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リアクション
■幕間:続・熟練者に学ぶ正しい戦い方
「午前の講義で戦術の大切さを理解してくれたと思うわ」
松永 久秀(まつなが・ひさひで)は優里・風里らと同じように椅子に座って休んでいる八神と日比谷を見つめながら続けた。
「でも久秀は少し趣向を変えて、簡単な心理学について教えようかしら?」
「何か難しそうですね?」
「そもそも役に立つの?」
優里と風里の疑問に松永は応えた。
「思っているよりも難しい事じゃないわ。優里、貴方が風里の感情を理解している事も、心理学の一種よ。久秀からすれば風里の考えてることなんて分からないもの」
言い、風里を見やる。
何を考えているのか、何も考えていないのか、無表情のまま視線をこちらに投げかける女の子の姿がそこにある。
これでも優里にはそれとなく感情が読み取れるというのだから、付き合いの長さというのは大事だ。
「そんなものですか」
「そんなものよ」
それと、と松永は続ける。
「敵を知り己を知らば百戦危うからず。自分はもとより相手の心理を読み取れば、自分に有利な状況に持ち込んだり、格上の相手を倒すことも可能よ」
前の講義でも近いことを学んだでしょ、と彼女は告げた。
「一理あるわ」
「納得していただけたようでなによりね。じゃあ講義を続けるわ」
こうして二人の座学は進んでいった。
そして実践に活かすための訓練が始まる。
■
グラウンドには男女四人の姿がある。
一組は優里と風里。もう一組は中性的な顔つきの青年と優里たちと同年代くらいの少女だ。
青年の腕に少女が抱きついている姿から仲の良さが窺える。兄妹なのかもしれない。
「俺は佐野 和輝(さの・かずき)。こっちはアニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。よろしくな。本来ならある程度、武装に関しての知識をつけてから相手をしてやりたかったんだが……」
そう言いながら佐野は隣にいるアニスを見やり。
「俺たちと同じ地球人と強化人間のペアのようだから、今回はパートナー同士の連携の訓練をすることになった。基本の基本を教えるから武器は何を使ってもいい」
まずは、と佐野は呟くと二人に視線を向けた。
「戦ってみようか」
佐野とアニスが優里と風里に対峙して構えた。
佐野の両手には同型の銃が握られている。対してアニスは杖を手にしていた。
冒険者のお手本のような前衛と後衛のスタイルのようだ。
「今日は先手必勝しないの?」
「……散々な目に遭ったから」
「あー、なるほど」
風里も訓練の経験から、ただ先に斬りかかるというスタイルは不利だと理解したらしい。
ナイフは使わず、片拳を佐野に突き出して身体を軽く横にそらす。
空手などでよく見られる構えだ。先の徒手空拳の経験を活かすつもりらしい。
優里はナイフを両手にし、右手は前へ、左手は腰へ。腕を小さく曲げている。
攻めるというよりは守りの形に近い。
「なんだ来ないのか。なら――」
告げるが早いか佐野が動いた。
「こちらから行かせてもらう!」
銃を構え、放つ。狙われたのは比較的距離の近かった風里だ。
距離が離れていると狙い撃ちされる。素手の自分には不利と踏んで、佐野の射程外……その腕の内側へと入り込もうと接近した。
何度か発砲されるが当たらない。手加減されているのだろうか。
前傾姿勢から軽く飛んでのスライディング。
慣性に任せるままに佐野の懐へ潜り込んだ。
「もらったわ!」
「ふっ、一人忘れてないか?」
佐野の背後、杖を構えその先を風里に向けているアニスの姿があった。
押さえ込むように杖を持つその手から白い輝きが放たれる。
「ちゅど〜ん! 注意力散漫だよ〜♪」
軽い言葉とともに光の奔流が風里を襲った。
濁流に呑まれるように、風里は後方へと押し流されていく。だがその身を襲っていたのは衝撃だ。
鉄の塊でもぶつけられたような痛みが身体を奔る。
「ごめんねっ!」
今度は優里がアニスを狙って足早に近づく。
そのまま勢いに任せて斬りかかった。左右のナイフを使っての二連撃だ。
しかし――
「だから一人忘れているだろう?」
いつのまに回り込んだのか、優里の背後に佐野が立っていた。
思わず振り返る。すでに銃が構えられていた。直撃コースだ。
「――んっ!」
「ふっ……」
正面からアニスの術、後方からは佐野の銃撃。
「がっ……は……」
優里は挟み撃ちによる攻撃に耐えられず、その場に倒れ伏した。
地面に転がっている優里に近づくと佐野は言った。
「せっかくの精神感応だ。活用しない手はないぞ。二人で協力し合うんだ」
「そん……な、こと……言われても……」
優里は痛みに耐えながらそれだけを口にする。
風里は頭を抑えながら座り込んでいた。
「だ、大丈夫?」
そんな風里の様子が気がかりだったのか、アニスは近寄ると頭を撫でた。
「それ嫌いだから止めて」
「うん。分かった。続けるね」
拒否の言葉を吐く風里の頭を撫で続ける。
どことなく安らいでいる印象が二人から感じられた。
「……強化人間だからな」
そう呟き、二人を見守る佐野の視線は優しい。
何か思うところがあるのかもしれない。
「精神感応、まだ上手く使えないんですよ。コツとかないんですか?」
「そうだな……」
佐野はアニスを見つめながら呟いた。
「相手のことを気にかけていれば自然と会話ができるようになる」
「フウリのことをですか……」
言い、視線を二人の強化人間に向けた。
撫でられるがままになっている風里たちの姿は、どことなく姉妹のようにも見えた。
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