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【第三話】始動! 迅竜

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【第三話】始動! 迅竜

リアクション

 同時刻 葦原島 イコン整備施設より数メートル前の地点
 
 荷電粒子砲の発射を終えたアサルトヴィクセンのコクピット。
 メインパイロットシートに座る恭也はサブパイロットシートの岱にだけ聞こえるように言った。
「唯斗のやつ……ようやく行ったか」
 苦笑してそう呟く恭也の前にはコクピットのモニター。
 そしてモニターには十四機の“ドンナー”が所狭しと映し出されている。
 画面を埋め尽くする“ドンナー”の隊列を見ながら、恭也は苦笑から不敵な笑みへと表情を変える。
 それを感じ取ったのか、岱も不敵な声音で恭也へと語りかけた。
「やれやれ、相棒も相変わらず無茶するのが大好きだねぇ。それに付き合うこっちも大変だってのに。まぁ、こういった修羅場は大好きだけど」
 すると恭也も同じく不敵な声音で岱に応ずる。
「ったく、それはさっき聞いたっての」
「細かいことはよいではないか――さぁ相棒、楽しいダンスの時間だよ!」
「応よッ! さぁて、敵機十六機に迎撃イコン二機というこの修羅場。葦原の為にも切り抜けて見せるさ!」
 獣が咆哮するように言い放つ二人。
 その直後、恭也は床を踏み抜かんばかりの勢いでペダルを踏み込んだ。
 まるで追突されたかのような衝撃と加速が一気にコクピットへと押し寄せ、爆発的な加速力を以てアサルトヴィクセンの機体が疾走する。
 左手に機晶ブレード搭載型ライフル、右手にレーザーマシンガンを握り、疾走するアサルトヴィクセン。
 アサルトヴィクセンは二挺の銃口を“ドンナー”部隊に向けると、疾走しながら撃ちまくる。
 しかし“ドンナー”もさるもの。
 先刻と同様にビームエネルギーをコーティングした刀身を振りかざし、光条の銃撃をことごとく斬り落としていく。
 一気にアサルトヴィクセンと至近距離まで接近した“ドンナー”の一機が刃を振り上げる。
「二時の方向だ! 避けろ相棒!」
 コクピットシステムがアラートを表示するよりも早く、岱が警告を発する。
「応よッ!」
 それを受け、恭也は操縦桿を巧みに操り、機体を左側に向けて僅かに動かし、半身を引く動きをとらせる。
 直後、大上段に振り下ろされる大型高速振動ブレード。
 その刃は寸でのところで空を切る。
「危ねぇ……助かったぜ」
「礼には及ばん。また来るぞ、次は九時の方向だ!」
 やはりコクピットシステムよりも早い岱の警告。
 それにより恭也はまたも敵の刃を回避する。
「こちとらお前らのトンデモ改造機体とは一味違う第三世代機なもんでね――第三世代機を舐めるなよ、鏖殺寺院!」
 機外スピーカーで言い放ちながら、恭也は操縦桿に取り付けられたトリガーを引き、二挺の火器で応射する。
 アサルトヴィクセンは前方に伸ばした両手で二挺を連射し、正面から攻めてくる敵を牽制。
 その直後、素早く両手を交差させ、アサルトヴィクセンは左右からの敵にも銃撃する。
 機体管制を担当する岱と操縦を担う恭也。
 二人の絶妙な連携でアサルトヴィクセンは敵の攻撃を紙一重で次々と避け、僅かな隙も逃さず応射を繰り出していく。
 二人の技量に第三世代機の性能もあいまって、アサルトヴィクセンは十四機の“ドンナー”を相手に獅子奮迅の戦いを見せていた。
 もしこれが一対一、ないしは一対二か三であったのなら、たとえ“ドンナー”が相手といえどもアサルトヴィクセンは今頃単騎での勝利をおさめていただろう。
 だが、敵の数は十四機。
 その数は単純ながら確たる力となってアサルトヴィクセンを叩き潰しにかかった。
 避け損ねた刃の先が装甲を削り。
 一方の機体が振るった刃を避けた所を狙って繰り出された別の斬撃が機体に深い傷を刻み。
 銃撃するまさにその瞬間に生まれる隙をつくように放たれた刺突が機体の大腿部を貫く。
 総勢十四機という数の暴力を前に、アサルトヴィクセンはじょじょに傷ついていく。
 それとは対照的に“ドンナー”各機はところどころ銃撃を受けて傷ついてはいるものの、それほど重大な傷ではない。
 中にはせいぜいかすっただけの――それこそ無傷とさほど変わらない機体までいる。
「右だッ! 三時の方向……!」
 相変わらずコクピットシステムよりも早い岱の警告を受けて恭也が敵の刃を回避する。
 もっとも、ところどころに蓄積した機体へのダメージはセンサーにも及んでいるらしく、こんな状態ではアラートなどあてにできそうにないが。
 センサーだけではなく、ダメージは駆動系にも及んでいるのか、アサルトヴィクセンの体捌きにも精彩がない。
 きっと先程、大腿部を刺された時のダメージだろう。
 それでも立っていられるだけマシと思わねばらない、今はそんな状況だった。
 精彩を欠いた体捌きでは完全に刃を避けきれず、今度は上半身の推進機構が斬り裂かれる。
「次いで左! 十時の方向から来るぞ!」
 それでも敵は待ってくれない。
 推進機構へのダメージがあったことを告げるアラートメッセージとそれによる動作不良を伝えるエラーメッセージがモニターを埋め尽くすが、それを無視してペダルを踏み込むと同時に操縦桿を倒し、短期間での噴射を行う。
 推進機構からの噴射によって即座に加速したアサルトヴィクセンはからくも十時方向からの斬撃を避けるも、ダメージに構わずブーストをふかしたせいで起きた推進機構の爆発で前につんのめる。
 殴られたような衝撃を受けてあやうく倒れかけるも、足を踏ん張ってなんとか立ち続けるアサルトヴィクセン。
 しかし、動きが止まったその瞬間を狙って二機の“ドンナー”が正面から突撃し、疾走の勢いを乗せた刺突を繰り出した。
 突き立てられた刃は二本ともアサルトヴィクセンの胴体を貫き、鍔元まで深々と突き刺さる。
 刃の突き立った場所はイコンにとっては急所中の急所といえる場所の一つ――コクピット。
 二本の刃は狙い過たず、メインパイロットシートとサブパイロットシートの辺りを貫いていた。
「ぐっ……はっ……ぁ! ……生きてるか!」
 血を吐き出しながら恭也は岱に問いかける。
「……そちらこそ生きているようで何よりだ……相棒」
 同じく血を吐きながら、消え入りそうな声で岱も答える。
 紙一重で直撃こそ免れたものの、コクピットを貫いた大型高速振動ブレードは大質量が激突した衝撃と刀身が発する振動により、恭也と岱に重傷を与えていた。
 それ以上に被害を受けたのは、コクピットシステムだ。
 驚くべきことにまだシステムダウンしてはいないが、じきに全ての機器が停止するだろう。
「どうする……脱出するか?」
 岱の問いかけに対し、恭也は不敵に笑う。
「へっ……こんなデカいヤッパが突き刺さってるコクピットが外に飛び出せるかよ……! 出たら出たで外にはトンデモ機体どもがウヨウヨしてるしな。それに……唯斗の仕事はあの黒ドンナーと一騎打ち、俺の仕事は――」
「――そうだったな。ならば、あたしらはあたしらの仕事を続けよう――九時と三時の方向……左右からの同時攻撃でトドメと洒落こむつもりのようだね」
 皆まで言わずとも恭也の意図を理解した岱はただそれだけを告げる。
 直後、アサルトヴィクセンはだらりと下げていた両腕をいきなり上げ、銃を握った左右の手を突き出した。
 とうに力尽きたと思っていたのか、左右から疾走してくる“ドンナー”には意外だったのだろう。
 急なアサルトヴィクセンの動きに対応できず、突き出された銃口に自ら体当たりする格好となる。
 そして、左右からの二機と左右への銃口が同時に零距離となった瞬間、恭也はありったけの力でトリガーを引いた。
 操縦桿を握り潰さんばかりに引かれたトリガーからの信号を受けて、アサルトヴィクセンの握る二挺は残るエネルギーをフルオートですべて吐き出す。
 零距離からのフルオート掃射を、それも胴部へともろに受けてはさしもの“ドンナー”も耐えきれない。
 ダメージが許容限界点を超えた二機の“ドンナー”は今までの機体がそうであったように、自ら大爆発して木端微塵に四散する。
 爆破の直前、左右の銃口を突き出して“ドンナー”の機体を突き飛ばしたことで、アサルトヴィクセンはからくも大爆発の直撃を免れる。
 とはいえ、余波によって受けたダメージは深刻だった。
 あちこちの装甲板がはじけ飛び、また一つセンサーがバカになったようだ。
 加えて、二挺の火器はどちらもフルオートでの全弾掃射によってエネルギーが尽きている。
 まさに満身創痍の状態となったアサルトヴィクセン。
 しかし、この機体の奮戦はまだ終わらない。
 アサルトヴィクセンはエネルギーが空になった二挺を放り、素早く両手を空ける。
 その行動にただならぬものを感じ取ったのか、コクピットを刺している二機の“ドンナー”は揃ってブレードを引き抜き、そのダメージを以て今度こそアサルトヴィクセンにとどめを刺そうとする。
 だが、アサルトヴィクセンがフリーになった両手で、ブレードを引こうとするそれぞれの“ドンナー”の手首を掴み、しっかりと捕まえる方が早い。
 恭也たちの意図を察した二機の“ドンナー”が、その拘束を振りほどこうとするも、既に遅い。
 アサルトヴィクセンの両肩に、この機体に残った全てのエネルギーが収束していく。
 焦ったようにアサルトヴィクセンの手を振りほどこうともがく二機の“ドンナー”の姿をコクピットのモニターで見ながら、恭也は血の垂れる口元に不敵な笑みを浮かべる。
 それに合わせてモニターの片隅では、エネルギーの充填状況を現す円グラフが半月状から満月状へと変わっていき、やがて完全な円となる。
 真円となったグラフを見て取ると、恭也はもう一度不敵な笑みを浮かべて言い放つ。
「第三世代機を舐めるなよ、鏖殺寺院!」
 そして恭也は拳を握り、コンソール上に設えられた荷電粒子砲の発射ボタンへと叩きつけた。
 叩き押された発射ボタンからの撃発信号を受け取った荷電粒子砲は、アサルトヴィクセンに残った全エネルギーをつぎ込んだ最後の一撃を解き放った。
 肩部に搭載された砲口から放たれた長大な光条は、零距離から二機の“ドンナー”を呑み込み、その上半身を跡形もなく消し飛ばす。
 下半身だけになった二機の“ドンナー”が大写しの映像を最後に、コクピットのモニターはブラックアウトする。
 続いて他のシステムもすべてダウンし、コクピットは闇に包まれた。
 あとはただ、残った二機の下半身の自爆装置が作動し、激しい爆発がアサルトヴィクセンの機体を揺する衝撃となって伝わってくるだけだった。