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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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 同時刻 葦原島 イコン整備施設前方

『で、具体的には何か策はあるのか? お前のことだ。まさか本当に全機を斬り倒すことだけしか考えていないなんてことはないだろ?』
 疾走する魂剛のコクピットにアサルトヴィクセンからの通信が入る。
「左様。まずは時間を稼ぎ、そして将を討つ! その為にも一騎討ちを申し込む」
 即答する唯斗。
 通信機からは恭也の息を呑む音だけが伝わってくる。
 どうやらかなり驚いているようだ。
『ったく……全機斬り倒すのと同じくらい無茶じゃねえか。まぁでも、いくらか現実的か――』
 ある程度納得したのと、唯斗が本気なのを察したのか、恭也の声も妙に落ち着き払ったものになる。
『それで、どうやってそれを申し入れる気だよ? まさか頼み込んだところで聞いてくれるような相手とも思えねえぜ?』
 それに対し、唯斗は過去の戦いを思い起こしながら答えた。
「――全く取りつく島がないわけではない。かつて俺が刃を交えたあの名も無き武者……かの人物と同じ魂を持つ者が乗っているならば、こちらが一人の武人として申し入れたことを無碍にはせぬ筈」
『なるほど、たとえ奴等がテロリストであっても、同時に一人の武人である以上は、その生き様に恥じない戦い方をする筈、か――』
 唯斗の考えを理解した恭也はそれ以上口を挟むことはなく、しばし無言の時間がコクピットを支配する。
 ややあって先に口を開いたのは恭也だ。
『よし――その話、乗ったぜ。唯斗、お前には黒ドンナーに向かってもらおう』
「柊……」
『その後はマネキのアワビ要塞と協力し、周囲の雑魚ドンナーとフリューゲルの相手を引き受けるさ。つーわけだ、早く行け』
「済まない……感謝する!」
 唯斗はより一層強くペダルを踏み込み、更に魂剛を加速させる。
 それと同時、前方から疾走してくる“ドンナー”部隊も速度を上げたようだ。
 双方が加速し、彼我の距離は一気に縮まる。
 そのせいか、“ドンナー”部隊の機影は魂剛のモニターの中で一気に大写しになる。
 改めて息を呑む唯斗。
 一方、モニターの片隅ではアサルトヴィクセンが足を止め、両肩の荷電粒子砲へとエネルギーを充填しているのが見える。
『おっし! 最初からデカイの一発行くぜ――くらいやがれ!』
 魂剛が疾走から飛翔へと転じた一瞬後。
 唯斗がペダルに乗せた足に力をかけた一刹那後という絶妙のタイミングでアサルトヴィクセンから荷電粒子砲が放たれた。
 長大な光条――まさにほとばしる光の奔流が“ドンナー”部隊を真正面から呑み込まんと襲いかかる。
 その光景はさながら巨大な光の獣が、向かってくる人間を丸飲みにせんとするかのようだ。
 破壊力の塊たる光条が“ドンナー”部隊を根こそぎ蒸発させるその直前、コクピットに聞こえてきたのは驚愕に震える恭也の声だった。
『な……マジかよ……!』
 なんと“ドンナー”部隊は手にした対イコン用ビームコート式大型高速振動ブレードを正眼に構えると、刀身にビームエネルギーを纏わせる。
 そして、そのまま荷電粒子砲の光条を斬りながら進んできたのだ。
 荷電粒子砲の砲撃を前にして彼等は、文字通り進路を切り開いてしまったのである。
 進路を“切り開き”ながら疾走してくる“ドンナー”部隊。
 彼等は荷電粒子砲の発射中ゆえにろくに動けないアサルトヴィクセンへと殺到する。
 一方、“ドンナー”部隊が前進を止めなかったせいで、奇しくも彼等をまとめて飛び越える格好となった魂剛は後方に立つアサルトヴィクセンを素早く振り返った。
「柊! 待っていろ、今すぐ助太刀に――」
『――そうじゃねえだろ』
 魂剛を急速回頭させて援護に向かおうとする唯斗の言葉を、恭也は即座に遮った。
『忘れたのか? 俺の仕事はお前をあの黒ドンナーの所まで行かせること、そんんでもってお前の仕事はあの黒ドンナーと一騎打ちすることだろうが……俺は俺の仕事を果たそうとしてんだ、なのにお前が放棄してんじゃねえよ」
「柊……!」
 それでも振りきれそうにない唯斗の背中を押すように、恭也は不敵に笑って言い放った。
『まさかこいつも忘れたのか? 出来る限り動きを人間に近づけた近接機体なんぞ最近まで天御柱に居た俺としては別段珍しい敵じゃねぇ。真司の最新機体ゴスホークもモーショントレースシステムを搭載してたし、むしろゴスホークに比べりゃ敵機の動きなんざ対した事はねぇ――そう言ったばかりだろうが』
「重ね重ね済まない――恩にきる」
 それだけ応えると、唯斗はペダルを力の限り踏み込んだ。
 唯斗の意志を汲み取ったかのように、魂剛は更に飛行速度を上げていく。
 そして、アサルトヴィクセンの機影は瞬く間に遥か後方へと遠ざかっていった。