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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 8

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第2章 幸せが妬ましいッ Story2

「…バカ息子よ、大丈夫か?」
 湧き水場に突き落とされ、あちこち傷を負った緒方 太壱(おがた・たいち)を、林田 樹がヒールで癒す。
「お袋…ひでぇ、やっとかよ…」
「タイチも復活したし、わたしたちもどこで行動するか決めよう!不幸にさせる魔性と、毒を発する魔性がいるのね?」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)は太壱の方へ振り返り、確認するように聞く。
「あぁ、2種類の魔性がいるらしいな」
「…ま、想像はついてたけど、タッグマッチはキツイ話よね〜」
「呪いを使うやつが出るっていうのは海側だな。それと、ツェツェ、何でもプロレスに例える癖やめろよな…」
 いくらプロレス好きだからといって、例えに出すなとため息をつく。
「うっるさいわねタイチ、別にいいじゃない何に例えたって!」
「はい、そこ。じゃれあいはそこまで。…そろそろ拳が出てきちゃうからっ」
 なかなか行動を開始出来ず、表情が険しくなっていく樹にちらりと視線を当て、緒方 章(おがた・あきら)が2人の言い合いを止める。
 その恐ろしいオーラに気づいた太壱は頬から冷や汗を流し、黙り込んでしまった。
「他の人は持ち場を決めて行動しちゃってるから、僕たちの担当エリアを決めなきゃね。どうする?樹ちゃん」
「海側だと2タイプの者を、同時に相手せねばならんな」
「でも、タイチのお母さん、タッグを組ませなければいいんですよね」
「それはそうだが…。確か町のほうに出現する魔性は、グラッジのみだったか…」
「じゃあ屋外がいいんじゃないか、お袋。どのみち皆、先に行っちまったし。町の被害者を救助する人数がヤバイそうだしな」
 合流しようにもすでに、他の者たちは海へ向かってしまった。
 手薄なエリアがよいのではと太壱が提案する。
「ふむ。では、私たちは屋外を担当しようか」
「よーっし、それが分かればやることは1つ、屋外に出て各個撃破よ!」
「ツェツェ、屋外つってもいろいろあるだろ。手当たり次第、訪問すると時間かかるぞ」
「むー!じゃあどうするのよ」
 盛り上がりに水を差されたセシリアは膨れっ面をする。
「不幸続きの家及び店を聞き込みにて割り出し、対象者を捜すことにしよう。…このストラップの効果とやらでも試してみるか」
 アル君カエル人形ストラップを床に置き、ボールのようなものを押す。
「―…鳴かないね、樹ちゃん」
「反応しないな」
「素敵感がゼロだからってのもありそうだよ。対象者は性格がネガティブになっているか、凶暴化しているわけだし」
「うーむ…。地道に捜すしかないということか」
 ストラップの効果を待つのを諦め、聞き込み訪問に切り替えた。
「お店といっても、建物のほうは屋内担当の人が対処してくれるはずだから。僕たちは露天の方へ行ってみようか」
「あの通りの向こうで、人の話し声が聞こえるな」
 ガヤガヤと騒ぐ声を耳にし、砂利の路地を通り抜ける。
 魔性の騒動のせいもあってか人通りは多くないが、買い物客の明るい笑顔はまだ残っているようだ。
「そこの子供。突然不幸…というか、運が悪くなった者を知らないか?」
「なんか家がもえちゃったともだちならしってるー」
「私たちをそこへ案内してもらえるか?」
「おねーちゃんたち、おうちなおしてくれるひと?」
「いや、そうではない。だがこれ以上、その友人に酷い出来事が起こらないくらいはな…」
 樹はかぶりを振り、恐ろしい不幸が訪れないように助けることは出来ると告げる。
「おうちがもう、もえたりしないってこと?じゃー、つれていってあげる」
 子供は店で買ったキャンディーを舐めながら、樹たちを案内する。
「む、何もないようだが?」
「ここだよ、あの家の中にいる」
 キャンディーを四角いダンボールハウスへ向けた。
 “家が燃えた”とは聞いたが、まさか“全焼した”とは想定外だった。
「う、うむ…。確かに人は入れるようだが…」
「家…なのか?」
「屋根はあるみたいよ、タイチ」
 それを民家と呼べるだろうか、と首を捻る太壱にセシリアが言う。
「は?屋根があるからって、一般的な家とは違くねぇか?」
「人が入れて住める環境なら、そこが家なのよ」
「んな無茶苦茶なっ。そんなこと言ったら何でも家になるじゃねぇかよ」
 ダンボールでも屋根があって、人が入居可能なら家だと言い放つ彼女に、ツッコミを入れた。
「あの…、新しい家を建てる予定はあるかな?」
 涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)は低く屈んで家主に聞く。
「それが、お金を泥棒に盗まれてしまって、建てる費用がないんだよ」
「なるほど。それでこの生活というわけか…」
 これも魔性による不幸になる呪いのせいなのだろう。
「今起こっていることは、あなたの中にある悪い気のせいだ。私が祓ってあげよう」
「悪い気とは…?」
「すまないが説明している暇はない。祓い終わるまで、しばらく目を閉じていてくれないか?」
 事情を知らせて町に住みづらくなるような、不安感を与えないように事の詳細を告げなかった。
 樹に視線を送り、子供たちも目を閉じさせる。
「私が目を開けてよいというまで、じっとしていろ」
 ぶっきらぼうに言い、2人の子供を抱き寄せて、少年たちの瞼を両手で覆う。
 それを確認すると涼介は、家主にかけられた呪術を解除してやろうと、ペンダントに触れて静かに詠唱を始める。
「全てを癒す光よ、傷付き苦しむものに再び立つ活力を」
 温かな優しい光をイメージし、ホーリーソウルの聖なる気を彼の中へ送り込む。
 呪いの影となって現れたソレは、相手の首に這い回りケタケタと笑いを漏らし、耳障りな声音で呟く。
 “モット、コレニ……。フコウヲ…、クレテヤロゥ……カッ”
 影にまとわりつかれた者や子供たちには、はっきりと聞こえなかった。
 ソレはわざとすぐ傍にいる涼介に聞こえる程度で言ったのだ。
 “フコウニ、…ナッテイクトコ、ミセテアゲタイ……。クククッ。ニンゲンハ、ヒト…ノ…フコウガ、ス…キナンダ…ロ?”
「(ほぅ…。魔性とはそうやって、人の心を乱そうとするのか)」
 当然、涼介は影の甘言に耳を貸すことなく、呪い祓いの力を緩めない。
 蛇を模した影を癒しの光で捕らえ、彼の中から引き剥がす。
 “キ…ッ、キサマ……ハッ!!?…クッ…ゥゥウッ”
「(ふむ?向こうは私たちのことを知らないのか)」
 どうやら魔性の中には、涼介たちが行使する術の存在を知らぬ者もいるのか。
 影は低く呻きながら光に浄化されていった。



 涼介は呪いを解除した家主に、精神を蝕むものがいないか浄化の光で調べてみたが、それらしい邪気はなかった。
 グラッジに憑依されたことはなかったらしく、僅かな時間で治療を終えた。
「これで不運に見舞われることはないと思う」
「私からその悪い気が消えたということですね?ありがとうございます!」
 彼は不幸の原因を消し去ってくれた涼介に礼を言う。
「ダンボールの家主、しばらく海には近づかないでもらいたい。こちらが近づいてもよいと判断した際、町にいる者たちに伝える」
「は……はい…?」
 なぜ海へ行ってはいけないのか理解出来ない家主は、樹の言葉にハテナと首を捻る。
「私もイルミンスールの料理人と同様、詳しい事情を伝えることは出来ない身でな。それに、まだやるべきことが残っている。先を急ぐため、これで失礼する」
 それだけ言うと被害者を捜すべく踵を返す。
「樹ちゃん、感知可能な人数以外の気配はない?」
「今のところはないな。そっちはどうだ?」
「どうだろう…。へんぷくさんー、様子がおかしい人とか見たら教えてねー」
 章は空から捜索しようと放った使い魔のコウモリ、へんぷくに声をかける。
 彼も空飛ぶ箒ファルケに乗って捜索しようとしたが、樹に“私たちが探知可能な範囲外で、もしも目に見えん魔性に襲撃されたらどうする?”と言われ却下された。
「こっちに降りてくるようだが…」
「何か見つけたのかな」
 バタバタと羽ばたき、手の平に降りたぺんぷくに視線を向ける。
「女の人が……尖った物を持って、…こっちに来てるって?樹ちゃん、誰か接近しているみたいだよ。ラフくんも気配を感じたら教えてね」
 必死にジェスチャーで伝えようとするへんぷくの行動を、章が言葉にして樹たちに伝える。
「はいっ、タイチのお父さん!」
 セシリアはペンダントに触れ、宝石に精神を集中させる。
「むむ〜、木の影に気配を感じますっ」
「…1つ?いや、2つか」
「お父様、壁の向こう側にもいる可能性が…」
「どの辺りかな、ミリィ」
「わたくしたちの…すぐ近くですわ。おそらく、実体のある者ではないかと思います」
 ソレは厚い壁面の間から感じ、ゆっくりと迫ってきている。
 昆虫や動物、こちらの様子を覗いている野次馬でもなさそう。
 非物質体の気配がいるほうこうへ視線を向け、ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)は声を潜めて、涼介にその位置を知らせる。
「太壱さん、ミリィも魔性の接近を確認したようだ」
「げっ、マジかよ。てことは3体以上いる可能性大ってこか?どーすんだよ、親父」
「たぶん、さっきの人たちも狙われるだろうから。僕はあの人たちを守らなきゃいけないからさ。太壱君、頑張って祓ってね」
「え…えぇええぇぇえ〜〜〜!!マジでーー!!?」
 一人で祓うことになるとは思わず、まさかの状況に吃驚した太壱が声を上げた。
「騒ぐな、バカ息子」
 大声を出す太壱に、樹が鉄拳で殴る。
「イッてぇー。いちいち殴るなよ、お袋っ」
「うるさい。私たちが伝える位置通りに術を使え。間違っても勘だとかで動くな。特にバカ息子の勘はあてにならん」
「ぅわ、ひっでー…。わ、分かったから拳を降ろしてくれっ」
 “口答えをするな”と言いたげに、静かに上がっていく拳に逆らえず、大人しく樹に従う。
「私たちは気配探知に集中しなければならん。イルミンスールのヴァイオリン弾き、石化以外の魔法攻撃の防御は任せたぞ」
「分かった。スーちゃん、お願いね」
「うん!」
「お袋…グラッジ何処だ?」
「アークソウルで感知した気配は2つ。だが、あの者からは感じられん…」
 刃物らしきものを手にした女を軽く睨み、すでに憑依されていることを太壱に伝える。
「器の女を2つの気配が囲っている。あれを使って他の者を襲い、体を奪う気なのだろう」
「てことはー…、不幸から脱出したばかりのヤツを狙ってくる可能性が高いのか!」
「気配が2つ、ダンボールハウスのほうへ行ったぞ」
「せっかく呪いから開放されたってーのに、災難続きだなっ」
 太壱はハイリヒ・バイベルを開き、ダンボールハウスの家主たちの元へ駆ける。
「親父、グラッジたちがそっち行ったぞーーっ!!」
「家主くん、そこの子供と家の中へ避難して」
「ぇ、…えっ?」
「説明している暇はないんだ、早く!」
 章はそう告げると、家主と子供をハウスの中へ押し込む。
 対象者を取り囲むように、裁きの章による術を展開し、酸の雨でグラッジの接近を阻む。
「バカ息子、直進方向へ放て」
「おうっ。って、バカバカ言わないでくれって!」
 樹の呼び方に文句を言いつつ、光の嵐で2体の魔性を退かせる。
「向こうはなんとかなりそうか…?」
「お父様、グラッジが!」
 ミリィは涼介の腕を引っ張り、グラッジの憑依をかわす。
 妻子のいる順風満帆な彼も、憎むべきリア充として例外なく標的にされてしまった。
 グラッジは壁の向こう側へ隠れ、彼に憑依する隙を窺う。
「3人共!そんなことにいると、また狙われちまう。こっちに来いっ」
「は…はいっ」
「貴方たち2人はタイチのところへ行って。そこの貴方はわたしと一緒に、魔性の魔法攻撃から皆を守って」
 憑依された者から視線を外さず、不可視の魔性の位置を人差し指で示し、終夏に知らせる。
「スーちゃん。魔法から守るバリアーとか作れないかな?」
「出来るよー!」
 少女は大好きな終夏と彼女の仲間を守るべく、白い花びらを舞い散らせてバリアーを展開する。
「グリュックリッヒ、ダムドーッ!(リア充、地獄へ落ちろぉおっ)」
 グラッジはミリィを連れて太壱のほうへ駆けていく涼介を狙い、エンドレス・ナイトメアの闇を壁に這わせ、逃がすものかと追う。
「涼介さんたちが危ないっ。スーちゃん、2人を守って!」
 終夏の頼みを聞き入れたスーは白い花びらを操り彼らのを囲む。
 花吹雪が闇を拡散させて威力を弱めていく。
「皆にも手出しさせないんだからねっ」
 セシリアはアークソウルを行使し、琥珀色の光の壁を花の守りの内側へ展開する。
 2層のバリアーで闇の魔法は力を失い消えてしまった。
「どうにかタイチたちのほうへ避難できたようね。さぁてとー…、問題はあの人だわ」
 女に憑依したグラッジは、器を得られない同種の者を心配することなく、セシリアたちの後ろにいるリア充の集団をロックオンしている。



 “リア充…消すッ”
 そう、ぽつりと小さな声で言ったかと思いきや、憑依体を身体を操り、握らせた得物を振り回しながら駆ける。
「グラッジに意思を支配されてしまってるようね。その人から出ていってもうわ」
 光術で魔性を憑依体から追い出そうと試みるが…。
 “ギィイイッ、苦しい…ッ。独りで消えるもんか、コイツを道連れにしてやる!!”
 ―…と、グラッジは器の口を使って叫び、黒い刃となって自滅して体の内側から器をズタズタに刻む。
 器だったモノは気を失い、地面に倒れた。
 体内の血が皮膚を破って吹き出し、砂利を赤く染める。
 それを見たハウスの家主は、“わ、私の妻がーーっ!!?”と叫んで太壱から離れようとする。
「お、おいっ。まだ離れんなって!」
 祓魔術で退かせた悪霊たちは、隙あらば憑依してやろうと彼らを狙っている。
 このまま行かせてしまったら家主は確実に体を奪われてしまう。
 太壱は本を脇に抱え、彼の腕を掴んで止める。
「(え、な…何?どうして…!?)」
 なぜ器を道連れにして自滅してしまったのか、理解出来ない様子でセシリアは呆然と立ち尽くす。
「ツェツェ、取り憑かれたヤツに何してんだよ」
「―…え?憑いてる人に術とかかけちゃまずいの?」
「巻き添え喰って死んじまうかも知れねぇんだぞ!」
「死んじゃう…?じゃあ、じゃあ…この人は………!?」
 彼の言葉に唇を震わせ、ぴくりとも動かない女に視線を落とす。
「んん〜?シヌってなぁに?なんで、ママ動かないの?」
 火事で家を失った子供が首を捻り、目の前の出来事を不思議そうな顔して眺める。
「わたし……ど、どうすれば…。…そうよっ、早く止血しなきゃ!!」
 セシリアは動かなくなった女の傍へ座り、ヒールで必死に傷口を塞ごうとする。
「血が止まらない…、止まらないよっ。タイチ、どうしたらいいのっ」
「落ち着けツェツェ。お前がそんなんじゃ、救えるもんも救えないぞ!」
「セシリアさん。治療、代わるよ」
 今にも泣き出しそうなセシリアの肩に、終夏がそっと手を置いた。
「とにかく止血だけして、結和さんのところに連れて行こう」
 金色の風の穏やかな風で、裂けた皮膚の傷を治す。
「あ、和輝さんからテレパシーが…。(こっちは魔性の自爆で、女の人が重傷よりも酷い状態だよ。今、そっち行っても平気かな?)」
「(問題ない。こちらはカフェの出口付近で待機する)」
「(ありがとう、すぐ行くね)…樹さん、カフェで和輝さんたちが待機してくれるみたいだから、そこへその人を運ぼう」
「了解した。グラッジを説得してやる暇はない、バカ息子はこちらにグラッジを近づかせるな。アキラはダンボールハウスの妻を運んでやれ」
「―…あ、あの、タイチのお母さん。わたしが運びます!」
「無論、そのつもりだ。これはお前の役目なのだからな」
「は……はい!」
 泣き出しそうな顔をしていたが、セシリアはいつも通りの表情を取り戻した。
 まだ僅かに息のある女を抱え、ゆっくりと小型飛空艇ヘリファルテに乗せる。
「タイチ、さっさと走りなさいよっ」
「んなっ!?こっちは皆を守りながら走ってんだぞ」
 箒で人を運びながら守るのは難しく、やむを得ず走っている。
「ツェツェ、乱暴な運転するなよ」
「言われなくたって、安全運転でちゃんと運ぶわよっ」
 眉を吊り上げて頬を膨らませそっぽを向く。
「セシリアさん、あの赤い屋根の店だよ」
 スーと木の聖杯を抱え、空飛ぶ箒シーニュに乗っている終夏は、テレパシーで伝えられたカフェを指差す。
「りょーかい!」
 ハンドルをぎゅっと握ったセシリアは速度を上げ、店舗の前にテーブルや椅子が並ぶカフェへ向かう。
「来たわよ、治療をお願いっ」
 店の前でエンジンを停止させ、大きな声で和輝を呼ぶ。
「分かった。…高峰、被害者は極めて危険な状態らしい」
「そ…、それは、重傷よりも酷いということですか?」
「詳しくは五月葉たちに聞いてみてくれ」
「あ、はいっ」
 結和はパタパタと走り扉を開ける。
「んー?テレパシーでここの場所を教えてくれたのって貴方?」
「いっ、いえ。和輝さんはパートナーの方々と店の見回りをしています…。その…どなたを治療するのですか?」
「この女の人よ。外側の止血はしてもらったけど、中のほうがかなりやばいみたいなの。このままじゃ、解毒剤を飲ませることも出来ないわ」
「はわわわっ。わ、分かりました」
 セシリアから被害者を託され、店のソファーに寝かせる。
「(中のほうが危険ということは、内側から傷を負ってしまったようですね。強い回復魔法を使わなければいけませんね…っ)」
 呼吸が小さくなっていく女を、復活の魔法で生命力を回復させた。
「―…ひとまず、大丈夫そうですね…」
 浅かった呼吸は正常に戻りつつあるが、今度は毒によって再び生命の危険にさらされることだろう。
 結和は女をセシリアの元へ運ぶ。
「えっと、今は眠っていますが…。目を覚したら、暴れる可能性があります…」
「貴方がここにいてくれて助かったわ。何の魔法を使ったの?」
「復活の魔法ですが…」
「それってかなりSPを消耗するんじゃない?大変だったわよね、ありがとう」
「わ、私は、私に出来ることをしただけですし…。えっと、そのー…。で、では、和輝さんところへ戻りますっ」
 礼を言われた結和は顔を真っ赤にし、仲間の元へ駆けて行った。