校長室
学生たちの休日10
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★ ★ ★ 「皆さん、今日は、我が家の忘年会に集まっていただいてありがとうございましたあ。最初に、ちょっとだけ注意事項があります。まず、庭から外に出ようとしないでください。防犯上の理由でいろいろ仕掛けてますので、万一引っかかったら、せっかくの楽しい忘年会が台無しになりますからねぇ。次に台所の床にある階段から地下には行かないでください。絶対に行かないでください。お願いします」 司会に立った八神誠一が、忘年会の開始前にいろいろと連絡事項を伝えました。 「話が長い、いいかげん始めるのだよ」 そんなことはどうでもいいと、オフィーリア・ペトレイアス(おふぃーりあ・ぺとれいあす)が八神誠一を蹴飛ばしました。 「ま、まあともかく、今年も一年お疲れ様でした、では、かんぱーい」 「かんぱーい!」 八神誠一の音頭で、みんなが一斉に乾杯をします。 「たまにはこういうのもいいモンじゃのう」 うまそうにお猪口の日本酒をぐいとあおってから、伊東 一刀斎(いとう・いっとうさい)が周囲を見回して言いました。なかなかに、可愛い女の子がたくさんいます。まあ、それ以外は視界に入らないわけですが。 「準備は完璧にできているから、みんなたくさん食べてね」 宇和島凛が、お客様たちに言ってカセットガスコンロの火をつけて回りました。コンロの上に載せられていた寄せ鍋が、すぐに煮立ちます。お箸もフォークも取り皿も、準備は万端です。ちゃんと、追加のお肉や野菜、締めのおうどんまでぬかりなく用意されています。 「うう、手伝いたかったのに……」 炬燵に潜り込んだ飛鳥桜はもくもくミカンを剥いていました。甘いミカンを食べつつ、他のミカンをならべたり積みあげたりし始めます。 「うんうん、そうであろう、そうであろう。その気持ち、よく分かるぞ」 炬燵の反対側から、ミカンを弾いてオフィーリア・ペトレイアスが言いました。転がったミカンが、飛鳥桜の積みあげたミカンの山にぶつかって崩します。 オフィーリア・ペトレイアスも鍋作りを手伝おうとしたのですが、他の全員に全力で阻止されたのでした。特に、八神誠一に頼まれたルイ・フリードが、筋肉の壁で厨房に入れてくれません。せっかく下ごしらえした食材も、地下室においたままです。 「遊ぼ!」 サフラン・ポインセチアが、いきなり顔を出してきて言いました。なんとなくじめじめしている二人を見ていられなかったようです。 「わあ、イルカさんまでいるよ」 ふさふさの狼の姿をしたスプリングロンド・ヨシュアをもふもふしながら、宇和島凛がサフラン・ポインセチアを見てびっくりしました。さすがに、こんな所で空飛ぶイルカを見たら誰だってびっくりします。 「しかし、知り合いが少ない……。なんだかイコンみたいな人もいるし……」 匿名 某(とくな・なにがし)が、周囲を見回して言いました。庭には、ノール・ガジェットとアーマード・レッドがちんまりと待っています。 「しかし、二人とも楽しそうですな」 その庭では、アーマード・レッドが、緋王輝夜とネームレス・ミストが宴会に溶け込んでいるのを楽しそうに見ていました。 緋王輝夜はいろいろと料理を運んでいますが、ネームレス・ミストは食べているばかりです。とはいえ、どこから食べているのか、いつの間にか食べ物が空になっています。底なしの食欲です。 「おい、お前たちも肉食わねえか、肉!」 大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が、小鉢に入った肉を持ってきて、ノール・ガジェットとアーマード・レッドに言いました。 「いや、私に食べ物は必要ないので……」 どうしろと言うのだという感じで、アーマード・レッドが答えました。隣で、ノール・ガジェットもうんうんとうなずいています。 「そうか。残念だぜ。仕方ない、これはオレがいただくぜ」 はふはふしながら、大谷地康之が肉を食べていきました。もちろん、ちゃんとバランスを考えて、先に野菜はたらふく食べてあります。 「おお、康之もフェイも積極的に人に絡んでいる。すげー」 匿名某が、宴会の輪に入り込んでいる大谷地康之とフェイ・カーライズ(ふぇい・かーらいど)を見て、感嘆の声をあげました。 「なんだ、何黄昏れてるんだあ?」 そんな匿名某に、八神誠一が声をかけてきました。 「い、いや、黄昏れてなんかないぞ。ちょっと、綾耶のために、食べ物をとりにきただけだ」 そう言うと、匿名某が適当に鍋から小鉢に具をよそって結崎 綾耶(ゆうざき・あや)の許へと持っていきました。結崎綾耶はもともと小食ですから、こういうときにこそちゃんと食べてもらわなければなりません。 結崎綾耶の方は、かいがいしく鍋に具材を入れる鍋奉行をせっせとしています。今も、ちょうど、厨房から新しい具材をとってきたところでした。案の定、自分自身はあんまり食べていないようです。 「ほら、とってきてやったぞ。少しは食べろ」 「えっ、ありがとうございます。じゃあ、某さんにもよそってあげますね」 鍋からマリオン・フリードに具をよそってあげていた結崎綾耶が言いました。匿名某から小鉢をもらうと、替わりに自分がよそった小鉢を差し出します。なにげに、さっきマリオン・フリードに持った物よりも量が多いようです。 「ひゅーひゅー、ちゅーしろー」 「な、何を……」 すかさずオフィーリア・ペトレイアスに囃されて、匿名某と結崎綾耶が真っ赤になりました。 「鍋奉行たる俺様の言うことは聞かないといけないのだぞ」 「鍋奉行は綾耶だからいいの!」 そう言うと、匿名某が結崎綾耶を連れて逃げて行きました。 「お父さんたちの作った、お鍋、美味しー♪ 全制覇目指すよー♪」 そんな騒ぎをよそに、マリオン・フリードが、ニコニコ顔で鍋をつついています。 「挑むってことは、自分の命を賭けるってことなんだけど、その覚悟はできてますか? さあ、残さず全部食べて強くなるのです!」 新たに水炊きの鍋を持ってきた八神誠一がそう言いました。この鍋は、八神誠一お手製なので安全です。 「さあ、鍋奉行たる俺様にすべて任せれば万事解決なのだよ」 マリオン・フリードのお椀に、オフィーリア・ペトレイアスが鍋から具を大盛りでとってよそっていきます。 「負けないよー!」 そう返事をすると、マリオン・フリードが頑張ってお鍋を食べていきました。 「それでは、そろそろ余興の方も始めるとしましょうかあ」 八神誠一が言うと、広間の一方に作られたステージに、司会の宇和島凛が現れました。 「いいぞ、いいぞ。やれー、やれー」 ちょこっと飲んだだけで泥酔したアキラ・セイルーンが、大声で囃し立てました。 「ええい、静かにするのじゃ」 ルシェイメア・フローズンが、アキラ・セイルーンを殴り倒して静かにさせました。 「それじゃ始めまーす。動物の皆さん、にゅーじょーですよー」 「最初は僕たちの番だね。かけ声はいいけれど、手拍子はなしでお願いするよ」 そう言って、リアトリス・ブルーウォーターが、スプリングロンド・ヨシュアとサフラン・ポインセチアと共に立ちあがりました。 「いや、動物の皆さんというのは……。まあ、いいか」 気にしていたらきりがないと、スプリングロンド・ヨシュアが、ニコニコしている宇和島凛をみて小さく溜め息をつきました。 ステージにリアトリス・ブルーウォーターが立つと、スプリングロンド・ヨシュアが軽快に太鼓を叩き始めます。 歌……と言うのでしょうか、なんだか狼の唸るような声にしか聞こえないスプリングロンド・ヨシュアの歌で、リアトリス・ブルーウォーターのフラメンコが始まりました。 軽快な、明るいアレグリアスです。 きびきびと腕を曲げてフラメンコ特有のポーズを決めながら、リアトリス・ブルーウォーターが踊ります。その周囲を、サフラン・ポインセチアがクルクルと優雅に飛び回りました。ハーフフェアリーでありながら、その姿は羽の生えた空飛ぶイルカですので、なんだかとっても奇妙な感じです。 リアトリス・ブルーウォーターのフラメンコは正統派のきちっとした物なのですが、周囲を飛び回るサフラン・ポインセチアが楽しくなってきて、スプリングロンド・ヨシュアからもらったボールを鼻先でひょいひょいとリアトリス・ブルーウォーターに投げ渡し始めました。それを、リアトリス・ブルーウォーターが、踊りのポーズを崩さずに弾き返します。いつの間にやら、調子に乗ってきたスプリングロンド・ヨシュアがコサックダンスの要領で足をのばして踊っていました。 はっきり言って、いったい何の踊りなのか分からないことになってしまっています。 「盛りあがってきたねー。盛りあがりなら任せとけー!」 リアトリス・ブルーウォーターたちの芸が終わると、飛鳥桜が炬燵からすっくと立ちあがりました。 「846プロ所属アイドルヒーロー! 歌いまーす! 君たちの目を奪っちゃうよ☆」 マイク片手に、飛鳥桜が踊りだします。 「おお、結いっ子だ。結いっ子の連続だわ!」 フェイ・カーライズが歓喜の声をあげます。リアトリス・ブルーウォーター?といい、飛鳥桜といい、ポニーテール、ラブです。 「ほっほっ、変わったお嬢さんたちが多いのう」 手拍子をしながら、伊東一刀斎が言いました。 「あれは論外」 フェイ・カーライズが、ポニーテール?の伊東一刀斎を見て、ぷいと横をむきました。 「ふふふ、お前たちも結わないか?」 ルシェイメア・フローズンとセレスティア・レインの金銀の髪を見て、フェイ・カーライズが手をワキワキさせてじりじりと近づいていきました。 「よおし、次はオレだあ!」 庭でアーマード・レッドたちと一緒に飛鳥桜の歌を聴いていた大谷地康之が、大声で手を挙げました。 庭にあった物干し竿を勝手に外すと、それを槍に見立てて演舞を始めます。 振り回される物干し竿に、ノール・ガジェットたちが厨房脇へと避難しました。 「面白そう……」 芸に興味を持ったのか、ネームレス・ミストが瘴龍の方へとむかいました。 「あれ……? レッド……いない?」 瘴龍を見ていてくれたはずのアーマード・レッドの姿が見えないので、ネームレス・ミストがキョロキョロと周囲を見回しました。