿もある。そして自身が言うように、彼女の攻撃に遠距離からという文字はない。
 透乃が仕掛けてこないのを見ると、小型のスポーンたちが行動を開始。我先にと群がる姿に、けれど透乃は顔色一つ変えない。いや。
 少しだけ、口元の端を吊上がらせていた。
「残念ながら、イコンだってぶっ飛ばせるんだよ! 私は!」
 相手の攻撃をミリ単位で横に交わして、そのまま右ストレートをぶち込む。
 攻撃を放ったのは生身の地球人。本来、その攻撃力はスポーンを壊すには値しないのかもしれない。
 しかし、攻撃を行った人物は緋柱 透乃その人である。その身に【煉身の声気】と【訃焼の蛇気】を身に纏い、幾多の戦場を生身で越えてきた。
「でも今、私はズルをしちゃった。おまえたちの攻撃の加速度分を利用して倒したんだから。それじゃ、もったいない!」
 【蹂躙飛行ブーツ】で中型スポーンに向かっていく。策などはなく、小細工無用。
 それをまるで恐れるかのように、透乃に攻撃を行う。しかし、透乃に回避する素振りはなかった。どころか透乃の振り上げられた拳が、相手の攻撃とぶつかり合う。
「その攻撃ごと、叩き潰すっ!」
 笑って、そう叫んだ。自身の攻撃の上からの攻撃に、イレイザー・スポーンはその頭部をその身にうずめて、二度と動くことはなかった。
「……さあ、存分に殴り合おうか!」
 彼女からあふれ出る自信が彼女の笑みに変わる。彼女はやってのけるだろう。全てのスポーンを叩き潰し、地に伏せることを。
「……始まったようですね」
「そうだね。ならこっちはこっちでやるとしよう」
 透乃のパートナーたちである緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)も行動を開始。
 泰宏が【聖邪龍ケイオスブレードドラゴン】に乗りながら、『プロボーク』を使ってスポーンたちの注意を引き付ける。
 案の定小型のスポーンの群れは泰宏に向かう。その隙を見逃す陽子ではない。
「私はまだ、強くなりたいのです」
 事前に使用していた『イヴィルアイ』で弱点を探っていた陽子。
 隙だらけとなったスポーンに【炎水龍イラプションブレードドラゴン】で間合いを詰めてから、
 発見した弱点へ【Hスネークアヴァターラ・チェーン】を叩き込む。
 隙と弱点をつかれたスポーンはすぐさま行動不能となるが、他のスポーンが陽子に向き直る。
「戦闘中に余所見はいけないよ?」
 陽子に気が向いたスポーンたちの隙を今度は泰宏がすかさず、『ランスバレスト』で串刺しにする。
 それに気づいたスポーンが再度泰宏に向き直る。これこそが陽子たちの策だった。
「注意が逸れている方が攻撃をする。単純で、侮りがたい、確実な戦法」
 【刃手の鎖】で残ったスポーンたちを全て薙ぎ払う。二人の見事な連携の前に、一矢報いることすらできずにぼろぼろと地へ落ちる小型のスポーンたち。
 その二人の前に中型のスポーンが現れる。
「……大きさが変わってもやることは一つ」
「おまえたちが気づく頃にはもう戦いは終わっているんだよ」
 泰宏が空を飛び、陽子が鎖で薙ぎ払い、反撃を陽子がかわし、泰宏が空から刺す。
 そして気づいたときにはその身は朽ち果てている。無論、この中型スポーンも例外ではないのだろう。