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リアクション
村の住人
時間は遡り朝。ミナホがアテナを見送り、瑛菜に見送られた後。
ミナホは村を回っていた。今日は村の案内の下見を兼ねているが、この時間に村を散策して回るのはミナホの日課だった。
村の人に挨拶をし挨拶をされながら歩き、村の外れ近く、未開発地域についたミナホはなにやら木材が運び込まれているのを見つける。その様子の中心に見知った契約者の姿があった。
「何をやってるんですか? ローグ君」
ニルミナスの村人でもあるローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)は村長の姿に気づき返事をする。
「ここに宿屋作るからその材料を運んでいるんだ」
そう言われ、作業をしている方をよく見ると、運んでいるのはローグのパートナーのギフトであるコアトル・スネークアヴァターラ(こあとる・すねーくあう゛ぁたーら)だった。
「器用に運ぶものですね」
普段は大蛇型のコアトルが木材を運ぶ様子はそれだけで曲芸のような感じがする。
「この程度はできて当然であろう」
ミナホの感想にそれだけ言ってコアトルは木材を運ぶ作業を続ける。
「すごいですねー……って、そんなことよりローグ君。私、ここに宿屋を作るとか聞いてませんよ?」
感心してる場合じゃないとミナホはローグにそう言う。
「ん? 確かに村長がいない時に決まったことだが、前村長から聞いてないのか?」
そういう話だったとローグは言う。
「……聞いてないです」
「またかよ、あの親父……いつかしめる」
二人して微妙な表情をしてそう言う。
「ある意味ではいつものことであろう」
そう冷静に返すコアトルの言葉に二人は溜息を付くしかない。
「ま、まぁ今知れたからよしとするか。流石に今は忙しいしすぐに作るって訳じゃないからな」
今は材料を運んでいるだけで実際に作るのはまだ先になるとローグは言う。
それだけが救いだとミナホは思った。
「あ、村長さんいましたね」
ローグと話しているとそう声をかけられた。見るとフルーネ・キャスト(ふるーね・きゃすと)が、ミナホに近づいてくるのが分かった。一緒にユーノ・フェルクレーフ(ゆーの・ふぇるくれーふ)の姿もある。二人ともローグのパートナーだ。
「フルーネさん? それにユーノさんも。どうかしましたか?」
ミナホは自分に用がある様子の二人にそう聞く。
「ボクたち、村の特産品で何か企画しようと思ってるんだけど、困っちゃってて」
「……この村の特産品とは何なのでしょうか?」
フルーネ、ユーノはつなげるようにしてそう言う。
ローグたちは村に住んでいるといっても森の方であるし、生計を村で立てているわけでもないため、村がどんな産業を営んでいるか知らなかった。そのため特産品の企画をしようとしたフルーネとユーノは村長を探していた。
「………………この村に特産品ってあるんでしょうか?」
そして返したミナホの答えがこれだった。
ミナホの説明によると、そもそもこの村で生計を立てている人は少ないらしい。近くの街に働きに出て、夜寝るときや休日を過ごすのがこの村であるという人がほとんどだ。この村で生計を立てているのは林業を営んでいる人たちくらいだと。それはこの村が出来た経緯を考えれば仕方のないことかもしれない。
「じゃあ、本当にこの村に特産品って……」
きまずそうな顔をしてフルーネは言葉を濁す。
「薬草が何か特産品にならないかと栽培を始めたんですけどね」
だが、今となっては無計画に出荷するものでもない。
「……話をまとめますと、つまり特産品は今から考えていくということですね」
そう、ユーノが話をまとめ、それにミナホが頷く。
「この村にあるものをまとめて、村の人や契約者の人たちと一緒に考えていこうと思っています」
「こ、ここは相変わらずすごいですね……」
ローグたちと話した後、とある家の前についたミナホは、その家のたたずまいを前にしてそう言う。
「主は調査のためと言っていましたが……このような環境でなければ調査はできないのでしょうか?」
ミナホのつぶやきに言葉を返したのは蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)だ。この家の主である芦原 郁乃(あはら・いくの)のパートナーだった。
「調査のことは私にはわからないですけど……住むの大変じゃないですか?」
そう心配されるくらいに郁乃の家の様子は酷い。どのように酷いかというと、家の中に植物が無秩序に生え、屋根や壁を突き破り雨風を防げる様子ではなくなってるのだ。
「はい……家の中にテントを立てて暮らしています。そのテントの中も調査標本や原稿で埋まっている有様でして……」
「あ、あはは……それで、その郁乃さんはどこに?」
「今日は家の近くで子供達と一緒に草花を調べています。ほら、あそこです」
マビノギオンの指差す方向を見るとそこには確かに子どもたちと一緒に調査をしている郁乃の姿があった。
「あ、そこの草は抜かないでおいてね。これから調べるから、そのままにしておいてほしいんだ」
そう言った郁乃に対し、子どもは、えーっただの雑草じゃんと返す。
「雑草って種類はないんだよ。みんな名前があるんだから」
一緒に調査と言うよりは子どもたちになにか大切なことを教えているようにもミナホには見えた。
「ああして子どもたちと一緒にいる姿はよいのですが、この家を見ると主はただの変わり者だとしか思えないのは仕方ないですよね」
そう言うマビノギオンにミナホは苦笑いを返すしかなかった。
「っくしゅん……うーん……風邪引いちゃったかなぁ」
くしゃみをしてそう言う郁乃に子どもの一人が姉ちゃんが変わり者だって誰かが噂してるんじゃないの? とからかう様子で言う。
「私は『変わり者』じゃありません! あの家にだってちゃんと意味があるんだからね」
そうしかるようにして子どもに返し、そしてまたからかわれる。そんなやりとりをしながら郁乃は思う。
絵を描くための口実だったこの村での調査活動。今ではその調査活動が楽しくて仕方がない。こうして子どもたちと一緒にする調査活動は楽しいし、自分も勉強になる所があった。
だから郁乃は思う。自分の知っていることを子供達に伝えたいと。自分の思っていることが子供達と共有できればと。
世界はこんなに楽しいもので包まれてるって事を
大事にするには、まず知らなきゃいけないって事を
そして、世界のあれこれをみんなが好きになってくれるといいなぁと、そう郁乃は願う。
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