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リアクション
『もはや観戦席にいるお客さんの歓声が完全にカタカナと化しています。きっとそれだけヒートアップしているということでしょう。さあ次は……』
「呼ばれる前からすでにいるよ! さあ、存分に陽子ちゃんの可愛いところ、アピールするよ!」
『なんと、言う前に登場されてしまいました。己が身一つで全てを砕く緋柱 透乃(ひばしら・とうの)選手、その後ろには緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)選手です』
「人が、多いですね」
「平気平気、ここの人たちはいろんな愛を受け入れてくれるから。私たちの愛を見せびらかしてオッケーなんだよ!」
「そうでしょうか……」
「そうっ。だから私は陽子ちゃんの全てを余すことなく伝えるために、お酒をどばあ!」
いきなりの出来事に陽子は抵抗もできず、酒をかぶるはめに。かけられると分かっていても避けるかどうかは微妙だが。
「まずは陽子ちゃんの髪! さらさらの綺麗な黒髪の中に混ざる赤髪のコントラスト、可愛いよね? 何よりお風呂上りでちょっと湿っている状態が最高だよっ!」
「な、なるほど。お酒はそのためだったんですね」
「それにねぇ、髪だけじゃなくて顔や体も最高だよ! 人形みたいに整ってて、この我がままボディ!」
「ちょ、そこは……」
見よと言わんばかりに陽子のナイスバディを弄ぶ透乃。大きな胸を主点にし、腰、太もも、二の腕、うなじ、鎖骨、などなどありとあらゆる場所をまさぐる。
まごうことなきセクハラを受けている陽子本人はというと、多少の抵抗はするものの本気で嫌がったりする素振りはない。
「それ以上は、だめ……」
「……とこんな感じで! 照れてる顔がいっちばん好き!」
『ここにきての大胆アピール。これまでになかったアピール方法に男性陣は……』
―――『フトモモスリスリ!』『フトモモスリスリ!』
『半狂乱状態です。……おっと、ここで相手選手が動きました。目には血の涙を流しています。
どうしてでしょうか、この相手選手もアピール大会の出場者なのに、観戦者と同じような悲しみを背負っているように見えるのは……』
卜部に的確な予想をされた相手選手(悲しみを背負ったモブ)は二人に向か」って、滝のような血の涙を流しつつ突進。
しかし、透乃は微動だにしない。またその後ろにいる陽子も動く気配はない。
罠があると考えるのが妥当だろうか。だがしかし、緋柱 透乃にそんなものはない。
真っ向から来た相手の攻撃を、あろうことか何もせず受ける。合気の類を使用するわけでもなく、その身を敵の攻撃に惜しげもなく晒す。
そして次の瞬間には、相手選手が血涙の放物線を描きながら吹っ飛ばされていた。後方にいた陽子の攻撃によるものだ。
「……陽子ちゃんは攻撃を受ける私の心配をせず、逆に盾にして攻撃に専念してくれる。
それはイコール、私のことを理解し、その強さを信じてくれているってこと。どう? 最高だと思わない?」
攻撃を受けたはずの者が笑い、攻撃をした者が泣くあるまじき光景。その光景を前にして、淡々と陽子が言葉を紡ぐ。
「己の頑丈さを信じ攻撃を避けず受けて耐え抜き、傷つきながらも私たちを信じて常に前線を張ってくれる。
その姿、とても勇ましく素敵だと思うんです。……本当ならばスポットライトの一つでもあるとよいのですが、ここではやめておきましょう」
『エンドレス・ナイトメア』と『無量光』を使い暗闇の中でポージングでもしてもらおうと考えた陽子だったが、
『エンドレス・ナイトメア』の効果を考えぐっとそのアピールをするのを堪えた。
「っというわけ、私たちの愛は伝わった? 見せびらかせたかな?」
―――『エロス! エロス!』『ケンギュウ! トウノ!』
―――『エロス! エロス!』『テレガオ! ヨウコ!』
「よーしよし、それならまだまだサービス特盛でいっくよー!」
「こ、これ以上はだめっ……!?」
『あちらのリングはそろそろ放送が難しいラインに差し掛かりましたので、本会場に来ている人たちのお楽しみということにします。
引き続いて別のリングへ参ります。次はルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)選手とメルティナ・バーンブレス(めるてぃな・ばーんぶれす)選手です』
「行こう、メルティナ」
「はい」
リングに躍り出たルゥとメルティナ。その二人を待ち構えていたのは珍しくやる気満々のモブ選手。
悲しみを踏破すればきっとここまで強くなれるのだろう。
「私のメルティナへの想い、聞いてね」
「は、はいっ」
そう言って構えを取るルゥ。そんな彼女の気持ちも知らず容赦なく、真っ向から飛び込んでくるモブ選手。
「……はっ!」
素直すぎる攻撃を軽々とかわすルゥ。と同時に【バイタルオーラ】で攻撃。プラスでメルティナへの想いを叫ぼうとする。
「私のパートナーのメルティナは! メルティナは……!」
そこまで。メルティナに対してのありとあらゆる言葉はもう出かかっているのに、その言葉たちをルゥは口に出すことができなかった。
「……っ」
パートナーであるメルティナは叫ぼうとするルゥを見るたびに、目を背けていた。紡がれる言葉を聞かずして、その顔は真っ赤だった。
(どうして? 私は一番大切な友達の、メルティナのことを叫びたいのに。一体どうして!?)
戦闘をこなしながらも、ルゥは心の中で葛藤を続けていた。叫びたいのに、そうしない自分と戦っていた。
(そりゃかなり恥ずかしいけど、それ以上に思い切り心から叫べたら、普段じゃ伝えきれないこの気持ちの底の底まで伝えられると思って参加したのに)
「ルゥさん! 危ないです!」
「!? あ、ありがとう……」
考えが深くまでのめりこみ不意をるかれそうになったルゥをメルティナがカバーする。
(そうだ。メルティナはこうやって、いつでも私の隣にいてくれた。笑顔で迎えてくれた。
それだけじゃない。可愛さ、可憐さ、勇敢さ……言葉にしたどれもちっぽけになってしまうくらい、素敵な子なんだ)
未だに考え込むルゥの傍らを守り続けるメルティナもまた、考えていた。
(……ああ、本当に、貴女は私にとって世界で一番大切な人。そう伝えたい。でも、だめなんです。
それと一緒に、こぼれてしまいそうになるから。決して咲くことのない感情が)
メルティナに芽生えてしまった、一つの種。友情を越えた先の感情。それが適うことのない夢とわかりながらも、心のどこかで望んでいた。
(決して咲かない花だったとしても、私は一生世話を続けていくつもりです。この気持ちは、紛うことのない真実なのですから……)
そんな風にメルティナは自己完結していた。そしてルゥは。
(叫びたいことが山ほどある。貴女の素晴らしさ、どれも言葉にしたら上手く言い表せないかもしれない……それでも!)
ルゥが相手選手を吹き飛ばして、覚悟を決めたように息を大きく吸い込む。
「私は、彼女のことを……!」
言ってしまうだけ。言ってしまえばきっと楽になれる。そう思って、ルゥは気づいた。
(言葉に出さなきゃ伝わらない? それともいいふらしたい? 違う。……彼女の魅力、彼女への気持ちは、
自分の心の中へ大切にしまっておけばいい。だから叫ばなくてもいい)
気づいて、叫ぶのをやめ、メルティナに向き直る。一番伝えなきゃいけない言葉を、笑顔でメルティナに言うために。
「……今まで、ありがとう。そして、これからもよろしくね」
その笑顔を知らずのうちに愛してしまったメルティナも応える。
「……はい」
そうして二人は静かにリングを降りた。
いつか、二人が寄り添いあって笑うその日まで、彼女たちのアピールタイムはお預けのようだ。
『黙して語らず、アピール叫ばず、しかしそのアピールの絶大さ』
―――『……! ……!』『……! ……!』
―――『……! ……!』『……! ……!』
『もはや声にもならないほどです。誰がここまでを予想したでしょうか。司会進行である私の目を持ってしても見破れませんでした。
さて、ここまで続けてきた本大会も残り一戦となりました。ラストアピールでは何が飛び出すのか……楽しみです』
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