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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

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 蒼空へと飛び立ってからほどなくして、既に迅竜はツァンダが遥か彼方の位置にいた。
「現在、迅竜の稼働は安定域に突入。引き続き最大船速を維持」
 ダリルが告げると同時に艦の状況を示すグラフが更新される。
 現在、迅竜のブリッジではルカルカが指示を飛ばしていた。
「ダリル、葦原島までの到着時間は?」
 そろそろこの質問が来る頃合いだということを予測していたのだろう。
 ルカルカが問いを発する僅かに前からダリルの両手はコンソール上を走り回っている。
「現在の位置はこの地点、そして迅竜の航行速度を考慮すれば――」
 一つ一つ丁寧に説明しながら、算出された数値を告げていくダリル。
 それを聞き、ルカルカは複雑な表情だった。
「これは喜ぶべきことなのかしら」
 難しい顔で呟くルカルカに、すかさずダリルは応えた。
「だろうな。確かに明倫館で応戦中の紫月たちを待たせる時間だけを見れば内心穏やかではいられない。だがな、逆に考えればこの程度の所要時間で到達できること自体がそもそも行幸だ。むしろ、それ以上を望むのは贅沢というものだろう」
 まるでルカルカを諭すように言うダリルにルースも相槌を打った。
「ダリルの言う通りですよ。これだけの巨体でありながらこんな速度が出てるんだ。現状のような緊張した場じゃなきゃ、腰を抜かしてたかもしれませんしね。まさに“超弩級高速飛空艦”って肩書きも、“迅竜”って名前も伊達じゃないってもんです」
 ルカルカたちが言葉を交わしていると、機材をまとめたクローラが立ち上がる。
 クローラの相棒であるセリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)はすかさずその意図を問いかけた。
「何故、直接二連機砲の発射席に行かないの?」
「コンピューターを守る役目もあるからな」
「敵が中に入ってるって事?」
「居ない方がいいんだが……」
 そう答えるクローラの準備は万端だ。
 外部からのアクセスを警戒して扉は電子ロックの他に物理でも施錠できるように専用の錠前を用意。
 物理侵入での毒物等に備え、目はゴーグル、口はポータラカマスクで覆えるようにと、各種防護装備も用意してある。
 クローラはルカルカに向き直ると、敬礼とともに告げる。
「俺とセリオスはコンピューター室から二連機砲を一門ずつ遠隔制御して敵を迎撃します」
 クローラに答礼すると、ルカルカはクローラに言った。
「了解よ。対空砲火をよろしくね」
 クローラたちがコンピュータ室に向かうのを見送ると、ルカルカはマイクを手に取ってダリルへと向き直った。
「葦原島なら唯斗が応戦中のはず。魂剛に繋いでくれる」
 ルカルカからの頼みがあった時、やはりダリルは既にコンソールを叩いていた。
 コンソールを叩きながらダリルは即座に返答する。
「既にさっきから何度も呼びかけてるが応答がない。唯斗に限ってまさかとは思うが――」
 それから先はあえて言わず、黙り込むダリル。
 ルカルカもそれを察してか深く追求せず、努めてすぐに気持ちを切り替えた。
「ならハイナに繋いで。救援要請を送ってきたのはイコン整備施設を視察中だったハイナのはず。施設をまだ防衛できているなら連絡が取れるはずよ」
「そう言うと思って既に回線を開いて、今まさに通信を送ってる。もし無事ならそろそろ応答が――」
 ルカに返答しながらコンソールを操作していたダリルはやおら会話を止めた。
 会話を止めた直後、ダリルは僅かではあるが微笑むと、やはり僅かではあるが安堵したように息を吐いた。
「――どうやら来たみたいだ。すぐそっちに繋ぐ」
 ダリルが言うが早いか、艦長席のモニターに『TELECOM RECEIVED』の文字が表示される。
 間髪入れずルカルカが艦長席のコンソールを叩くと、モニターの画像が青緑色のロングヘアーが特徴的な妙齢の女性に切り替わった。
 それと同時に通信機からは流暢な花魁言葉が聞こえてくる。
「葦原島のハイナでありんす! おんしらが教導団から来てくれる救援部隊でありんすね」
 声といい喋り方といい、ハイナ・ウィルソン(はいな・うぃるそん)に違いない。
 それに安堵すると、ルカルカは引き締まった声で答えた。
「こちらは九校連所属飛空艦“迅竜”。そして艦長のルカルカよ。現在、本艦は葦原島に向けて急行中」
 名乗ってからルカルカはふと気になったことを聞いてみる。
「先程からこちらでも呼びかけているのに紫月機……魂剛から反応がないわ。もしかして、何かあったの……?」
 恐る恐る問いかけると、通信の向こうでハイナが辛そうに息を漏らしたのが伝わってくる。
「魂剛は……唯斗は最後まで武士として何一つ恥じる事無い生き様を貫き通して……名誉の討死にを遂げたでありんす――」
 ハイナより告げられた事実にルカルカは愕然とするも、自らを奮い立たせてじっと堪える。
「唯斗の魂剛を含め、動けるイコンは二機だけだったでありんすよ。それでも二機は最後まで戦い抜いて、果てるその瞬間まで葦原島を守り抜いたでありんす」
 毅然と語るハイナだが、ショックを少なからず受けているであろうことがルカルカにはわかった。
「現在、応戦中の戦力にイコンはもうないでありんす……」
 苦しげに告げるハイナ。
 彼女を勇気づけるように、ルカルカは力強く言い切った。
「到着まで持ちこたえて。必ず助けにいく」