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新米冒険者と腕利きな奴ら

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新米冒険者と腕利きな奴ら

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■幕間:学べ! 新米冒険者

 新米冒険者にとって怪我というものは常に付きまとうものだ。
 だからこそ怪我の治療に関する知識というのは少なからず必要になる。
「始めまして。私もまだ学生の身ではありますが、救急法について少しお教えしようと思います」
 教卓の前に立ち、優里と風里にそう告げた彼女の名前は高峰 結和(たかみね・ゆうわ)。パートナーのエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)とともに、応急処置の基本である止血法に関して話をするべく、いま教壇に立っている。
 そんな四人の様子を眺めながら窓際の席で座っている妙齢の女性の姿もあった。九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)だ。
 彼女もまた高峰たちと同様、医療に関する知識を教えにやってきていた。
 二人に任せているところを見るに、補足説明役といった立場にあるのかもしれない。
「さて、突然ですが、血液を失ってしまうと人間は死んでしまうのはご存知ですよね。では具体的にはどれくらいの量を失うと危険になるか、知ってらっしゃいますか」
「三割ほど」
 間髪いれず応えたのは風里だ。
 元々知っていた様子である。
「そうですね。20%失うだけでショック症状を引き起こすと言われています。それだけ私たちにとって血液というのは大事なわけですね」
「あ……」
 高峰の隣、エメリヤンが一瞬驚いたような顔をする。高峰が肩を叩いたのだ。
「というわけで今日はエメリヤンに協力してもらって止血のやり方を教えます」
「……ん」
 にこっとエメリヤンが笑顔を優里達に向けた。
 どことなく人懐っこい印象を与えさせる笑顔である。

 その後、高峰は止血法の種類を黒板に箇条書きしていく。
 それぞれに特徴があり、症状によって使い分けることを二人にしっかりと教え込んでいく。
 専門的な部分が出た際には九条がサポートするといったスタイルで講義は進んでいった。
「ではお待ちかねの実演です」
 高峰はエメリヤンの腕を取ると、手にしたスカーフを裂いた。
 そして慣れた手つきで腕に巻きつけていく。
「大切なのは脈や出血の様子をよく確認しながら圧迫を強めていくことです。締め付けが中途半端だとより出血を激しくしてしまいますし、強すぎると組織を損傷してしまいます」
 話しながら万年筆を挟んでさらに締める。
「圧迫させることで止血をします。ですが圧迫しすぎると痛みを伴いますし、場合によってはその必要性もあるでしょう……しかし――」
 エメリヤンの脈を優里たちにとらせて違いを確認する。
 止血が出来ていることを確認し、締め付けを緩める。巻いた箇所が赤白くなっていた。二人が思っていたよりも強く巻きつけていたようだ。
「さっきのままにしておくと、受傷部位以外の組織も壊死してしまいます。確実に30〜60分に一度は止血帯を緩めて、血流を再開させましょう。大事なのは適切な締め付けの状態と棒状の物で固定することです。今日は万年筆で代用しましたけど」
 次いで、鞄からベルトのようなものを取り出す。
 それを手際良く、今度は太ももに巻き付けた。ギュッと締まり止血しているのが見てわかる。スカーフでやるよりも早い時間で終えている。どうやら止血専用の道具のようだった。
「軍ではこういう道具も使います。止血法を通じて、契約者として活動することが危険であることも知っていただければ幸いです。ご清聴ありがとうございました」
「ありがとうございました!」
 優里の元気な声に高峰は笑顔で頷く。
 エメリヤンもどことなく嬉しそうだ。
「では以上の点を踏まえたうえで私が補足説明しますね。失血がどれだけ危険で止血がどれだけ大切か、よく分かったうえで教えることがありますよ〜」
 いいですか、と九条は言うと高峰たちと入れ替わり教壇に立つ。
 女性にしては身長が高いせいか、先生というイメージが強く感じられたのだろう。
 優里と風里も自然と身が引き締まった様子で真剣な顔つきになった。
「絶対に負傷を避けたい部位は『大腿動脈』・『腋窩動脈』・『頸動脈』です」
 黒板に人体図を描きながら該当箇所を丸で囲む。
 そこには太い血管や止血の難しい箇所などが含まれていた。
「心臓は言わずもがなですが……依頼を受ける際にはこういった部分を守れる装備をすることを常に心がけてくださいね。それだけで生存率は高くなりますよ〜」
「軽装でも良ければ平気?」
「……オススメはしませんよ?」
 風里の質問に九条は苦笑いをする。
 彼女の思考や行動にはどこか危なっかしさが付いて離れない。それは優里が一番よく知っているようで、すぐに注意を飛ばす。
「危ないってば!! 駄目だからね」
「……わかったわ」
「それ、絶対わかってないよね?」
 優理の問いかけに風里は顔をそむけることで応える。
「なにはともあれ。何をするにしても怪我には気をつけてってことね。止血も実践できるのとできないのとでは大きく違うから、あとで復習しておくのよ?」
「嫌よ」
「い、いまのはわかりましたって意味ですからね!?」
 むぅ、とふてくれる風里。
 優里の苦労が窺えようというものだ。
「じゃあ今日の講義はこれまでよ。このあとは実技訓練だから頑張ってね」
 九条たちは応援の言葉を二人に残し、教室を後にした。