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リアクション
■幕間:武器の使い方
「いい? 銃は撃った際の反動も考慮に入れないと標的に当たらないばかりか、隙ができて命取りになるわよ」
セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が銃を構える。
視線の先、表示された的に向かってトリガーを引いた。
パァンッ! という発砲音が鳴り終わると、的の中心、赤い円に弾痕が刻まれる。
続けて2、3発撃つがどれも赤い円からはみ出さずに撃ち込まれた。
「す、すごい」
「下手ね……」
優理は素直にその技術に感嘆の声をあげ、風里は驚いた様子でその腕に見惚れていた。事前に風里の性格を聞いていたセレンフィリティは誇らしげに笑みを浮かべる。
「銃を扱う上で大切なのは、いかに正確に標的を狙いつつ、発射時の反動を抑えるかよ。まずは慣れないと話にならないわね」
言うと二人に撃つように指示する。
弾の確認、セーフティの確認などセレンフィリティの指示に従って順序良く進め、そして撃つ。
彼女が撃った時と同じようにパァンッ!という発砲音が鳴り響いた。
しかし残念なことに的を大きく外れてしまっていた。赤丸の外、黒丸のさらに外、白面に黒い穴が開く。
二人とも肩が大きく動いたのが原因のようだ。
「撃つ姿勢が悪いのね。姿勢が正しくないと今みたいにブレが大きくなるわ」
セレンフィリティは二人の姿勢を整え、その状態で撃つように指示する。
すると先ほどよりも円の中心に近い位置に弾痕が残った。肩の動きがさっきよりも小さい、上手く身体で反動を吸収できているようだ。
「今の撃ち方を忘れないように。銃を撃つときの基本よ。慣れてきたら今度は反動を考慮して当てるようにしてみなさい。反動はゼロにはできないわ。だからゼロに近づける努力をする一方で、当てる努力もするのよ」
「実践するのは……簡単よ」
「そうよ。実践するのは難しいわ。だから常に意識すること」
「わかりました」
「ん、いやよ」
風里と優里はそのあとも練習を続け、銃の扱いに慣れてきたころ、セレンフィリティとペイント弾を使用した模擬訓練をすることになった。
木々の間を大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は駆け抜ける。
後方から複数の発砲音が聞こえてくるが、銃弾が彼に届くことはない。
時々聞こえてくるバチンッ! という音は木にペイント弾が当たる音だ。
彼はセレンフィリティ同様に、銃の扱い方を教えるために手伝いに来ていたのである。
実践を想定しての模擬戦闘ということで訓練相手を引き受けたのだった。
「この様子では伏せ撃ち等も教えるべきでありますな」
軽く振り返り新米冒険者たちの様子を窺う。
そこには身を隠すことなど考えずに撃ちながら近づいてくる二人の姿があった。
そんな皆の様子を外から見ていたセレンフィリティは苦笑する。
「――敵は止まってはくれないのよねえ」
彼女の視線の先、大洞は勢いよく草陰に飛び込んだ。
身を潜めて二人をやり過ごすつもりなのだろう。
「銃撃戦の基本は身を低くすること……」
呟き、物音を立てないようにする。
「当たったかな?」
「私のは当たったわ」
「僕も自信ないなぁ」
二人が大洞の隠れている場所を通り過ぎる。
ザッ、という草木が動く音を敏感に察知した風里はその場に伏せるが、遅い。
その時にはすでに発砲音が鳴っていた。
「いたあっ!?」
優里の悲鳴が辺りに響いた。
風里が銃を敵が潜んでいたであろう方向に向けようとするが、そこにはすでに銃口を向けている大洞の姿があった。
「まだまだ甘いでありますな」
パァンッ! という音が鳴るとほぼ同じくして風里が悲鳴をあげた。
勝負ありと見てセレンフィリティが皆に近づいてくる。
「はい、残念」
その場でペイント弾の当った箇所を撫でている二人に彼女は告げた。
「いい? これは戦闘よ。サバゲーでもなければ射的でもない! 今はペイント弾だけど、実戦ならもうあなた達は死んでるわ!」
射撃の訓練をしていた時と違ってその口調は厳しい。
実践という言葉が二人の心を重くする。
「すみませんでした」
「……」
「お喋りするな、とは言わないわ。だけど集中はしなさい。常に警戒しなさい。あらゆる事態を想定して行動をするのよ。一歩間違えたら死ぬなんて珍しくないんだからね」
(まあ……皆の訓練が終わるころには気構えは大丈夫だと思うけど)
地球から来て日の浅い子供には厳しすぎると自分でも理解しているのだろう。
それでも厳しくしなければ彼らのためにならない。大洞も同じ考えのようで厳しい視線を二人にぶつける。
叱咤激励の意味合いも含まれているのだろう。彼は二人の前に立つと告げた。
「遮蔽物の使い方がわかっていない! まだまだ厳しくいくであります!!」
「うへえ……」
新米冒険者の苦難はまだ始まったばかりである。
■
林の中から出てきた四人に歩み寄る女性の姿があった。
彼女はセレンフィリティに目配せをして、二人に言った。
「これはまた派手にやられたわね」
「あはは、さすがに……一矢も報えませんでした」
「リベンジの日は近いわ」
「あと何年かかるかしらねえ」
「射撃訓練だけで一年はかかるでありましょう」
ペイントの跡が身体中に付いている優里と風里とは対照的に、セレンフィリティの服には土汚れ程度しか付いていない。そんな様子を眺めてため息を吐いたのはセレンフィリティのパートナー、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
「今度は私が槍についてレクチャーするわ。実践も予定してたけど……その様子だとかなり絞られてたようだし、要点を教えるだけにしておくわね」
「た、助かるわ」
「あら、素直に話せることもあるのね」
セレンフィリティの言葉に少しムッとした様子で風里が口を開いた。
「……私に対して間違った認識があるようね?」
「フウリの場合は自業自得でしょ。」
「話はそこまでよ」
セレアナは言うと手にした槍をブンッ! と振るった。
優里たちに矛先を向けてピタッと止める。
「槍は棒術にも通じるわ。だから扱い方の基本は長いものを無理なく動かせること、これよ」
二人に長めの棒を渡す。
振り回してみるが、どうにも動きがぎこちなかった。
「お、重いです」
「端の方を持つからよ。慣れてないうちは真ん中を持って」
「片手を端に、片手を中央にすると戦いやすそうね」
風里の言葉にセレアナは頷いた。
「基本はそれに近い持ち方で、棒を半回転させて上から叩きつけるように攻撃を繰り出すわ。それが素早くできるようになったら突きや払いの練習に入るわよ」
こうして優里と風里の二人は銃に続いて槍の訓練をすることになった。
遠距離の武器と中距離の武器、素手による格闘。
まだ訓練を初めて日は浅いものの、二人は着実に戦い方を学んでいる様子である。
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